名探偵審議官
小石原淳
第1話 勝手に名探偵を名乗るの禁止
「今回もお手柄だったな。さすが、名探偵・
「ははは。警察の方達の協力があってこそですよ、
「かまわんよ。事件解決、真相究明こそが第一だ。誰が表舞台で脚光を浴びようが関係ない。実際、今の時代はけったいな事件が激増しとるからね。密室だのアリバイだの、推理小説的トリックを用いた事件は我々警察よりも、君のような名探偵が得意とするところだ」
「そう言っていただけると、気分が少し楽になります」
「そうかね。じゃあついでに一つだけ言わせてもらうが、いいかな」
「どうぞ」
「今度の事件、関係者の数を数えてみると、二十人ちょうどだった。わしや君、それに記録役の
「……善処します」
それから約半年後、ある法律が成立し、即日施行された。
通称、名探偵免許制度、である。
~ ~ ~
「初めまして、
「よろしく……と、化野剛なる名には聞き覚えがある。
「ご推察の通りです。才津先生のいわゆるワトソン役をしていました。ご存知でしょうが、名探偵審議官のなり手はワトソン役、名探偵とともに事件の真相究明に辺り、事件簿を記したことのある者が大半を占めます。誰よりも名探偵のそばにいて、名探偵なるもののなんたるかを把握できている人物という点を買われた次第です。無論、以前コンビを組んでいた探偵の審議官にはならないように振り分けられます。実体にかかわらず、不正を疑われる余地は極力排除すべきとの方針により」
「理解している。今回、事件の解明に当たっている間は、言うなれば君がワトソン役のようなものだな。大先輩の才津先生と比べられるみたいで、荷が重いよ」
「いえ、そのような比較しての採点は絶対に行いません」
「分かってるって。信用している。ついでに、合格のための道のりについても、再確認をしておきたい。いいかな」
「いいも何もするのが決まりですから。名探偵候補者は、事件を解決する毎に五段階の難易度に応じて1~5ポイントを獲得できます。難易度は、事件解決後に協会が決定します。ポイントには有効期限があり、獲得した日から一年経過すると消滅します。一年以内に獲得ポイントが10ポイントを超えれば、正式に名探偵候補となり、協会による認定会議にかけられます。
ポイントは期限切れの消滅以外でも、減じられる場合があります。その詳細はお答えしかねますが、たとえば解決までにあまりに多数の犠牲者を出した、解決に至るまで無用に長期間を要した等があり得ます。
事件には二つのタイプを定めます。一つは協会が指定する事件、もう一つは名探偵候補者ご自身が依頼を受けた事件。この内、ご自身が依頼を受けた事件は、難易度のポイントが“かける0.5”されます。たとえば結果的に難易度5の事件だったとしても、候補者ご自身が依頼を受けたものなら、獲得できるのは2.5ポイントとなります。
また、候補者は少なくとも5ポイント分は協会指定の事件に対処して獲得したものである必要があります。この条件を満たさずに10ポイントオーバーを達成しても、正式な名探偵候補とは認められません。
現時点における江川さんの獲得ポイントは、9.5ポイント。うち3ポイントと2ポイントを協会指定の事件にて獲得。間違いありませんか?」
「間違いない」
「今回取り組む事件は、江川さん自身が新規に受けた依頼、殺人事件の解決で間違いないですね?」
「それも間違いない。厳密な表現を取るならば、たまたま巻き込まれて成り行きで引き受けたという形だが、私自身が依頼を受けたと見なされるんだろう?」
「そうなります。協会指定ではないので、獲得できるポイントは最大でも2.5ですね。
最初のポイント消滅を迎える五月二十一日までに事件を解決し、難易度が2以上あれば、江川さんは今回で10ポイントオーバーを達成となります」
「君の判断による減点を想定すると、難易度が2ではちょっと心細いかな。はっはっは」
「公平公正な判断に努めさせていただきます。その点、安心して事件解決に取り組んでください」
「了解した。それでは参ろうか。依頼人は私を頼っていて、短い間でも不在になるのを不安がられていたんだ」
「急ぐとしましょう。言わずもがなですが、万が一、犠牲者が増えていた場合、現場を離れるという探偵の判断が誤っていたと見なされ、減点の対象となることがあります」
「承知している。ただ、この点に関しては、協会のルールにも問題ありとかねがね思っているんだがね。クローズドサークルの状況下にない限り、名探偵審議官とは直接会って迎え入れねばならない、だったか」
「申し訳ありません、規則でとしかお答えのしようが」
次の更新予定
名探偵審議官 小石原淳 @koIshiara-Jun
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