第3話 モブ、八方塞がりになる
(ハラルア……よりによってハラルアか……)
夜、俺は布団の中で昼の件を思い出していた。
おそらくクリミナル王国に転生する場所としてはかなり悪い場所である。
ハラルアは初めて魔物の大規模な襲撃──魔物災害を受ける街であり主人公や攻略対象はこの件について調べていくことでストーリーが進んでいくのである。
つまるところまだこの国の誰も魔物災害なんてものを経験した人間はおらず魔物災害が起こってしまったときの対処マニュアルや対抗できる軍なんてものは置いていない。
(かといって俺にできることも限りなく少ないだろうな……俺1人で魔物を抑えきれるわけ無いし魔物が来るからみんな逃げろ、と言ったところであまりにも怪しすぎる。どうにか目立たずみんなを救う方法は無いのか……!)
この四年間、俺はこの街で育ってきたんだ。
両親の愛に触れ、街の人たちの優しさに育まれ、この地でとれた食べ物を食べて生きてきた。
もはやハラルアは故郷なんだ。
絶対に見捨てたくない。
だがどれだけ考えても良い案は浮かんでこない。
人間が1人でできることには限度というものがあり更に俺はゲームで存在すら認知されていない上になんの権力もないモブの平民。
もはや手詰まりとしか言いようがなかった。
(せめて攻略対象たちに魔物災害の匂わせだけでもできれば……だけど俺は平民だし……いや、一つだけ手はあるか?)
現実的にもかなり難しくあまり現実的ではないがもしかしたらこの街を救うことができるかもしれない微かな希望を孕んだ起死回生の一手。
それは俺もマジロマの舞台であるフリージア学園に入学すること。
平民がこの学校に入学するための障害は大きく分けて2つ。
まずは金さえ払えば入学できるお貴族様と違い平民の試験は相当難易度が高いこと。
そしてそもそもの入学金が普通の平民では絶対に払えないような額だと言うことだ。
(転生したらまさかこんな苦難が待ち受けていたとはな……まあ何も知らずにいきなり魔物災害を受けるよりかはマシか……やべ……急に眠くなってきた……)
未だ子どもの体だからか長時間考え込むと脳が疲れてすぐに眠くなってきてしまう。
今日はこの世界がマジロマの世界でありここがハラルアだと気づけたから良しとしよう。
詳しい計画を練るのは明日からだ。
今日はもう……寝ると……しよう……
そして俺の意識は暗闇へと沈んでいった──
◇◆◇
翌朝、俺は差し込んでいる朝日で目が覚める。
ゆっくり眠れたからかすごく頭がスッキリしていた。
「おはよう、おかあさん」
「あら、おはようエド。今日は随分ぐっすり眠ってたわね」
「うん、昨日初めて本を読んだから少し疲れたみたい。起きたら元気になったよ」
「そう、それはよかったわ。今日もまた本を読むの?」
「明日また続きを読むよ。今日はちょっと外を歩いてくる」
今日は家の中ではなく外の風にゆっくり考えたい気分だった。
まだ魔物がたくさん出てくる時代じゃないし街の外からも出るつもりはないから身の危険は無いだろう。
「お弁当はいる?」
「ううん、大丈夫」
「わかったわ、気をつけていってらっしゃいね」
「うん」
俺は外にある井戸で顔を洗い、目が冴えると俺は家に戻って母と一緒に朝食を取る。
そして俺は特に何も持たず目的もなくブラブラと歩く。
20分ほど歩いた後、木が一本だけ生えた街全体を見渡せる丘に腰を下ろした。
一つ大きく息を吸って街を見る。
少し離れているにも関わらず人々の熱気が、生活がここまで伝わってくるかのようだった。
「さて、問題を整理するか。今の俺に足りないのは学力、戦う力、そして入学金の3つだな……それをどうするかだけど……」
学力は勉強あるのみなので何も言えることはない。
だが入学金と戦闘に関しては早急に解決策を見つけたい問題であった。
戦いはいざっていうとき戦えて損はないし、そもそも入試に戦闘分野も存在するので捨てるわけには行かない。
金も簡単に用意できるほど金額ではない。
「はぁぁ……戦闘面は俺にステータスとかあればまだやりようはあるんだけどなぁ……ステータスオープン。って、わっ!?」
俺が冗談半分に『ステータスオープン』と言うと突然目の前にホログラムのような画面が現れる。
前世で見たマジロマのステータス画面と全く同じものが俺の名前で書かれていた。
名前 エドワード
性別 男
肩書 ハラルアの民
霊剣 なし
レベル ──
膂力 15
速さ 12
守り 11
賢さ 54
魔力 21
体力 10
器用 29
「……想定外だったな」
思わず俺は呟く。
今起こった俺の想定外の出来事は主に3つ。
1つは、ステータスを見ることができたこと。
2つは、4歳にしてはステータスが高かったこと。
これから体の成長と共にステータスが上がっていく可能性は十分にある。
ここまでは嬉しい誤算だが最後の誤算が致命的だった。
3つ、俺にレベルが存在していないこと。
これはつまり俺がどれだけ敵を倒し、どれだけの経験値を得ようともレベルは上がらず永遠に成長しないということに他ならない。
当たり前と言われれば当たり前だ。
ゲームで主人公たち一行以外にレベルが上がるなんて話は聞いたことがない。
つまり前世の記憶を引き継いだこととステータスが見れるというところまでが俺の転生した強みでありそれ以外はただの凡人。
もはやステータスとか関係なく勉強とか鍛錬したほうが入試に受かる気がする。
(だがそれだともう一つの問題が重くのしかかるんだよな……)
勉強と鍛錬に時間が全て持っていかれると入学金を用意する時間が無くなってしまう。
強くなれれば魔物を倒して金策などやりようはいくらでもあったのだが既にその道は絶たれている。
両親に稼いでもらうのは絶対に不可能なくらい高額だしそもそもそんな迷惑をかけられない。
「こんなの低レベル縛りでゲーム全クリしろって言われてんのと同じだぞ……しかもリセマラもセーブも全て没収されてる状態で、だ……」
この世界がゲームのマジロマにおけるどれくらいの難易度かは分からないが間違いなく死んだら復活はできない。
ストーリーをクリアしなければいけないわけじゃないし、俺が戦う必要なんてないけどそもそもフリージア学園に入学できなければこの街が本当の意味で終わってしまうかもしれない。
レベルが上げられない、金も稼がなくちゃいけない、勉強も鍛錬もしなくちゃいけない。
まだ入試まで10年以上あると言えどこれだけ縛り要素がわんさか詰まっていたらベリーハード全クリよりも難しいだろう。
「クソ……!何か無いのか……!?この状況を打開する方法は……!」
やはりどう考えてもレベルが上がらない、もしくは金銭面を工面する余裕がないという壁にぶち当たってしまう。
人間は努力しても必ず報われるとは限らない。
努力が報われることも才能なのである。
その報われる才能こそがレベル。
戦えば戦った分だけ強くなり1人の人間としてのスペックが上がる。
それが無いのに入学金という二兎を追おうとしていること自体が無謀なのである。
(だけど……諦めるって選択肢は無いんでね……レベルがないなら……ん?待てよ?レベルが無い……)
俺は長考の末に一つの可能性にたどり着く。
極めて非現実的であり、非効率的。
だが金銭面と入試という大きすぎる問題を同時に解決できる可能性を持った渾身の策だった。
俺は四年前、ひたすらマジロマをやり続けたときの記憶と知識を総動員し、この計画が実現可能かを考える。
そして思わず笑みがこぼれた。
「勝算は十分にある。これでいこう……!」
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