春夏秋冬怪談会

CASE 1:春の若葉

「ねえ!あなた!素敵なそこのあなた!私の死体を探してくださらない?」

そういうのは桜色の長髪を靡かせた美少女だった。

夕闇に包まれた教室のあなたの机の前にその少女は立っていた。

少女はザクロのように赤い瞳を瞬かせ、こう続けた。

「きゅ、急にこんなこと言われたら戸惑うわよね!初めまして!私は春野双葉!むかーしむかしにここにあった湖で死んでしまった可哀そうな女の子。」

湖があったことはクラスメイトの噂話で知っていた。

しかし、そこに死体があったといううわさは聞いたことがない。

「あのね、私の死体は見つかっていないの。だからその死体を見つけてほしいの!」

そういえば、桜の木の下に死体があるという噂は聞いたことがある。

それはあくまで噂だが、何故か実しやかに囁かれていた。

学校の怪談というやつだ。

「桜の木?あそこね!」

そう言って少女が窓際のガラスに手を付けると、するりとその中に溶けていった。

「え?きゃ!」

あなたが彼女の手を掴もうとしたとき、後ろから誰かに押されたような感覚があった。

「死んじゃえ。」

ガラスでできた鏡に意識を吸い取られるような感覚。

次の瞬間あなたは意識を失った。




「ねぇ、ねぇ、起きて?あなたはまだ死んでいないわ。起きて。」

少女の声に意識が覚醒する。

目を覚ますと真っ暗な教室の床に寝そべっていた。

と、床を確認すると真っ暗な闇。

目が慣れてきてから見まわすと電気が切られた蛍光灯が目に入った。

どうやら閉校時間を過ぎてしまったらしい。

「ねぇ、あの桜の木に行ってみない?もしかしたら死体があるかもしれないわ?」

そういう少女には足があった。

そして、あなたの足はなくなっていた。




壁に触れながら階段を下りる。といってもその感覚はとうにないのだが。

玄関に向かって歩いていくと途中でトイレの鏡が目に入った。

鏡の向こうには君がいる。

しかし、薄紅色の少女の姿は其処にはなかった。

「死んでいる人は鏡にしか映らないのよ?」

それはおかしい。

では何故少女はこちらの世界にいるのだろう。

「素敵なあなた?あなたにはどちらの世界が見えているの?鏡の中?外?」

あなたはそっと目を閉じた。




鏡の向こうに生きたあなたがいる。

あなたは背筋が寒くなった。

もしも幽霊のように床のない場所を歩いていたら……。

今、あなたの目の前には傷一つないあなたが写る。

あなたは改めて胸をなでおろした。

「ねえあなた?もう少しで校庭に着くわ?一緒に確認しましょう?」

少女はぷかぷかと玄関に向かっていった。




靴に履き替えて校庭に出ると、月が真上にまで来ていた。

真ん丸な月はどこから見ても真ん丸だ。

しかし、そんな光もすぐに雨雲が隠してしまう。

ざぁざあと降る雨に水溜りが多くできていた。

あなたが桜の木に向かうと少女はえいこらと地面を撫でていた。

「あらあら?私では触れないわ!ねぇ素敵なあなた?この場所を掘って下さらない?ここに大事なものがある気がするの。」

その声にこたえて地面を軽く掘る。

見えてきたのは人の腕だった。

胴体、足、頭を順に掘り返す。

すると見慣れたような、見慣れない少女の顔が出てきた。

その死体は生暖かかった。

「あらあら?若葉ちゃん?なんで生きているのかしら?あの時ちゃんと殺したはずなのに。」

途端に無機質になる声。

先ほどまでの愛らしい少女の面影はなく、冷たい氷のような女がそこにはいた。

「あなたになった私が生きて、私になったあなたが死ぬの。そういう手はずだったのよ?なのに、あなたはどうして生きているの?」

少女の手があなたに近づく。

「ねぇ、あなたはどうして生きているの?」

そう問われた時、死体がピクリと動いた。

死体は強い力であなたを水溜りへと投げ出す。

「生きて!」

死体から力強い声が聞こえた気がしたが、残念なことにあなたは気を失った。




次に目覚めると、あなたは校庭の水溜りの上に寝ころんでいた。

服はぐちゃぐちゃ。髪や肌はドロドロ。

しかし不思議と達成感があった。

桜の木に目を向けると淡い薄紅色の花弁が舞う。

死体があった場所の土を掘り起こしてみたが、その場所には何もなかった。

あなたを救った少女、彼女、春野若葉は生きていたのだろうか?

ここ、春夏秋冬学園の校庭の桜の木の下には死体がある。

それは、まことしやかにささやかれている噂である。

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