赤い答案用紙

藤原くう

赤い答案用紙

 2月といえばバレンタインだのなんだの浮かれますけど、受験生にとってはそんな余裕はないでしょう。


 私もその一人でした。


 今はなきセンター試験を低空飛行で乗りこえた私は、二次試験を目前にしていました。


 正直、私は焦っていました。ニートを脱却したばかりの私は、両親に多大な迷惑をかけていましたし、このままじゃ志望校に落ちるんじゃないかと不安で不安で仕方がなかったんです。


 だからでしょうね、手をつないで歩いてるカップルが憎い、チョコレートショップに入っていくやつらなんて爆発してしまえばいいと本気で思ってました。


 某アニメに【血のバレンタイン】ってあったじゃないですか。ああなればいいのに――なんてね。今思えば恥ずかしいんだけど。


 ま、そんなアツアツのやつらを横目に勉強を続けて、ついに二次試験の当日を迎えたわけですよ。


 その日は非常に寒かった。


 私は今も昔もガリガリで、筋肉も脂肪もないもんだからものすごく寒がりです。その時もめちゃくちゃに着こんでいった。


 コートにセーター、シャツにインナー、ジーンズもあったかいやつだったかな。その上からマフラーと手袋という完全装備。カイロまでしてましたから、木枯らし吹く中でもあったかポカポカでした。


 でも、講堂の中に入るとメチャ暑かったんですよ。受験生を思ってなんでしょう、暖房ガンガンで。


 私はコートを脱ぎました。それでも暑い。マフラーと手袋をはずしたって焼け石に水です。


 ……実際はそんなに暑くなかったのかもしれません。私はめちゃくちゃ緊張しいで、緊張すればするほど全身がカッと熱を持つ。


 滑って落ちるんじゃないか――そんなことが脳内でグルグル回るくらいには、ガチガチに緊張してましたから、あのサウナのような暑さは気のせいだったのかも。


 そうこうしているうちに、受験生が集まってきました。


 時計の針がカチコチ動く。はじまりの時間が刻一刻と近づいてくる。


 英単語を食い入るように見つめていた、まさにその時です。


 たらり。


 鼻を伝わる不快感。


 反射的に指で拭えば、生暖かい。見れば、人差し指が真っ赤になってるではありませんか。


 しかも止まりません。真っ赤な液体がドロリドロリと鼻腔びくうを伝って、ぽちゃんと机を赤く濡らす。


 鼻血。


 ストレスか、ガンガン効いた暖房のせいなのか。私、のぼせちゃったみたいでした。


 それからはよく覚えていません。鼻を押さえて、ティッシュを詰め込み、赤く染まったティッシュの塊をジロジロ見つられながら、答案用紙を受け取った覚えがあります。


 気がつけば、試験は終わってましたし。


 ……結果ですか? ものの見事に落ちましたよ。


 答案用紙は血じゃないもので赤かったんだろうなー。

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