最強一族の最凶令息

1章 新しく始まる、全てに向けて

プロローグ

『実力こそが全てを決める』


 これは古くから伝わるとある一族の風習である。事実、その一族から排出される者たちは多大なる功績を過去に残している。


 ある者はとある大陸に災厄を齎したドラゴンを両断した。ある者は海を切り裂き、大陸間の戦争の阻止に一役買った。ある者は、ある火山の大噴火を阻止した。ある者は、常人を凌駕する大魔法で一国を滅ぼした。


 これはその一族に生まれた一人の男に焦点を当てた、一人の男の生き様を描く物語。




────────────────────



『それで、どうなのだ?』

『は、はい。その、令息様は…』






 俺の名前はアルス・レ・スタッガード。ドメリア大帝国に属する、スタッガード伯爵の次男である。次男とはいえ、俺はまだ3歳だ。何故こんなにも話ができるのかって?それは、この家の家訓、いや風習に起因する。



『実力こそが全てを決める』



 実にシンプル。そのため、この家では動けるようになってから英才教育が始まる。もちろん、動けるようになってからというのは、ハイハイができるようになった時に、だ。

 この家では、専属の従者一人と屋敷一棟が生まれた瞬間から与えられ、帝国の学院に入学するまではその屋敷で生活することになる。俺も、その屋敷の廊下を歩いていた。


「アルス様、おはようございます」

「ああ、おはよう」


 この紳士は俺専属の従者であるグレイル。今のように俺がどこへ行っても必ず用のある部屋の前で待機している。正直気味が悪いとも思うが、俺の考えを見透かした上での行動だろうと俺は考える。


「今日の朝食はなんだ」

「スープとブレッド、コーンソテーにステーキでございます」

「そうか、ありがとう」

「朝食を食べ終わりましたら、剣術の稽古に参られますか?」

「ああ。グレイルも、何かあれば指導を頼む」

「ほっほっほ。アルス様の才能ならば、この老爺に役立てることなど皆無かと」

「そんなことを言うな。グレイルならば俺も有意義な時間を過ごせると思っている。これまでも、これからもだ」

「そう言われますとこの老いぼれも身体を叱咤させてアルス様に向き合わなければなりませんな」


 グレイル曰く、俺は天才なのだそうだ。0歳なのに歩きだし、1歳で剣を握り、魔力を知覚した。そして2歳で、『オーラ』を発現した。それに、『神聖力』も発現した。とくにオーラと神聖力が同時に発現するのは稀有なことらしい。才能に恵まれた俺は、グレイルの言いつけを厳しく守り、胸に刻んでいる。


『才能に溺れてはなりません。才能とは、適切な努力があるからこそ才能と呼ぶのです。その完成系を、人は天才と呼ぶ』


 よく響く言葉だ、と俺も思う。だからこそ、俺はグレイルのこの言葉をしっかり、忠実に守り、毎日を研鑽に費やした。


 やがて朝食を食べ終え、稽古場に入る。


「アルス様、今回は私、第七近衛騎士隊副隊長、サラ・マレニアがお相手を努めさせていただきます」

「ああ、よろしく頼む」


 ──この家では、身分がどうだろうと、性別がどうだろうと、種族がどうだろうと関係ない。実力でこそ、序列が決まる。その実力は様々だ。武芸、魔法、弁論、権謀…様々な分野で競い合い、蹴落とし合う。それがここスタッガードの一族だ。


「それでは、まず基礎から固めましょう。それでは構え」


 彼女がそう言うと、俺は剣を抜き、構えをとる。


 ──剣とは、己を映す鏡なり。


 過去にそう唱えた人がいると言う。実際そうだ。剣を交えれば、その人の人となりがよく見える。その傾向によって、剣の基礎が違う。俺は…


 剣を抜き、腕から力を抜く。そうして10秒ほど目を閉じた後、利き手の件を腰にあてがえる。


「斬」


 彼女がそう言うと、俺は剣を振り切る。瞬間、遅れて剣を振った際に発生した風が吹く。とはいえ、そよ風程度ではあるが。


「基礎はよくできていますね。それではもう5回ほどやりましたら、次の訓練に移りましょう」


 俺は頷き、そのまま先程の構えをとった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る