第2話 モブ、乙女ゲーだと気づく
エドワード、それがこの世界に生まれた俺に新しくつけられた名前だった。
俺がこの世界に転生して早4年。
本日俺は4歳の誕生日を迎えている。
「エド、誕生日おめでとう!元気に育ってくれてパパは嬉しいぞ!」
「本当におめでとう、エド。大きくなったわね」
両親が優しい笑顔で俺を見つめてくる。
俺の生まれは平民でお世辞にもお金持ちとは言えないが両親は優しく俺は心身共に健康に育っていた。
「ありがとう。おとうさん、おかあさん!」
あんまり子ども離れしすぎると二人にいらない心配をかけてしまうかもしれないので取り敢えずはできるだけ子供っぽく振る舞うようにしていた。
まあ普通に祝ってくれるのは嬉しいしな。
精神年齢が前世も合わせて20はとっくに超えてはいるものの体の方に引っ張られているのか少し若くなったような気がする。
流石に学生ってほど若々しくは無いと思うけど。
「1年に一度の大事な息子の誕生日なんだ。祝わないわけないだろ?」
「ふふっ、そうよ。ちゃんとエドへのプレゼントも用意したんだから」
「プレゼント?」
なんだろう。
おもちゃとかかな。
この年でおもちゃ遊びをするのはしんどいな……
まあ体は幼児なんだけども。
「じゃん!この前エドが欲しがってた本を買ったのよ。喜んでくれるかしら」
「えっ!?本!?」
俺はどう喜ぶリアクションを取ろうか考えていたら思わず素で反応してしまった。
本は高級品であまり気軽に買えるものではない。
この世界の話す聞くというのは問題なかったのになぜか読み書きだけは全くわからなかったので平民にしては珍しいという文字を読める母に文字を教えてもらいながら勉強してつい先日大体の文字をマスターした。
それから本を買ってほしいとお願いしたのだがあまり期待せず最悪自分で金を稼げるようになったら買おうと思っていたのにまさか買ってくれているとは……!
「どうかしら?」
「嬉しい!ありがとう!おかあさん!おとうさん!」
「でもこんなに難しい本で大丈夫なの?」
「うん!大丈夫!」
「ははっ!俺達の息子は賢いな。もしかしたらビッグになるかもしれないぞ」
「もう……あなたったらはしゃぎすぎよ」
そう言いながら母も笑顔を浮かべている。
自分が喜ぶだけで両親はこんなにも喜んでくれる。
それだけでなんだか心が温かくなって嬉しくなる。
無償の愛というのはこういうことを言うのだろうか。
「今読んでもいい!?」
「もちろん。高い物だし大切に扱ってね」
「うん!」
俺は母から本を受け取り寝室に向かう。
自分の部屋は無いが色々1人で考えるために静かな方がいい。
俺はベッドに腰をかけて本の題名を見る。
『クリミナル王国史』
クリミナル王国……?
どこかで聞いたことがあるような……
この本は両親に『この国の歴史が書いてある本がほしい』と言ってお願いしただけなので自分が住んでいる国がクリミナル王国だということも今初めて知った。
この世界が地球ではないことは元々わかっている。
なんか魔法みたいなもので火とか出してたし初めて魔法を見たとき興奮は今でも忘れない。
だというのになぜこの国名に既視感があるのか……
(前世でそんな国や地域があったか……?でもこれはもっと違うような……)
喉もとまで出かかってるのに答えにたどり着けない居心地の悪い感覚が続く。
この違和感は一体……
「いや……待てよ……!?もしかして……!」
俺の中で点と点が一つの線で結ばれる。
クリミナル王国という名前への既視感の正体。
それは……
(もしかしてここはマジロマの世界ってことか……?)
マジロマというのは例の俺が死ぬ前にプレイしていたゲーム『マジックロマンス〜平民の私が王子様たちに溺愛されてます!?〜』の略称である。
クリミナル王国はそのマジロマの舞台であるフリージア学園がある国の名前だった。
(まだ確証はない……だがクリミナル王国という名前の既視感は間違いなくこれだ……!もしこれがマジロマの世界だとしたら……いや、そう決めつけるのは早計か……)
元々はこの世界について知るための本だったんだ。
それがマジロマの世界だろうとなんだろうとやることは変わらない。
俺は一つ息を吸って表紙をペラリとめくる。
(クリミナル王国の歴史……創世歴702年に建国……初代王は……ツェザール……?ということはやはり……)
初代王の名前は完全に見覚えのあるものだった。
疑惑にだんだん確証が持てていく。
四年という年月はゲームの細かい設定を忘れさせるには十分な年月だったがこの本に目を通していくたびに鮮明にストーリーが思い起こされた。
そして1時間後……
「これは……やっぱり間違いないみたいだ……」
見覚えのある歴史や地名があまりにも多すぎる。
これはこの世界がマジロマの世界であると断定するには十分だろう。
エドワードなんて名前のキャラクターは登場していないなので俺はモブなのだろう。
(一旦状況を整理するか……ストーリーももう一度細かく洗い出したほうがよさそうだな……)
俺は紙とペンを用意して机に向かう。
そして全ルートのストーリーを丁寧に書いていった。
忘れていた部分も多少あったが本のおかげもあってか全てを書き出すことができた。
紙もたくさん使ってしまったがしょうがない。
これは必要経費ってことで大きくなったらお金を返すようにしよう。
ともあれここがマジロマの世界であると分かれば全く知らない異世界よりも手の打ちようはある。
発売されてからずっとプレイしてきたんだ。
モブとはいえ自分や家族に降りかかる火の粉を避け安全に幸せに暮らせるかも知れない。
魔法っていうのにも興味があるしな。
自分も使えるんだろうか。
「あらあら、今までずっと読んでたの?」
「あ、おかあさん。どうしたの?」
俺が考え込んでいると母が部屋に入ってくる。
この世界の言語ではなく日本語で書いたので内容は分からないはずだが一応マジロマのストーリーが書いてある紙をさり気なく隠した。
「ずっと静かだったから寝ちゃったのかと思ったけど起きてたのね」
「うん。この本すっごく面白くて集中して読んでたんだ。買ってくれて本当にありがとう」
「ふふ、そんなに喜んでくれるなら買ってよかった。エドは将来賢くなるね」
「賢くなる!歴史ってすごく楽しいもん!」
なんかこの話し方も少し恥ずかしいような気がするがこの1年でだいぶ慣れた。
まあ前世の授業とかと違ってこの世界での歴史はゲームの裏設定とかを覗けているみたいですごく楽しいのであながち嘘は言っていない。
「エドの将来が楽しみね」
「僕ビッグな男になってお母さんたちや街のみんなを守る!」
子どもならこれくらい夢を見てもいいだろう。
実際はそんな目立つムーブをするつもりは全く無いが言うのはただだ。
母もきっと喜んでくれる。
「ふふ、カッコいいこと言ってくれるわね。ハラルアから英雄が誕生するのかしら」
「えっ……!?」
俺はハラルアと聞いて顔から血の気が引いていくのがわかる。
おそらく表情にも出てしまっていたのだろう。
母も心配そうに俺のことを見ている。
「どうしたの、エド?体調でも悪いの?」
「い、いや。なんでもないよ。それよりも僕達が住んでる街って……」
「ハラルアのこと?それがどうしたの?」
やっぱり聞き間違えじゃなかった……
俺の耳がおかしくなっているほうがまだ嬉しかった。
ハラルアは……この国で一番最初に魔物の襲撃を受ける町だ──
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