第3話 転生者

『異世界転生!? ニンゲンのお伽噺でしか聞いたことないけど!』

 タニアは興奮気味に言う。

「あはは、そうなんだよね。この世界にも転生モノの物語があるって知った時はビックリしたよ」

『ティニー、あなた面白すぎよっ。前世のあなたは、どんなだったの?』


 タニアにそう尋ねられ、天を仰ぎ、前世の私を振り返った。

「そうだなぁ、前世の私は……機械いじりが好きな女の子だった」

 タニアは『機械?』と首を傾げる。

「あぁ、機械っていうのは、この世界の“魔導具”みたいなものでね、洗濯や掃除を助けてくれたり、明かりをつけたり……私たちの生活にはなくてはならない物なの」

『ははーん、魔導具なら分かるわよ。ニンゲンがマナをエネルギー源として使う、便利アイテムよね』

「そうそう。タニア、人間の事に詳しいんだね」

『ふふん、まぁね』

 と、彼女はドヤ顔をし『なら、ティニーは“魔導技師”だったのね? カッコイイじゃない』と、続けた。私はゆっくりと首を横に振る。

「ううん、この世界の魔導技師みたいに、機械いじりを仕事にする事は出来なかった」

『あら、どうしてなの?』

「母親にね、『そんなの女性らしくないからやめなさい』って、機械いじり自体を猛反対されて、私が機械をいじる暇がないように母はピアノを習わせたり、バレエを習わせたり……」


『“女性らしさ”……って?』

 タニアのきょとんとした表情に、私は思わず「ぷっ」と吹き出した。

「さぁ、何だろうね。私も未だに母の言う“女性らしさ”が何か分からない。でもそう言えば、さっき私をこの森に捨てたエメリーヌ叔母様も“貴族らしく”とか、“品を持って”とか、なーんか似たような事言ってたなぁ……」

『ちょっ……あなた、叔母に捨てられたの? しかもニンゲンの国の貴族なのに?』

「あぁ、うん、その話は後でするね。とにかく前世の母に、仕事も無理矢理公務員にさせられたから、大好きな機械いじりを仕事にする事は出来なかったの」

『そう、窮屈だったのね』

「うん。窮屈なのに耐えられなくて……病気になっちゃって、最後はベッドに寝たきりになって……次生まれる時はもっと自由に生きたい! そう願って目を閉じたら……気付いたらこの世界に生まれていた」


『この世界では、自由に生きられた?』

「うん。お母様が死んじゃうまでの間は、すごく自由だった。魔導技師だったお母様の真似をして魔導具をいじってたら、機械同様、魔導具にドハマりしてね、毎日すごく楽しかった」

『……死んじゃうまでの間、なのね』

「うん……叔母様に引き取られてからは、前世と同じように窮屈だった。でも、それも今日で終わり。私は今日から好きに生きるの。せっかく前世の記憶を持ったまま異世界に生まれたんだもの。異世界っぽさを堪能しなきゃ。その第一歩が、お父様に会うことなの」

『あはは、捨てられて良かったって、顔してるわね』

「うーん、バレた?」

 チロッと舌を出しておどけてみせる。

『バレバレよ! ティニーは顔にも態度にも出やすいのよ!』


「あっ、そうだ、タニア。ピクシーってさ、風の刃みたいなの、作れたよね?」

『これの事?』

 タニアはそう言って小さな指をクルクルと回す。すると、指の先に小さな風の渦が起こり、刃の形へと変形した。

「おぉっ、すごい、初めて見た! あのね、それで私の髪を、バッサリいっちゃってほしいの。肩につかないくらいまで」

『えっ、本気!? すごく綺麗なゆるふわブロンドヘアじゃない』

「ありがとう。でも本気。だって邪魔なんだもん。これも、新しい私への第一歩」

『わ、分かったわよ……ティニーがそう言うんなら、バッサリいくわよ!』

「お願いします!」


 ジッとしてと言われたのでその場に立ち止まると、タニアは刃を操り器用に髪の毛だけを切り落としていってくれた。そして、あっという間にゆるふわボブヘアの誕生である。

「わぁっ、タニア上手だね! これから髪が伸びたときはタニアにお願いするよ!」

『ふふん、まぁこんなもんよ。ショートヘアも案外似合ってるじゃない。さぁ、ユグドラシアはもう目前よ。張り切って行きましょう』

「うん!」

 髪も軽くなり、新しい自分へと生まれ変わった私は、ルンルンでタニアを追いかけた。

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