ロボ村長

ひぐらし ちまよったか

家督継承試験

 グラディウス聖王国。

 大湖沼州ノルディック辺境伯領を支える城代家老職、秋月家。

 当家の三、四女である『秋月めぐみ』と双子の妹『秋月なお』が、よく似たサラサラの黒髪を寄せて、悪だくみ中だ。


「――最新情報によれば『はじめ』ちゃんは現在『南海州大磯』……海の幸を満喫まんきつ中」

「あいかわらず『武者修行』をしている気配は全く無いわね」

 やはりよく似た太めの眉毛が、同じように八の字に見合って「ふう」と溜め息まで仲良く、かぶさる。


「はじめちゃんは『秋月の家督』を継ぐ気、無いのかしら?」

「そんなの困るっ! 姉さまを追い出して、跡継ぎになってくれないと」

「そうね。姉さまには何処どこかへ嫁いでいただきたいわ……わたくし達にまで『婿取り話し』が、舞い込みかねないもの……」


 小声でコソコソ企てるのには、訳が有った。



 〇 〇 〇



 先日、食事時。ふたりの父親である城代家老『秋月玄武』が「全国武者修行の旅である!」などとていよく言い捨てて家を飛び出し、以来、放蕩三昧を続けては、いっこうに戻る気配を見せない一人息子『はじめ』の行動に、しびれを切らして発言した。


「――もう奴には何も期待しない。あいつは初めから居なかった者だと思おう! だけに!」


 国境の軍事拠点で隣接する他国ににらみを利かせる武闘派家老の、たったひとつの欠点ウィークポイント『おやじギャグ』が炸裂。


「よいか『まさえ』よ? お前が婿を迎えて、わが秋月家の跡を継ぐのだ」

「いいえ、おことわりします。父上」


 即答する長女『秋月まさえ』。


「わたくしは自分より弱い男を、婿に迎えるつもりは有りません。そんな軟弱者、敵国に囲まれたこの辺境伯領では、まず役に立たないでしょう」

「そ、そ……そんなぁ……」


 強面で知られる巨漢の玄武を、すました仕草で食事を摂りつつ、たった一言で狼狽させた。


「し、しかしだなァ……まさえ……」

「当初の予定どうり『はじめさん』が修業を終えて帰郷するのを、おとなしく待っていれば、よろしいのです」


 厚く焼かれたステーキ肉へナイフを軽く乗せ、指先だけで、すうっと引く。

 持ち上げたフォークの先に、赤々と照り輝く鋭利な断面が、すっぱりキレイに切り分けられていた。

 ぞっとする玄武は、言葉も出ない。


「もっとも家を継ぐためには、わたくしとの勝負……試験に勝ってもらわないと」

「は、はじめが……あ奴が、勝ったら?」

「はい。わたくしは家を出て、強いお方の元へ嫁ぎたいと考えております――」


(そ、その様な剣豪が、この国に?)


「――そうですね。聖王家御指南役、剣聖『ジン』様? あたり、でしょうか」

「おいおい、まさえちゃん!? パパよりずうっと、おじいちゃんだよ、あの方!」

「でも、お強いですわ?」


 ふたたび言葉を失った玄武の耳へ、次女の言葉が突き刺さる。


「おねえさま? 剣聖ジン様は、わたくしが狙っております。お譲りくださいませ」


 まさえの正面に腰かけた次女『秋月もえ子』は、その「くりん」としたとび色の瞳で、甘えるように姉を見つめた。


「あら? もえ子もジン様が好みだったの」

「だって渋くてカッコイイんですもの! 男の中のおとこだわ、彼」


(いやいや、もえ子まであの爺様かよ……そりゃ歴代最強と謳われる達人だけど、さ)


 絶句の裏で、玄武の『飴色の脳細胞』がひらめいた!


(しかしジン殿は無理だとしても、もえ子ならば婿を迎えて、この秋月家を継いでくれるかもしれない)


「――それと、もうひとり! 王子『ジョシュア』様も、いただきますわ。このふたり組が今、最推しの『はかどり』ですの」


(はぁ!?)


 聖王国第五王子ジョシュアは、プラチナブロンドのストレートヘア。アイスブルーの瞳が王宮で人気の、成人前の美少年だ。


「もちろん『受け』は、剣聖ジン様! わたくし、ゆずりませんことよ」


 ――無言で肉を刻み続ける玄武。


(切れぬな、このナイフ……親子の絆も、たやすく切っては、ならぬ……という、ことか……)


 ――おやじギャグ。



 〇 〇 〇



「――とにかく、はじめちゃんには早急に戻ってもらって、姉さまに勝ってもらわないと」


 いまだ旅の空で遊興を続ける末弟を、なんとか操ろうと策をめぐらす双子であった。


「わたくし、この家の『研究室ラボ』から出て行くつもりは有りませんの」

「それはもちろん、わたくしも同意見ですわ、お姉さま」


 広大な辺境伯領において無敵と噂される長女まさえと、みずからの歪んだ性癖に正直な腐次女もえ子。

 この二人が婿を迎えるなど、まず有り得ない。

 しかし、かといって自分たちが結婚をし、面倒ごとが多発する辺境城代家老職を継ぐなど、まっぴら御免だ。

 わたくし達はこのまま、ずうっと研究室に閉じ籠って、大好きな『科学』を極めたい。


「――やはり、ここは共に旅をしているという『ご友人』に、ひと肌脱いで貰いましょう」


「ご友人って『村長』さん、の事かしら?」


 末っ子・長男はじめが旅先で出会った無二の親友、村長。

 この男に説得されれば、いくら放蕩者の弟だとて、改心するに違いない。


「でも、どうやって村長さんと連絡を付けるの? いつも一緒に行動してるから、はじめちゃんにバレたりしない?」


「そこは、わたくしたちの『科学力』の出番だわ!」


「え?」


「さいわい優秀な密偵のおかげで、彼の身体的情報は、すべて入手しています」


「そ……それって……」


「わたくしたちで、作るわよ!『ロボ村長』を!!」




 ――つづく。

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