第4話 妖精の国

『ここがユグドラシアの入り口よ!』

 タニアは自慢気に何も無い森の奥へ手をひらひらとさせている。

「何もないけど!?」

『当たり前じゃない。ニンゲンに侵略されないために幻術の結界を張っているの。ニンゲンがユグドラシアの領土に入りたかったら、妖精族に触れた状態じゃないと入れないのよ』

「そっか……だから、王国はユグドラシアを見つける事すら出来ないんだ。でも、私は……?」

『ティニーには立派な妖精族の血が流れてる。さぁ、一歩踏み出してみなさいな』

「うん……」


 恐る恐る一歩を踏み出す。すると、まるで水に触れたかのように空気が振動し、その瞬間、私の視界には立派な街の風景が広がった。

『ようこそ、妖精王の治める国、ユグドラシアへ』

「うわぁ……」

 森に囲まれ、オシャレなレンガの家々が立ち並ぶ。メルヘンで素敵な街並み。耳の尖った人々が和気あいあいと通り過ぎ、視界に映るもの全てが私の心をときめかせた。


 しかし、そのときめきは一瞬で不安へと変わる。

「えっ……人間族の子……? な、何でこの国に入れたの……?」

 私を見た妖精族の女性が、顔を引きつらせて後退あとずさった。

「何? 人間族だって?」

「本当だ、耳が丸いぞ……!」

「あの、私は……」

 あっという間に妖精族の大人たちに取り囲まれ、その圧に一瞬で縮こまってしまった。


 そのピリついた空気を破ってくれたのは、タニアだった。

『ちょっとー! あなたたち、耳ばっか見てないで、この子の瞳をよーく見ながら魔力を感じてみなさいよ!』

「何……瞳……?」

「まぁ、綺麗なエメラルドグリーンなのね」

「あれ、この魔力……半分は我々妖精と同じ性質だぞ。だから入れたんだ」

「ちょっと待て、この魔力、どこかで……」

「あっ、わ、私……この魔力知ってるわ……!」

 一人の女性がそう言って驚きの表情を見せると、タニアはドヤ顔で『ほら、言ってごらんなさい』と煽った。


「オベロン陛下の魔力とそっくりだわ!」

 その女性がそう宣言すると、周りはより一層騒がしくなった。

「オベロン陛下だと!? た、確かに……そっくりだ!」

「魔力だけじゃない、瞳もそっくりだ!」

「本当だ! まさか君は……8年前にオベロン陛下が人間との間に授かったという……!?」

 私はこくんと頷いた。

「はい、ティニーと言います。今日はお父様に会いに来ました」

「そうか、ティニー様とおっしゃるのか。しかしティニー王女、あなた様がここを訪れるのはもっと10年以上後とわたくし共は伺っておりますが……?」

「はい、あの頃とは状況が変わりました。その事もお父様に報告をしたいのです」

 私がそう返事をすると、皆「そういうことなら」と温かく迎え入れてくれ、行列を作って一緒にユグドラ城を目指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る