3-1 Combat(馬腹)――多摩川近辺
『――
『ええいッ! 私が殴りつけるから、隊長、援護を!』
『分かった』
隊長、デービッド、クラウディアの戦闘が始まって、まだ5分と経っていない。
やや丘になった林の中からは、相変わらず耳にも残らぬ人為的な音。
頭の中では激しい掛け合いが木霊する。
各々の異能が、部隊を構成する――。
『敵怪異、距離を取って警戒しています』
中継局に繋がる無線機とエンタングルメントストーンを通じて――、キャサリンが状況を『
隊長やデービッドが見た光景が、彼女には
『こっちだ化け物――!』
探索中に接敵した場合、事前に隊長が『
それでも、派手に戦闘する訳にも行かない。
進駐軍兵士の発砲事件は耳目を流れ行く。
しかし、偶発的なそれと、戦闘任務は性質が大きく異なる。
「『おおおおおおおおッ!』」
クラウディアの拳は、異能で鈍く輝く。
彼女の『
――声はすれども、姿は見えず。
ただただ緊張感溢れる遣り取りが、脳内に響き渡る。
『クラウディアさん、無理しないでください!!』
『うるせぇ! 足腰立たなくしてやりゃ良いんだ!』
ザッ、ザッ――と会話の間に、打撃音のような雑音が入る。
エンタングルメントストーンの力に、彼女の異能が干渉でもしているのだろうか。だとしたら、クラウディアは敵怪異を
『敵怪異、フランスで遭遇した「ジェボーダン」に近いものと思われます! クラウディアさん、絶対に咬まれないでください!』
『――えぇい、くそッ!』
――聞いたことがある。
確かシートンの『動物記』だったか、数百年前のフランスに現れた、紛うことなき人食い狼。古い記録だから、正直、御伽噺の類いだと思っていた。
だが、彼女らの会話は、それが
私は静かに受話器を握る力を強めた。
『これなら、……どうだ!』
デービッドが叫び、林の中から癇癪玉のような大きな音が響いた。音らしい音が聞こえたのは、これが初めてである。それでも、意識しなければただの雑音、よくて花火である。
『
『よし、今だ! 眼を狙え!』
大型動物の
『敵怪異、動作の鈍化を確認』
『トドメだ、射撃開始!』
ラジオで聞くような、緊迫感のある朗読劇。そんな風情だが、実際には命の遣り取りが続けられている。銃口は怪異を捉え、間もなくこの戦いも終わる――。
その時だった。
『うわッ――!』
『待ちやがれッ!』
『まずい! 逃げたぞ!』
余裕すらあった声色が、一瞬で緊張の坩堝に叩き落とされた。
『そっちは、ウラベさんが!』
私が――、どうなる。
『ウラベ、聞こえるか! 怪異がそっちに逃亡した! もし接敵しても、身の安全を確保して逃げろ! 我々もすぐ行く!』
敵怪異が、こっちに向かっている――!
目の前の林。
既に
この先の見えぬ木々の影から、獣のような怪異が飛び出てくるのか……?
さっきまで、隊長達が何発も撃ち込み、クラウディアが打撃を叩き込んだ、あの怪異が……!
『ウラベさん、もし敵怪異が現れたら、極力離れてください!』
『――わ、分かった!』
張り詰めた緊張に、ぎゅうと胃が縮み上がり、内容物がせり上がってくる。自然と嘔吐き、下唇を噛みしめる。
――大陸での戦場。
砂煙の中、銃弾や砲弾が私を殺そうと迫ってくる、あの恐怖を思い出す。いや、銃火の中のそれだ。
咄嗟にジープ後部座席のシーツを剥がし、積んであった予備の消音器付
事前に説明を受けた通り、カバーを外し、指でボルトを下げる。
いつでも撃てる――。
通信機を右手に、左手で機関銃を構え、林の方へ銃口を向けた。
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