第12話 世界樹の魅力−ディザリエ国王視点−

 余が王位を継いだ頃には既に北の森の恐怖は世間に浸透していた。なぜ北の森は方向感覚を失ってしまうのか。

 船でこの島の裏側に回ってみても高い山脈で囲われており、上陸する事は出来ない。

 一体森の奥には何があるのか。本当に悪魔が棲んでいるのだろうか。


 そんな建国以来の謎が、ある一人の娘によって明らかになった。妖精族の存在。妖精の国の存在。そして、世界樹という不思議な木の存在。

 その娘、フィオナによればマギア鉱石は世界樹の力の欠片であるとのこと。我々の生活には欠かせない魔導具の原料であるマギア鉱石の力の源。

 それに、妖精族も素晴らしい能力を持っている。彼らは魔法に長けており、その能力は我々の魔法の常識を遥かに超えていた。


 長年悪魔かと思っていたその者らは、悪魔どころかこちらに利益をもたらしてくれる存在であった。是非に仲良くしたい。心の底からそう思って、妖精王と密約を交わした。

 すぐに友好同盟を結ぶという訳にはいかなかったが、密約を交わす事が出来た礼だと言って、妖精王から“聖なる種火”を授かった。

 その種火は水をかけても消えることがなく、その火の魔力は邪心を持つ魔物から我々を守ってくれる“結界”という魔法の源になった。その結界を城下の周辺や街道に設置する事で我々の生活は格段に安全になり、より豊かなものとなった。


 聖なる種火。素晴らしいものだ。しかもその種火は世界樹から採れるものだという。つまり、その世界樹さえ手に入れば、魔導具も、魔法も、結界も、今とは比べ物にならないくらいに躍進することが出来る。


⸺⸺欲しい。


 世界樹を我が物にしたい。


 初めは純粋に妖精族と仲良く出来ればいいと思っていたが、彼らの事を知れば知るほどどんどんと欲が溢れ出してしまった。


⸺⸺


 魔の森での殺生禁止という不可侵条約を結んだため、魔の森の入り口には立入禁止の立て札を立てた。理由は危険だからと適当にこじつけた。

 しかし、ほとんどの民は立ち入らなくなったが、密猟を生業とするハンター共はちらほら立ち入ってしまうようだった。そんなハンターを取り締まっていると、彼らは揃ってこう言い訳をした。

「だって、あの森、危険でも何でもないですぜ! あの森の魔物は全く反撃してこないんですよ。これを狩るなって言う方が無理っすよ!」


 魔物が反撃してこない? まさか、妖精族は魔物の統制も出来るというのか。


 私は、更に欲が出た。

「お前、極秘で余に仕える気はないかね? 合法的に魔の森の魔物を狩らせてやろう」

 そうして余は密猟者を雇い、魔の森の魔物のレア素材を独占した。

 もし妖精王にそやつの密猟行為がバレても、取り締まりきれなかったと詫びてそやつを処刑し、新たな密猟者を雇えばいい。

 レア素材は海外の商船に高額で売れる。良いビジネスだ。


⸺⸺


 密約提携後、エイムズ卿は妖精族の存在をまだ隠しておくべきだと断言した。

 ティニーが妖精王の娘であり重要な交渉材料だと周りに分かってしまうと、ティニーを求めて抗争が起こるからだと。

 特に彼の娘のエメリーヌは両親も恐れるほどの野心の持ち主で、ティニーを人質にとって王位を譲れとも言いかねない、との事だった。余もそれは勘弁だったため、エイムズ卿の案を受け入れた。


 そして、もうすぐでフィオナと我が息子ランドルフの結婚だと言う頃、事は起こった。

 研究所から、何者かに流行り病のウイルスを持ち出されたとの報告があった。

 その後フィオナの病の感染が発覚。重度の感染で余命幾ばくもないという医師の診断だった。

 余はまさかと思い、自ら研究所の痕跡を調べたところ、エメリーヌの魔力痕まりょくこんが検出された。間違いない。彼女がフィオナを殺したのだ。

 これが妖精側にバレたら同盟締結は即刻中止になってしまう。そうなれば余のウハウハ計画も台無しだ。これは周りにバレる訳にはいかない。そう思い余は研究所のエメリーヌの魔力痕を消した。


 それに、フィオナが死んだのは余にとっては都合が良くもあった。彼女は純粋な人間ゆえに、余の欲がバレてしまうと彼女にセーブされる可能性があったからだ。

 しかしフィオナは死に、ティニーはエメリーヌが引き取った。これはチャンスである。エメリーヌとランドルフを結婚させて、何かと理由を付けてエメリーヌを処刑。そしてランドルフを通じてティニーをこちら側の都合の良いように教育し、こちら側にもっとも利のある形で同盟の締結に向かわせる。


 完璧すぎる作戦である。こうなった以上、ランドルフにはティニーの重要性を話しておくべきか。あやつは馬鹿だから、とにかく得があると伝えておけば、後は余の操り人形だ。

 その完璧すぎる作戦遂行のため、余は馬鹿息子のもとへと向かった。

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