第18話
高そうなスーツを着て、指や手首には金やらプラチナやらが光る装飾品が光っているのが見える。
こういう奴、物語の中にもいたな……金を持って威圧的な態度をしている奴、たしか『成金野郎』だなんて呼ばれていたっけか。
言い争いをしている柊と成金野郎をボーっと外野から見ている俺と、おろおろしながら二人の顔を交互に見ている花城。
『助けないんですか?』みたいに花城が不安そうにこちらを見てくるが、絶対に話に突っ込むなよ。これは企業同士の問題であって、一人の探索者が割って入っても問題は複雑化するだけだ。
「つーかそもそも『独占権を買った』ってなんだよ⁉ この鉱床は発見されたっつー噂はあっても、『誰が』見つけたかは探索者ギルド側に報告は無かったはずだ!」
「いやぁそれがね? 我々がたまたまその探索者を見つけて、その場で買い取ったんだよ」
「嘘つけ、オレたちが危険を取り除いたって聞いてから慌てて動き出したくせによく言うぜ……!」
「ならそちらもこの鉱床の独占権を主張できないのではないのかね? 大人しく引いたらどうだ、ん~?」
互いの主張が平行線、これが俺たちが言ってた『もめごと』の最たる例だ。
仲良く採掘すればいいじゃないと思うかもしれないが、エネルダイトが安全に掘れる場所は貴重だ。中層中位のエネルジークに襲われる危険性があったこの鉱床を、『安全』だと定義するのはあまりにも無理がある。
だが、それを倒した『どっかの馬鹿』がいたから安全になってしまった。そして『安全な鉱床が誰も独占権を持っていない状況』になっているのが今のこの鉱床だ。
そうなるとどこの企業もこの鉱床を欲しがる、仲良くなんてやってたら次々と参入されてきてここの鉱床は一気に掘りつくされてしまうだろう。
「フ、フクロウさん……っ」
「駄目だぞ花城。この会話に俺たちが入ったらさらにややこしいことになる、ほらみてみろ。いつでも俺たちを止められるように椿が前に陣取ってる」
「あ、あはは……フクロウさんは何でもお見通しっすね。まぁそちらの子はともかく、フクロウさんが本気を出したらウチで止められる気はしないっすけど」
「いきなりエネルジークが出てきたり相手が実力行使に出てこない限り動かねぇよ……相手の連れてる奴も、相当な実力者っぽいしな」
椿にそう言いながら、俺はさっきから成金野郎の後ろにいる一人の男に目を向けていた。肩までかかる金髪の毛先を青く染めているその男は、黒い槍を地面に突き刺しては退屈そうに欠伸をしている。
着ている装備が使い込まれているのを見る限り、相当浸食空間に潜り慣れているやつだ。
俺が警戒しながらそいつを見ていると、いきなり俺の方をジロリと見返してきながら黒い槍を地面から引き抜いた!
苛立たし気にその男は俺に向かって槍を向ける。
「Hey, you little owl, what have you been staring at me for?(おいフクロウ野郎、さっきから何じろじろ見てんだ?)」
「……Sorry if I have offended you. You're a peer, like me, aren't you?(不快にさせたのならすまない。お前、俺と同じ同業者だろ?)」
「っ……!」
イギリス
内心俺がほっとしていると、男は槍の穂先を上げて満足げに笑う。
「まさか、こんな時代に外国語を喋ることが出来る奴がいるなんてな」
「日本語を喋れるなら最初からそうしろ、俺だって英語は明るくない」
「おいおい、俺だってここまで喋れるのに苦労したんだぜ? なのにこっちの人間は英語で喋るとすーぐ翻訳機をとりだしやがる」
「こんなエネルに浸食されまくってる世界で、外国語を学ぼうとか思えるほど余裕がある奴なんざほとんどいねぇよ」
「はっ、ちげぇねぇ」
怒っている雰囲気を収めてフレンドリーに話しかけてきた槍の男に、俺も日本語でツッコむ。いきなり和気あいあいな雰囲気になった俺たちに、柊と成金野郎もケンカをやめてこっちを見ていた。
周りの注目が集まっているのも気にせず、俺たちはお互い近付き握手を交わす。
「オリバー・ハンブルトンだ、お前のさっきの質問だが『イエス』と言っておこう。お前も、『正規』じゃないんだろう?」
「……やっぱ同業者か。『
「当たり。あんたと出来れば戦いたくねぇな、ここから奇襲して勝ちきるビジョンが見えねぇ」
やめやめ、とさっきから俺の心臓を穿つ機会を狙ってた傭兵……オリバーは握手していた手を離した。
ここで事を起こすのは考えにくいとは思っていたが、もし右手に持っていた槍が飛んできていたらと思うとぞっとするな。相手が友好的になったからと隙を晒さないで良かった。
探索者でないものが浸食空間に潜るのは本来は違法だ。だがその法を犯してでも浸食空間に潜る奴が一定数いる。
目的は様々だ。『犯罪』だったり、『隠密』だったり……俺達みたいに、『依頼』だったり。
そんな風に依頼を受けて金で動く
あいつもあの成金野郎をここまで連れてくるために雇われたんだろうなと、また成金野郎の後ろに戻って胡坐をかき始めたオリバーを見ながら俺は一層警戒を強めた。
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