彼女をいじめたのは誰か

阿尾鈴悟

下校チャイム

 犯人は立花灯理だ。

 そう決まったのだからそうなのだろう。



 事の発端は一人の生徒が不登校になったらしいというものだった。

 細川伊織。

 目元が隠れる長い前髪に酷い猫背、体が弱いらしく良く風邪を引く。図書委員らしいといえば図書委員らしく良く本を読んでいて、話すときは小さな声だから全体的に暗い印象を持たれてしまう。いや、事実、人付き合いが決して得意な方ではないだろう。

 それでいて、時としては突拍子もないことをする。本で見た描写を試さずにはいられないのか、二階の窓から木に飛び移るも降りれなくなったり、屋上へ通ずる扉へ針金でのピッキングを試みていた。

 良く言えば不思議ちゃん。悪く言うなら明らかにクラスから浮いてしまっている。

 細川伊織とはおおむねそのような生徒だった。

 彼女が学校に姿を現さなくなったのは、雨の降る月曜日──休みが開けた区切りの良い日だった。

 空席というのは意外と目立ち、細川少女を除いて担任教師を合わせたクラスに所属する三十六名のほとんどが、彼女の座席──教卓から見て右からも前からも二番目に当たるその席に誰もいないと気付いていた。さりとて、心配するものはおらず、『いつもの風邪だろう』としか認識していなかった。

 その週、彼女はついぞ来なかった。

 翌週の月曜日も彼女は欠席をした。

 この頃だろう。その席が空席であるという──『クラスメイトの一人が欠席している』という事実を忘れ、予備か何かの座席のように扱われ始めたのは。

 仮にこの席の持ち主がクラスの人気者であれば、心配くらいはされただろう。

 だが、彼女は人気者ではなかった。好かれてはいないが嫌われてもいない。彼女はある意味、立場が無い生徒だったが、いまや立場の無い生徒になりつつあった。クラスにはすでに『彼女は休んで当然だ』という空気が流れて始めていた。

 そこから二日経った水曜日の帰りのホームルーム。伝達事項を言い終えた担任教師の篭原導はこう切り出した。

「細川がいじめに遭っていると言っている。何か知っている奴はいないか」

 問われても手や声を上げる生徒は居なかった。誰もが周囲の様子を伺い、探り、察してやや下を向く。

 生徒全員の様子に篭原教師は次の手段を取った。

「じゃあ、今日のホームルームは終われない」

 彼の宣言にクラス全体が動揺した。

 不登校の本人が『いじめに遭っている』と言っている。篭原教師は犯人を──クラスの不和を見つけなければならない。例え、多少の強行手段であろうともそうする他になかった。

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