第2話
その日は三月三日。西の方では雪が降るような寒さだった。こんな寒い日にバイクっておかしいだろと思ってバイクを走らせている。なんだか警備がもの凄いことになっている。とりあえず最初は大人しく検問に対応しようとしたが、免許がないことに気付いて仕方なく、いや本当に仕方なくだよ。あれを撃ちまくって検問を突破していった。そのせいで、その後も検問が強化され、そこも強行突破した。いや、本当にしょうがなかったんだ。最後は軍隊がやってきたがオレの相手ではなかった。
目的地の海秋基地は目の前にある。何だこれ。民間人一人相手にこの大軍ってこの国の軍隊って頭おかしいんだろうか。しょうがないので、海秋基地ごと屠ってやった。
ん~~。
こんなとこ待ち合わせ場所にする奴の顔を見てみたい。
どうやら早く着きすぎたようだったので、オレはあれの特訓をした。そして、技を五つ開発した。
流星弾。
流星群。
流星陣。
流星脚。
気功砲。
おお、名前だけは恰好いい。
すべて力技というのが気になるが。
無人となった基地の中を探険した。どうやら、この国で革命軍が一斉蜂起したらしい。そりゃ警備も厳しくなるよね。悪いことしたな。
そうこうしているうちに、軍隊のような集団が基地内に侵入してきた。司令室でくつろいでいると、見知った顔の老人が現れた。
李老師と呼ばれる老人だ。
「お前さんかい。どうりで抵抗がないと思った。気なんて使えたんだな」
「トーマスに教わったんだよ」
「流星の涙の適合者が気の化け物とは。なんの因果かね。間もなく第一部隊東部方面軍と合流する。お前さんには事前にすべてを伝えておく必要がある。流星の涙の能力の使い方もな」
「お前さんの素性はあらかじめ調べさせてもらっている」
そう李老師は切り出した。オレは黙ってうなづく。
「ワシの親友に周恩雷という男がおってな。そいつがいうには周一族には東方の島国に忘れ形見がおって、ある能力を持っているはずなんじゃが全く消息が掴めんということでワシがその島国に人を送って調べたんじゃ。それがお前さんじゃ。お前さんの隠し名は周恩君」
「おいおい、そんなの初耳だぞ。なんだ、隠し名って?」
このジジイは他人の話を聞く気がないらしい。自分が言いたいことだけに話し続ける。
「ここに周恩雷の息子の周恩楽が間もなくやってくる。そうじゃ、お前を殺した男がお前の大切な妹を伴ってな!!」
オレを殺した?
「お前さんの当面の役目は周恩楽に代わり革命軍の司令官になることじゃ。まずはそれからじゃな。あ、そういえば、お前さんは知らんかもしれんが、お前さんの代わり」
李老師がそこまで言うと、オレの口が勝手に動く。
「張白」
「なんじゃ、知っておったか。お前さんも人が悪い。記憶を共有しているんなら先にそう言え」
記憶の共有?
いや、記憶の共有なんてレベルじゃなかったぞ。今のは。記憶の共有というよりは人格の共有と言ったほうがしっくりくる。おそらく相手は流入した記憶の宋清。そう考えれば、李月麗の手紙とこのジジイの話に辻褄が合う。
「まあ、ワシが話を進めるからお前さんは話を合わせているだけで良い。シューティングスター、貴官に革命軍第二部隊副司令官の任を与える」
ジジイはドヤ顔だ。
一番大事な話をしていないが。
「ジジイ、ドヤ顔のとこ悪いけどさ。さっさと流星の涙の話をしろよ。ああ、どうせ話が長くなるんだろ。とりあえず流星の涙の能力の使い方だけ教えろ。その周なんちゃらっていうのがくるまでに使いこなせるようにしておくから」
「そうじゃな。能力が使えれば時間は無限にあるからな」
なんだろうな。
オレ、このジジイ苦手!!
「流星の涙の能力は時を遡る能力じゃ。発動は至って簡単。戻りたい場面を強く思い描き、強く」
「流星の涙の能力は時を遡る」
「その話はもう聞いた。もういいや。ちょっくら練習してくる」
ジジイはちょっと待てと言ってオレを引き留める。忙しいんだというが離してくれそうもない。オレは仕方なくジジイの話を聞くことにした。
「あのな、流星の涙には対となる能力があるんじゃ。普通はな。流星の涙の適合者とその能力の適合者が同一になるなんて絶対にありえんのだが、お前さん。ひょっとしたら」
なんか話が長そうになりそうなので、オレはジジイの手を振り払って外に出ていった。
やがて、海秋基地に革命軍第一部隊東部方面軍が到着した。しばらくすると、オレはジジイに司令室にくるように言われた。なんだろ。オレの意志とは別に足早に歩いているような気がする。
「さっきも言ったが、ワシが話を進めるからお前さんは話を合わせているだけでいいんじゃぞ」
「ああ、わかったよ」
そう言いながら、オレは窓枠に腰をかけてその瞬間を待った。
やがて、二人の男女が入ってきた。
宋麗、無事でよかった。
なんだろ。見ず知らずの女を愛おしく想う自分がいる。
「李老師、さすがです。このような短期間で難攻不落の海秋基地を陥落させるとは驚くばかりです」
男の方がジジイに世辞を言っている。その顔は若い頃のオレの顔。つまり、今のオレの顔。自分の顔が目の前にあるのはある意味気味が悪いもんだな。
「ハッハ、なあにこいつがね。ああなんだ。あれ、何を言おうとしたんだっけ。ああ、そうそう。シューティングスターが瞬殺だよ」
そうだな。
オレしか戦っていないもんな。
軍議は粛々と進行されていく。よほど、オレが気に食わないのだろう。宋麗はオレをずっと睨んでいる。
「嬢ちゃん。なにジロジロ見てんだよ。オレに惚れたか?」
「あら、そう見えたかしら。フフ」
フフ、麗ちゃんは相変わらずかわいいな。
麗ちゃん?
「では、これからはシューティングスター副司令官中心で軍を進行させていく方向で」
周恩楽が勝手に決めているのが気に入らないオレは口を挟んだ。
「いぎあ〜〜り!! なんで後から来たあんたが仕切ってんだよ」
「まあまあ、二人とも大人なんだから」
ジジイが間に入る。
「最初だから言っとくんだよ。ジジイ。周恩楽、宋清の最期は嬢ちゃんに話したのかい」
オレの発言にジジイは怒り心頭だ。
「まったく、しょうがない奴だな。おい、副司令もう一度やり直せ!!」
「やだよ。何回やっても一緒だろ!!」
「やってみなきゃ、わからんだろ」
「わかったよ。じゃ、一回だけだからな」
司令室のソファに座るジジイを後ろからどつく。
「痛っ。年寄りはもっと大事にしろ」
「一回だけだからな」
そう言って、オレは窓から出ていった。しばらくして戻ってくると、宋麗とジジイが揉めていた。オレは窓から中に入ってこう言った。
「ほおら、だから何回やっても一緒だろって言ったろ。ジジイ」
ジジイはそれでも取り繕い話を進めていく。
「この男はお前さんの腹違いの兄だよ。周司令官。名を周恩君。バトルネームをシューティングスターというんじゃ。周副司令、余計なこと言うなよ」
「ヘイヘイ」
オレは窓枠に腰掛けて不機嫌に返事をした。
「私に腹違いの兄など聞いたことがございませんが」
「ワシはお前さんの父から何度も聞いていたぞ。ワシはあいつの親友だからな」
「俄には信じられないですね。どう見ても私より若いでしょ」
「そうかい。これでもオレは五十歳だぜ」
「余計なこと言うなよって言ったろ」
「ヘイヘイ。おおこわ」
ジジイが司令室のソファに座っている。今度は肩をたたいた。
「黙っててやるからさっさと終わりにしろ。もう疲れた」
やがて、二人が部屋に入ってきて軍議が始まる。
「李老師、さすがです。このような短期間で難攻不落の海秋基地を陥落させるとは驚くばかりです」
「ハッハ、なあにこいつがね。ああなんだ。あれ、なに言おうとしたんだっけ。あ、そうそう。シューティングスターが瞬殺だよ」
軍議は粛々と進んでいく。周恩楽が提案する。
「では、これからはシューティングスター副司令官を中心に軍を進めていく」
もうそれでいいよ。
疲れた。
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