第2話:ゲームするんですか?

 ――それから数日後、霧島晴人はいつものように駅前のゲーセン横の喫煙所に来ていた。

 梅雨の時期とは思えない晴天で、空には淡い雲がぽつりと浮かぶだけ。

 陽射しがコンクリートをじわじわと温める中、霧島はポケットから煙草の箱を取り出した。

「……今日はいるのかな。」

 静かな喫煙所で煙草に火をつけると、わずかに風が吹き、火の揺れる音が耳に残る。その時、少し遅れて扉が開く音がした。

「あ、やっぱり来てる!」

 柔らかく巻かれた金髪を揺らしながら、甘坂るるが煙草の箱を手にしてやってきた。白いブラウスにデニムのショートパンツという軽やかな装いが、晴天の空気によく似合っている。

「甘坂さん……また会いましたね。」

「うん、また来ちゃった。」

 るるは手慣れた様子で煙草を取り出し、火をつける。その仕草を見ながら霧島は静かに煙を吐き出した。

「ねえ、晴人くん。ここってゲームセンターでしょ? 君、ゲームとかするの?」

「ゲーム……ですか。」

 霧島は少し考え込みながら答えた。

「たまに、ですね。音ゲーとか格ゲーを少しやる程度です。」

「へえ、音ゲー! なんか意外かも。」

「意外、ですか?」

「だって、晴人くんって真面目そうだし。ゲームとかやるイメージなかった。」

「……偏見ですよ、それ。」

 霧島は小さくため息をつきながらも、少しだけ苦笑した。るるは気にせず、楽しそうに煙を吐く。

「ちなみに、音ゲーって何やるの?ポップなやつ?それともハードな感じ?」

「……どちらかと言えば、リズム感が必要なハード系ですね。」

「意外だなあ。そんなにリズム感良さそうに見えないのに。」

「それも偏見です。」

 霧島は少しだけ口元を緩めながら、灰を灰皿に落とした。るるは彼の反応を面白そうに眺めながら、さらに話を続ける。

「じゃあさ、格ゲーはどうなの?なんかマイナーなキャラ使いそうだよね。」

「……むしろ、操作が簡単でメジャーなキャラを選びます。効率重視なので。」

「えー、意外すぎる! もっとこう、複雑でマニアックなキャラ使いそう。」

「楽に勝つことが目的ですから。」

「晴人くん、なんかガチだねー。でも、なんかその真面目な感じが面白い!」

 るるは軽く笑いながら煙草を持ち上げた。

「じゃあさ、今度勝負しようよ。私、レースゲーム得意だから。」

「勝負、ですか。」

「うん! どうせここにいるなら、ゲームくらい一緒にやろうよ。」

 少し強引な誘いに、霧島はまた考え込むように目を伏せた。

「……まあ、時間があれば。」

「決まり! 今度ね!」

 るるは嬉しそうに笑い、煙草を灰皿に押しつけた。

「でもさ、レースゲームで負けたら罰ゲームとかどう?」

「……罰ゲーム、ですか。」

「例えば、次に会った時の飲み物をおごるとか!」

「そんなものでいいんですか?」

「いいのいいの! そういうのが楽しいんだから!」

 霧島は少し呆れたようにため息をつきつつも、るるの笑顔につられて口元を緩めた。

「……わかりました。それなら。」

「やったー! 次は絶対に負けないからね!」

 るるは元気よく手を振りながら喫煙所を出て行った。霧島はその後ろ姿を見送りながら、静かに煙を吐き出した。

 ――こうして、二人の「たわいない関係」は少しずつ広がっていくのだった。

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