世界樹の精霊

 エルフの国に来てもう早いことで一か月。


「精霊……精霊なぁ。あたしも」


 精霊についての研究をする僕の傍には、ボハテルが戻ってきていた。

 しばらくの間、やるべきことがあるからと言って、僕の元から離れていたボハテル。

 その彼女はかなり長い期間、僕のいる王城には戻らず、紹介した先の人の元で生活していた。

 ボハテルが僕の元に戻ってきたのはほんとここ最近だ。


「無理だな。エルフの声の波長が特徴的っぽくな。人間の声じゃ無理。エルフの声でなければ、精霊まで届かない」


「えぇー。精霊……精霊魔法使いたかったなぁ。それあれば


「いや、別にそうとは限らないよ」


 エルフの国に来たばかりに立てていた仮説の一つ。

 精霊魔法とは、精霊その人に声を届け、魔法を使ってもらう術なのではないかという仮説はほぼ間違いない域にまで来ている。

 元素の力を持つ精霊はエルフからの答えに答え、世界ではなく精霊自身が世界を歪曲させる。


「精霊魔法は万能じゃない。そこまで強くないさ」


「あら、そうなん?」

 

「うん」


「可能性は感じなくないけど……別に、普通の魔法の練度を極めていった方が強いと思うよ。どうすればより大きく世界が変わるか。ただ願うだけでも魔法は発動するけど、だとしても、威力を求めるなら効率よく世界に声を届けられる確固たる詠唱を探して方が良いね」


「そうなんかい。何だ。精霊魔法も圧倒的ってわけじゃないのね」

 

「そうね。だから、強くなるなら普通に精霊なんかは通らない方が良いよ」


 そんなことを言いながら、僕はバチバチに今も精霊魔法の研究をしているけど。

 今は人工的に精霊を作り出せないか、試行錯誤している。

 まぁ、それは結局魔法はどうやって発動されるのか、っていうところで止まっているんだけどね?

 元素って、あくまでただ声を聞くだけだからな。そこからどうやって奇跡を生み出しているのか。まるでわからない……。

 まぁ、気長にやっていけばいいでしょ。ここら辺の研究は。そんなすぐに答えが出てもつまらないし。


「それで?世界樹の方はどうなったんだ?一か月経ったわけだけど」


「結構進捗あるよ」


「えっ?マジ?進捗あるの?」


「うん。ずっと世界樹近くの王城に暮らしていたからね。当然。色々進んだよ。元々、こうなった原因はわかっていたからね」


「えっ?そうなん?」


「うん。そうだよ。世界樹が枯れかけている原因。それは世界樹内の精霊が異変をきたしたことにある」


 厳密には違う。

 でも、今はこれでいいだろう。


「はっ?そこまでわかっているん?えっ?普通にすごくね?……えっ、はっ?精霊が原因だったの?」


「うん。それで、僕はもう原因である世界樹内の精霊には接触出来ているよ」


「ほぇ?」


 ずっと世界樹近くにいた。

 ここから異常をきたしている精霊が何処にいるのか、接触できるか。

 色々と繰り返した果てに、僕はしっかりと世界樹の精霊へと交流を持つことに成功していた。


「来て」


 その成果。

 僕はその精霊を簡潔に一言で呼ぶ。


「はぁーい。始めまして。件の元凶ですっ!」


 そして、そんな僕の言葉へと答えるように人の姿を伴って世界樹内の精霊がこの場に顕現する。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええっ!?」


 その精霊を前に、ボハテルは驚愕の声を響かせるのだった。

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