姉妹でアイドルやってるんだけど、今度AV出る事になったわ

夢神 蒼茫

 芸能事務所『シスター☆クエスト』


 いくつかのアイドルグループが所属する、程々に名の売れた芸能プロダクションだ。


 この事務所の特色として、社長方針によりすべてのユニットが“姉妹”で構成されている。


 従姉妹でもOKであるが、とにかくそういう方針で統一されており、同一グループ内は絶対に姉妹、ないし従姉妹でまとめられている。



「仲良しアッピルのため、普段から一緒にいるであろう姉妹で統一だ!」



 これが社長命令であり、至上命題だ。


 実際、『シスター☆クエスト』に所属するアイドルは、姉妹で一まとめにされており、 今事務所にやって来た女の子も、姉妹で一緒に所属している。



「おはようございま~す!」



「お、はるかちゃん、おはよう!」



「プロデューサーさん、おはようございます」



 社会に出るうえで、“アイサツ”は大事である。


 そこは高校2年生(17歳)とはいえ、アイドルという客商売をやっている以上、基本中の基本だ。


 お辞儀も丁寧に、プロデューサーに挨拶する女の子であった。



「丁度良かった! 今、次の仕事が入ってね。その話をしようかと思っていたんだ」



「あ、そうだったんですか! それで、次の仕事って何ですか?」



「猫ちゃんとの撮影会だ」



「猫?」



「ああ。クライアントから、『猫と女の子の画が欲しい』って依頼が入ってね。んで、それを遥ちゃんとまといちゃんに任せようかと」



 まといはるかの妹で、高校1年生(16歳)だ。


 学年違いであるが、同じ高校に通っており、今日も一緒に事務所へ来る予定であったのだが、間の悪い事に掃除当番を割り当たられていたため、一足先に姉の方がやって来たと言う訳だ。



「わ~、猫ちゃんいいですね! 私、猫派ですから!」



「そりゃ良かった!」



「でも、纏は犬派なんですよね~」



「そこはそれ。姉として洗脳ふきょうしろ」



「Pさん、発言が不穏当~」



「はっはっはっ! あ、撮影は社長宅でやる事になってるから!」



「社長さんのおうち? ……あ、そういえば、社長、猫を何匹か飼ってましたね」



「そうそう。猫って、下手に動かすと機嫌損ねやすいから、いっそ慣れた家で撮影してしまおうって事になってね」



「分かりました!」



 ここでピロピロピロと事務所の電話の着信音が鳴る。


 プロデューサーはすぐに受話器へと手を伸ばす。



「お電話ありがとうございます、『シスター☆クエスト』です。……あ、例のパンフとポスター、仕上がりましたか!? すぐに受け取りに行きます!」



 ガチャンと勢いよく受話器を置くと、プロデューサーは机の上に置いていた車のキーを握った。



「すまん、印刷所に頼んでいた物が仕上がったみたいで、取りにいてくるわ。仕事の話は、詳しくあとでやる!」



 そう言ってプロデューサーは事務所を飛び出していった。


 姉妹ばかりでユニットを組むという特色から、一部では名の通った芸能事務所とは言え、規模としては大した事はない。


 人手はいつもギリギリであり、スタッフは何重にも仕事をこなさなくては回らない。


 それを知っているので、はるかは置いてきぼりにされても気にもかけない。


 そもそも、仕事はいつも妹のまといと一緒なので、どうせ詳細を知るのであれば、一緒の方が時間短縮にもなる。


 そう考えると、慌てる事などなに一つもないのだ。



「おはようございま~す☆」



 遥がのんびり事務所のソファーに腰かけていると、元気のよい女の子の声が響いて来た。


 聞き慣れた声であり、それは妹のまといであった。



「あ、纏ぃ~、さっき、プロデューサーから聞かされたんだけど、次の仕事が入ったんだって」



「あ、そうなんだ。んで、お姉ちゃん、どんなお仕事?」



「ずばり、AV(アニマルビデオ)の撮影!」



「……は!? AV(おピンク系妄想爆裂映像販売物)の撮影ですって!?」

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