No title -Beast human- V

キオク

獣人V

「仏の掌に包まりウトウトしている間に時間は

光の速さで通り過ぎていく」


Vは、狼と人間のハーフである。


彼がこの世に生を受け生まれおちた

とき。


世界は闇と光の混ざり合うマーブル模様を

描いていた。


その時すでに彼の母親(人間)は失踪し、

父親(獣)はこの世に居なかった。


彼は己の力と、彼を拾った

僻地にある村の長老によって生かされた。


愛憎、苦楽、葬送曲、天上歌。


相反する感情に葛藤する獣人、

Vの生きる術とは?


「蓮の花枯れる間に

星の一生全うする」


花は咲き、種を残し枯れ土に帰り

循環する。


オラはヒトの言葉を発することは出来ないが、鳴く、唄う、走る、狩る、火を熾すことは出来る。


簡単な文字は書くことが出来る(こんにちは、ありがとう、おやすみ)。


数ヶ月前天寿を全うした長老の孫が

オラの唯一の友人だ。


数日前、この辺りの地域を荒らし回る、


iという片目の賊の一味が流れつき、とうとうオラ達の村を襲う事件が起きた。


村の皆からⅰを追い払うよう頼まれ、昨夜より焚き火を焚き、夜警を始めた。


が、iは現れる気配が無い。


近いうち、オラは村を出、

狩りをしようと考えている。


だが、ⅰのことが気がかりだ。


村の皆を放っておくわけにはいかぬ。


星が命を全うするまで、村に留まる決心をした。


狩りに出るのはそれからだ。


今しがた、青く鋭利な月が顔を出した。


(ウミソラが···来る···!)


Vは、巨大な生物の気配を

そこはかとなく感じた。


iの率いる集団を追い払う為、

夜警の最中に焚き火を続けていた。


その時、酸性雨で枯れ果てた森の奥から

禍々しい気配を感じた。


「なんだ...?」


小脇に置いていた自作のこんぼうを握りしめる。


「たぶんこれは熊の気配じゃない。

もしや長老の話していた

"ウミソラ"か...?」


(百枚の未読メッセージ)


森の木々を薙ぎ倒し何者かが近付いている。

Vは、こんぼうを手に轟音が聞こえて来る方角を睨んでいる。


(だんだんおとちかづいてくる)


ウミソラなのか、それとも吹き荒れる

嵐が迫っているのか。


それが一体どんな姿かたち色をしているのか見当もつかないが、山ほどの巨大な大きさだということは立てている音から野生の勘で分かっていた。


Vはこんぼうを投げ捨てた。


(こんな棒役立たない)

(早く村みんな知らせ遠く離れないと)


しかし不安と怖れで身体は思うように動かない。


森、メキメキメキ...という樹木折れる音を立て始め、紫色に染まった空に葉や枝が舞い

やがて雷鳴が轟いた。

咆哮、またひとつ咆哮。

もう朝が近い。


その巨体が、もの凄い速度でVの目の前に現れるまで

時間はかからなかった。


巨大な黒い翼を持つ生き物と対峙し、

Vは声にならない声で雄叫び飛びかかった···


(ギャオワゥォォ゙ヴ···)


Vは、長老から譲り受けた形見の弓を

取り出し、矢を引き絞り巨大生物に

向け放った。


矢は標的に命中したが、怯む様子は

無い。


体表はゴツゴツした溶岩に似た

硬い鱗のようなもので覆われていた。


Vは諦めず2本目を構えた。

狙いは外れ、頭部のこめかみ辺りを掠めた。


(ち、ちっくしょお)


Vはヤケになり、弓を諦め身体ごと体当たりしていった。


ギガント生物は上空に舞い上がり翼をはためかせ身体の向きを変えた。

嗚呼無情。Vは、土にまみれ転がった。


(((( ムダだ )))))


(???)


((((( お前は我を傷付けることは

出来ない )))))


(ひょっとして...オラに話しかけているのか?)


((((( そうだ。お前は我の声を受け取る能力がある。獣の血が共鳴している)))))


(ああ! そのとおり。オラは獣人だ。。

あんたは何なんだ?)


((((( 我は海空知···この世の不吉を告げるもの)))))


(やはり長老の話していたやつか···)


((((( 我とともに来い )))))


( ? )


((((( この星の危機を救え。···グェッ)))))


( どうした? )


((((( 我は永く生きすぎた。もう永くない。大樹の怒りを鎮めるのだ··· )))))


(ちょっとまってろ。マルコを呼んでくっから)


Vは転び転び裸足で村へ駆けて行く。


(バッド·フレンド)


もうじき異母国村に朝が訪れようとしていた。


Vは、マルコの家までやって来た。


(マルコ···!)


窓を拳で叩く。


「ん~~」


(起きてくれ···)


「何なんだよ、朝っぱらから」


(出たんだよ)


「···iの奴らか? ていうか鼻血出てるぞ」


マルコの指が素早くなった。


(いや。 もっとでけえやつだ。

じいさんのはなしてた、でっけえやつ)


「ウソだろ···ま、まさか、う、海空知!?」


(うみそらケガしてる。ムラの

レイバイシ、どこだ)


「シドは、まだ夢の中だよ···! 」


(そんじゃピエールのやつは?)


「いつものフライパン·レイクへ釣りに行ってるさ」


Vの指が止まった。


(そうか···)


「俺が行こう。鼻血を拭いてくれ」


マルコは布切れを差し出す。


(うん。来てくれ···ん···?ってコレばあちゃんのアレじゃねぇか···)


Vはそれを生まれて初めて珈琲を飲んだ子どもみたいな顔をして受け取る。


Vの指が、生き生きと喋りを再開した。


(夢幻)


Vと長老の孫マルコは、村の外れにある焚き火跡へ戻った。


辺りは静けさに満ちていた。


朝方の月が歯ざわりの良いおせんべいみたく輝く。


「おい、でかいやつはどこだ···」


(いないな···)


「羆と見間違えたんじゃ···」


(ちがう、たしかに"アイツ"いた。

俺のココはなしかけてきた)


Vは己の胸を拳で叩いた。


「ったく。眠いから···帰るぞ。···お前夢でも見てたんじゃねえのか?」


Vは肩を落とす。

何かがおかしい。


風も凪ぎ空の色コーラルピンクと

コバルトブルーのグラデーションに変わっている。


鶏も鳴き始め、村の人々が各々生活を営み始めていた。


マルコはあくびしながら家に帰ってしまった。

おそらく父親と狩りに出かけるのだろう。


Vは一人呆然と立ち尽くす。


くじらに似た雲の流れる様を眺めていた。


さて、ピェールに釣果でも聞きに行こうか···。


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白い鳥が滑空しながら、獲物を狙い様子を伺っている。


ピェールは、深緑いろのチューリップハットを被り釣り糸を垂れ鏡のような

湖面を見つめていた。


「今日は駄目か。。 早起きして朝マズメ狙いで来たのになー」


糸を手繰り、餌を新しい虫に付け替えた。


切り立った崖の上からそーっと、音を立てないよう岸際に落とす。


聞こえてくるのは、風と、葉が擦れる音、時折鹿や雉の仲間を呼ぶ声だけだ。


まるで風景の一部になった気分だった。


じきに太陽が高い位置に登り始めた。


「帰ろう。野良仕事の時間だ」


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