炬燵と堕落
鐸木
炬燵と堕落
気管が凍てつくような、朝だった。鼻腔に寒い空気が入り込み、精神を骨の髄までからからに乾かす様な、無気力な朝だった。僕は、布団から離れたらこの世界とも決別してしまうのでは無いか、という様な尊大な妄想に囚われ、二度と布団を離すまいと頭まで被り世界に抵抗した。然し、目覚まし時計が僕と布団の仲を引き裂かんばかりにけたたましく鳴るので、いい加減に諦めて、寒い廊下に足を踏み出した。廊下と足が触れ合った刹那、とてつもない冷気が身体を巡り、思わず身震いした。僕は、ペンギンの様に爪先立ちで歩き床と足の接触する面積をできるだけ減らす事に努めたが、どうやったって寒いものは寒かった。早足でさっさと廊下を抜け居間に入ると、冷たい足をカーペットが労い、迎えてくれた。僕はすっかり安心して居間の中央を陣取る炬燵に入り込んだ。溶けるような幸福。これこそ、冬の醍醐味である。炬燵という盟友がいなければ、僕はとっくに冬が大嫌いになっていた。毛布の優しい手触りと、仄かに温かい足先に気を取られ、気づけば30分がゆうに経過していた。どうやら、炬燵は堕落の隣人らしく、炬燵と盟友になっている僕は、どうしても隣人の堕落とも手を取り合わなければならないようだった。僕は堕落という札付きの不良と喜んで握手して、今、友情を築いた。そう、僕はもう、炬燵に身体まで潜り込んでしまったのだ。もう、誰にも邪魔はできない。僕はすでにパンドラの匣を開けてしまったのだから…。
その後夕陽がさした頃に起きだして、休日を無駄にした後悔に暮れたのはご愛嬌ということで。
炬燵と堕落 鐸木 @mimizukukawaii
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