俺と私のプレゼント
ハンくん
前編
「先輩〜!」
高校二年の二学期の終業式終わり、教室で帰り支度をしていた俺のもとにおてんば娘がやってきた。
「
「はい! 可愛い可愛い後輩の冬香ちゃんですよ〜」
「自分で可愛いって言うなよ……」
「いや、実際私は可愛いので。嘘はつけないですし?」
「周りからめちゃくちゃ反感買いそうだな」
「もう慣れましたキャピン☆」
「セルフ効果音やめい」
俺の通う学校で一番可愛いとされている女子だ。
今の会話から分かると思うが、彼女は人懐っこいし嫌味もあまり感じない。けれど、言いたいことはハッキリ言う性格なのだ。そのため彼女は友達も多いし、多くの人から愛されている。
「おっ、冬香ちゃんじゃん。またコイツに会いに来たの?」
「モブA先輩じゃないですか〜。そうなんです先輩に会いに来たんですよ! なので、A先輩と喋ってる暇はないんでごめんなさい……貴方と付き合うことはできません」
「告白してないのになんか振られたんだけど!? でも可愛いから許せる!!」
「まぁモブ先は置いておいて……先輩、明後日の水曜日って空いてますか?」
「明後日は午前にバイトがあるけど午後なら空いてるぞ」
「やった〜! じゃあ、パーティーするので色々用意しておいてくださいね!」
「よっしゃぁ! パーティーマスターの僕に準備は任せておきな!」
「いや、モブ先輩は誘ってないので」
「ノォォォォォォォォォォ!!!」
「それじゃあ失礼しますピシ」
「セルフ効果音やめい。後、コイツどうにかしろや」
言うことだけ言って、敬礼をして冬香は颯爽と去っていった。
てかパーティー……? 俺、誕生日だったっけ?
「あっ……!」
スマホを取り出してカレンダーを確認すると、明後日の水曜日は十二月二十五日、すなわちクリスマスだった。
「あいつ、クリスマスパーティーって言ったら俺が断るって分かってたから敢えて日付言わないで逃げたな……」
冬香は、去年のクリスマスのことを考えて気を遣ってくれたのだろう。
人のことは気遣いつつ、自分の言いたいことややりたいことには真っ直ぐな冬香。そんな彼女に俺は……
「よし、モブA。 買い出しに行くから荷物持ち手伝ってくれ」
「僕は行けないのに!? てか、何でお前までその呼び方してるんだよ!?」
「今日、夕飯一緒に行かないか?」
「よし、買い出し行こうぜ。夕飯は寿司な」
*
そして迎えたクリスマス当日。
「先輩! ちゃんと色々準備しましたか?」
「もちろん」
冬香を部屋に招き入れると、キラキラと目を輝かせ、感嘆の声をあげる。
「飾りつけ凄い! これ、先輩が一人でやったんですか!? あっ! お菓子も飲み物もいっぱい! これ今日中に食べ切れますかね!?」
「はしゃぎすぎだって」
「いいじゃないですかたまには!」
「いや、冬香はいつもはしゃいでるか……」
「先輩から見た私、子どもじゃないですか」
「よしよ〜し。良い子だな」
「子ども扱いやめてください!」
「だって子どもみたいなんだもん」
「どこが子どもなんですか!? このナイスバディをご覧にあれフンス!」
「確かにナイスバディ……だな…………(笑)」
「あ〜っ! 今先輩、鼻で笑いましたね!? こう見ても私、着痩せするタイプなんですよ」
「着痩せするタイプ( Aカップ)ね笑」
「CですよC! 勝手に私のバストサイズ決めないでください!」
なんてくだらない話をお菓子を食べながら話すだけの空間。だが、それが何よりも落ち着く、心が安らぐ空間だった。
そして話の盛り上がりもひと段落した頃、冬香が急に声色を変え、ポツリと呟いた。
「でも良かったです。もしかしたら今日のパーティー、先輩に断られるかと思ってたので……」
「冬香は関係ないし。それどころかたくさん貰ったからな」
「私、そんなに先輩に何かあげましたっけ……?」
「うん。いっぱいな」
そう、俺は冬香にたくさんの思い出を貰った。
「去年のクリスマス、俺が彼女に浮気されてめっちゃ落ち込んでた時……初めて冬香と俺があったあの日、『泣いて良いんですよ』って胸、貸してくれただろ? その後も今日までの一年間、ずっと俺の側にいてくれただろ? それが何よりも嬉しかった。だから……本当に冬香には感謝してる」
「先輩……」
「今日、改めて思えたわ。冬香と一緒にいると落ち着くなぁって。だからさ冬香。もし良かったら俺と──」
「ストーーーーーーップ!」
「えっ? 俺、タイミングというか冬香の考えてること間違えた……?」
「ま、間違え……ではないんですけど……」
「なら……」
「けど! その! 前! に! プレゼント交換しましょうプレゼント交換!」
「圧が凄い……」
「ちょっと準備したいので、先輩はちょっと待っててください! 空き部屋、借りてもいいですか?」
「あぁ。もちろんいいぞ」
「では!」
そう言ってリビングを出ていく冬香の耳は、とても赤かった。
*
私、河合冬香は可愛い。
生まれ持ったその容姿が周りよりも恵まれていたことに気がついたのは小学生低学年の頃から。
そこから色々なことがあり、今の、誰にでも人当たりが良く、敵を作らない河合冬香が誕生した。
まぁそんなことはどうでもよくて……
私が先輩と出会ったのは去年のクリスマス。みんなが思い描くようなロマンチックな出会いではなかったのは確実だ。
当時、私には彼氏がいた。まぁまぁカッコよかったし、スペックも高かったと思う。彼と付き合った理由は彼が告白してきたからで、私は別に好きでも嫌いでもなかったから良いよの返事を出した。
そんな彼が、『夜にクリスマスパーティをしよう!』と言い出したので、私は準備のために買い出しへと向かうことに。
そしてお目当てのお店に着いたところで……店の入り口から奥を見つめ、絶望の表情を浮かべる男の人が目に入る。
『なんかあった……のかな?』
思ったことを小さく呟き、私はその男の人をスルーしてお店へ入店した。
するとその瞬間──
──私の彼氏が嬉しそうに、知らない女の人と腕を組んで歩いているのが視界に入り込んだ。
私はそれを見て──またか、と思った。
大体、いつも私が誰かと付き合うのは相手側から告白されるからだ。私は生まれてから今まで、本気で人を好きになったことがなかった。
だから彼も、いつもみたいに相手側が勝手に私のことを好きになって、勝手に冷めてくんだろうなと、心のどこかでそう感じていた。だから──
──私はその姿を見ても、何も感じなかった。
自分でもビックリするほど、何も感じなかった。だって、いつもこうだったから。流石に
普通の人ならなんて思うんだろう、そう考えた瞬間、店の前で絶望の表情を浮かべていた男の人の顔が脳裏によぎる。
もしかして……そう思い後ろを見ると──男の人が涙を流していた。
私はそれを見て、何故か居ても立っても居られなくなって、男の人に駆け寄る。
『もしかして……あれ、貴方の彼女さんですか?』
急に話しかけられたからか、それとも私の言葉が図星だったからか、男の人は一瞬ビクッと身体を震わせ、答えた。
『そ、そうだけど……もしかして……相手、君の彼氏か?』
『はい』
『そうですか…………お互い災難だな』
『まぁ、そうですね』
『君、強いんだな』
『強くはないです。慣れただけです』
『ははっ、こんなに可愛い子がそんなことを言うなんて……世の中ひでぇもんだな…………』
『あの〜』
『ん?』
またしても何故かは分からない。けど、私は唐突にとある提案をしていた。
『私と……カラオケ行きませんか?』
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