第3話

 軍議が終わり、三時間後に出撃することになったのでオレは仮眠を取ることにした。身体を揺すられる感覚で目覚めた。


ジジイだ。


「やられた」


「はあ?」


「周恩楽にやられた。政府軍を指揮してここを包囲した。麗君がワシの目の前で殺されたんじゃ」


「ジジイ。夢の中の話で人の睡眠を邪魔するなんてやっちゃいけねえだろ」


「じゃあ、お前さんの目で見てこい」


オレはジジイに手を引かれて外に出た。そこには政府軍の陣頭で宋麗の遺体にさらに銃弾を撃ち込んでいく不気味に笑う周恩楽の姿があった。


オレは生まれて初めて殺意というものを覚えた。


僕ばかりか麗ちゃんまで。

僕?


 司令室のソファでジジイが横になって寝ている。オレはジジイを蹴り飛ばした。ジジイは何か言おうとしたがオレの形相を見て何かを察知して黙り込む。


「ジジイ。敵襲だ」


そう言って、オレは窓から飛び降りた。ここは三階なんだがオレの流星脚をもってすれば上り下りなど造作もない。政府軍の大軍はそこまできている。オレは怒りに任せて上空に無数の気を放出させる。こんなに気を放出して大丈夫なのかというぐらいだ。海秋基地の上空が真っ暗になるぐらい。


オレは上空の気を一気に政府軍の大軍目掛けて降り注いだ。


「流星群!!」


上空に溜まっていた気の塊は轟音とともに地上に降り注いでとてつもない地響きを生じさせる。もうこれ以上ないというほどに。


オレは悪魔にだってなってやる。


 政府軍を全滅させたオレは司令室に戻った。


「ジジイ、終わったぞ。あれは全軍を率いて攻めてきたんじゃねえのか」


「オオオ、相変わらず仕事が早いのう。全軍を率いて全滅か。青い顔になるわけだ」


「まあな。あれ、嬢ちゃん。なに青い顔してるんだ?」


あっ、声かな?

こっちをまじまじと見てる。


「お、なんだ。嬢ちゃん、兄貴の顔でも見たくなったか?」


「余計なこと言うなと言っておろうが」


ジジイがたしなめてきた。

その時、ドアがあき伝令の兵士が入ってきた。


「おいおい、ノックぐらいしろよ」


「申し訳ありません。第一部隊が全軍出撃しました」



「大変です。第一部隊東部方面軍がこの基地を包囲しています」


別の兵士が報告に駆け込んできた。



「おいおい、嬢ちゃんは切り捨てられたのかい」


「お前もやめんか。まあ、麗君を置いていってくれたのはこちらには好都合。そう考えよう」


「じゃ、ちょっくら行ってくるわ」


オレは流星脚を使って、第一部隊を追った。


追う途中でいいことを思いついた。いや、いいことではないな。


オレは司令室に戻った。


「お二人さん、いいかな」


「なんじゃ、もう終わったんかい。ずいぶんと静かじゃったが」


「いやね、あいつ。逃げたんだけどさあ。包囲している軍はどうする?」


「お前、わざと逃がしたろ」


「誰が逃げたのですか?」


宋麗が尋ねてきたのでオレはその問いに答えた。


「周恩楽司令官様だよ」



 オレはふたたび司令室を飛び出して、包囲している第一部隊東部方面軍と呼ばれている政府軍と対峙する。この東部方面軍はゴロツキを装っているが実は政府軍。そう、周恩楽が言っていた。例のごとくあいつはなにも覚えちゃいないが。


しっかし、こいつら役者だね。演技には見えねえよ。

う〜〜ん。

東部方面軍って、こんなに少なかったっけ。

まあ、いいや。


海秋基地はふたたび地響きに襲われた。



 オレはそのまま永昌基地に向かって走っていく。身を焼き尽くされそうな怒りの炎を心に秘めながら。



 永昌基地に到着した。包囲している東部方面軍が少ないと思ったらこっちに移していたんだね。オレは敵兵を排除し、あいつを捜しながら歩いていく。

あいつの居場所はすぐにわかった。司令室だ。逃げたのだから隠れていればいいのにと思いながら司令室のドアを蹴破った。


あいつはオレの顔を見て呆然としている。そう、オレはサングラスを外して素顔をさらしていたのだ。


「おい、なに呆然としているんだ。いい男でもいたか?」


すると、あいつはなにも言わずに胸元から拳銃を取り出し、オレに銃弾を放った。

なんだよ、あいつ。いきなり発砲なんて。なにも情報引き出せなかった。防御の方も修行したほうがいいなと思いながら、ふたたびドアを蹴破った。今度はオレもなにも言わずにあいつをボコボコにした。


なにも抵抗できなくしてからオレは尋問を始めた。やはり、こいつらはエリートだから喧嘩になれていない。なんでエリートって分かるかって、周恩楽は宋清や李月麗の同級生だからだよ。まあ、そんなことはどうでもいい。


「おい、なんで逃げた?」


あいつは黙り込んでいる。

そりゃ、そうだよね。


あれ、でもボコボコにしちゃダメだった。

ヤベ。

やり直し。


う〜〜ん。

オレはドアの前で考え込む。

会話してもダメ。

会話しなくてもダメ。

ボコボコにしてもダメ。

どうすりゃいいんだろ。


『気で拘束すればいいんじゃない』


おお、そうか。

ナイスアイデア!!

えっ。

誰の声?


まあ、いいや。

オレの頭じゃ考えられん名案だ。

でも、どうやって?


『気で相手の身体を掴むようなイメージだよ』


おお、そうか!!

あったまいい。

ていうか、誰だよ?


オレは一生懸命にその場でイメージトレーニング。


あれ、いいこと思いついちゃった。いや、いいことではないが。


 オレは丁寧にドアをノックする。部屋の中からどうぞという声がする。オレはサングラスと真っ赤なバンダナを外し深呼吸をして、あいつの身体を拘束するように掴む。


よし、掴んだ。


部屋の中で暴れる気配がする。

オレはドアを開け、あいつを見た。

驚愕の表情でオレを見つめる周恩楽。


「おいおい、いきなり銃撃するなんてひどいな〜〜。楽ちゃん」


楽ちゃん?

誰それ。


「あ〜〜。口も塞いでいるんだっけ。あ、もういいや。お前、地獄に行けよ。残念ながら宋清と李月麗には会えないけどね」


オレが周恩楽を殺そうとするとまたあの声がする。


君が用事なくても僕が聞きたいことがあるんだよ。


「じゃ、自分で聞けよ。わかったよ。ちょっと口借りるね」


「楽ちゃん、久しぶりだね。あの夜以来だね。僕が誰か分かる? あ、楽ちゃんの拘束も外してもらえるかな。会話ができないよ。はあ、そんなことできるわけねえだろ。ふっ、そうだよね」


しばらく黙り込んでいる。


「宋清だよ。今は彼の中にいる。これも流星の涙の能力みたいだね」


ジジイ、ちゃんと説明しとけよ。


「実はね。君に確認したいことがあるんだよ。拘束は解いてくれないみたいだから、ハイイイエの形式で聞くね」


一つ深呼吸。

オレではない。

宋清がだ。


「やっぱり、ゼミの課題かな?」


そいつはうなづく。


ゼミの課題?


「そっか。でも、李教授はなんであんな課題出したんだろうね。楽ちゃん、知ってる?」


そいつは首を振る。


凄っ。

ちゃんと会話ができてる。

宋清、頭いいな。


「知らないか。それじゃ、張白も知らないの?」


そいつは首を振る。



なんでお前が知らないのに、張白は知っているんだ?


「じゃあ、張白に直接聞くことにするよ。最後の質問だよ。僕や李月麗を殺す必要があったのはなんとなく理解できる。宋麗を殺す理由があるのかい?」


そいつはしばらく考えてから首を振った。


オレはそいつの手を胸元にもっていき、拳銃を握らせて銃口を口の中に突っ込んだ。


「おい、宋清。もういいだろ。オレ我慢できねえ」


宋清は答えない。

オレは周恩楽の人差指を強く引いた。


司令室に銃声が鳴り響いた。


 永昌基地に第二部隊が到着した。さて、演技しなくちゃね。ジジイは感が鋭いからバレるかも。その時は何回もやり直せばいいかな。


車両が到着したのでドアを開け、ジジイに告げる。


「老師、一大事です。周司令官が自害していました」


ダメだ。

オレは女優じゃねえから。

二人で顔を見合わせて笑いをこらえる。まあ、これでいいや。


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