第21話 黒萬 竜生
僕の名前は
だから中学のあの日、僕は初めて人に注意した。児玉剛義君。彼がいじめられている事は知っていた。なかなか踏ん切りがつかなかったけど、僕は勇気を出していじめている多古君に注意をしたんだ。
多古君はその時僕にも敵意を向けてきたけど、何故か次の日にはきっぱりといじめをやめてくれた。よく分からないけどどうやら説得は成功したみたいだった。その事に児玉君も喜んでくれて、そして僕たちはちゃんとした友達になった。
「おおー!黒萬たちも星4引いたぞ!」
高校生になったある日、僕たちのクラスはおかしな事に巻き込まれた。気づかないうちに変な部屋に移動していて、今は何故かカードを引いている。
そして僕と山下君のペアが引いたカードはキラキラした豪華なカードだった。
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【
『破壊』の力。森羅万象あらゆるものを破壊する最強種。世界の厄災。
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黒いドラゴンの絵が描いてあるカードには、なんだか怖い説明文が書いてあった。
破壊?厄災?これって悪者のカードじゃないのかな?
まあいいか、みんながすごいって言ってたし良い物なんだろう。
…その時はそんな風に思っていたけど、今は困った状況になってしまった。
友達の山下君と融合して得たこの【黒竜】の力は、僕はほとんど扱えなかったんだ。
同期率っていうのが2%しかないせいか、体のどこか1、2cmくらいに鱗を生やすことしか出来なかった。これじゃ何の役にも立たない。本当はすごく強い力なんだろうけど、この深い森の中で生き延びるための手段にはならなそうだ。
もともと争うことが苦手な僕は、なるべく隠れながら遠くに見える塔を目指す事にした。
水はなるべく少しずつ飲んでいたけど、2日目に無くなった。川も見つからないし、周りには変な木の実しか見当たらない。仕方がないので夜露をすすり、時には泥水を舐めてしのいだ。
3日目にもなるといよいよ空腹の限界だった。ここで僕は覚悟を決めた。
僕が「支給品」の箱からもらったのは、「解毒剤」と書かれた小さなビンだった。その効果を疑って使わなかったけど、もうそんな事を言っていられない。
僕は森に生えていた紫色の瓢箪みたいな実をもぎとり、一瞬の躊躇の後思い切ってかぶりついた。
フワッと甘い香りがしたけど味は全然美味しくない。それでも水分が多いからありがたい、と思って一つを食べ切った頃、異常にお腹が痛くなった。
「ま、まずい、これ、ぐぐぐ…」
僕は急いでズボンを下ろし、排泄物を出した。こ、これは毒だったんだ、全然止まる気配が無い。
震える手で「解毒剤」のフタを開け、数十粒入っているビンから一粒の錠剤をつまみ、飲み込んだ。
するとさっきまでの腹痛が嘘のように消えて無くなり、僕はそのことにひどく驚いた。
そんな綱渡りのような感じで何とか飢えを凌ぎ、歩を進めていた時にそいつは現れた。
「ゴフッ、グフヘァッ!」
「ヒィッ!」
棒を持った小さな化け物が僕の後ろを追いかける。森の中でバッタリと出会ったこの化け物は、僕を見るなり棍棒を振り上げて襲いかかってきた。
当然僕には対抗する術なんか無く、背中を向けて逃げることしかできない。そしてその先でさらにもう一匹の化け物と出会い、今は絶対絶命の状況だ。
でも命からがら逃げた先には頼もしい人達がいて、僕を助けてくれた。
剛義君に薄井さん、それと怖そうな生き物たち。みんな僕のことを警戒していたけど、剛義君のおかげで何とか僕を仲間に入れてくれた。
みんな強かった。あの鳥みたいなムキムキの…グリっていうやつはゴブリンをパンチ一発で倒してたし、あの薄井さんも躊躇なくゴブリンの首を切り落としていた。
僕だけが何もできなかった。ドラゴンの力はろくに使えないし、無理に使おうとすると気が狂いそうになってしまう。全く役に立たない自分が情けなかった。
剛義君は「僕も無力だよ」と言っていたけど、周りにいる仲間はみんな彼のために動いているように見えた。きっとそれが彼の力なのかな。人間的な魅力。僕みたいにただ笑っているだけの人間とはそこが違うんだろう。
「竜生君、一緒に戦おうよ」
ご飯をもらって一晩ぐっすりと眠った次の日、剛義君はそう言って僕に棍棒を渡してくれた。棍棒はズッシリして意外と重たいけど、これを振るだけなら僕でも出来そうだ。
隣で棒を振る剛義君を見ていると、戦うのが怖い僕でも一緒に頑張れるような気がして、僕は棍棒をギュッと握った。
相変わらず剛義君の仲間、グリとクロは僕のことを警戒してあんまり近寄ってこない。僕としてはもう少し仲良くしたいんだけど、剛義君が言うには僕の体から怖い匂いがするんだそうな。「それは多分【黒竜】の力のせいじゃないかな」と剛義君は言っていたけど、自分ではよく分からない。本当に僕からそんな匂いがするのかな。
「………」
「あ…う、薄井さん」
それと薄井さんも僕には近寄ってこない。気がつくと大体木や剛義君の後ろに隠れていて、そこで静かに佇んでいる。正直ちょっと怖い…夜に見るとそこらのホラー映画よりも心臓に悪い。さすがの僕も笑顔がひきつっちゃうよ。
でも剛義君はさすがだ。そんな薄井さんにも普通に話しかけてるし、ちゃんと薄井さんからも返答があるみたいだ。声が小さいから何を言っているのか僕にはよく聞こえないけど。
「どう?おいしい?」
「………(ボソボソ)」コクコク
そしてどうやら甘いものが好きみたいで、剛義君から支給品のチョコレートをもらって食べている。全然顔が見えないから分からないけど、ウキウキしてる感じは何となく分かる。やっぱりすごいな剛義君、彼女の好みを抑えるなんて。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
剛義君の掛け声にみんなが頷いた。出発するんだ、僕も皮袋を持たないと。
よし、頑張ろう。昔の事があるから剛義君は優しくしてくれるけど、他のメンバーからは信頼を得なきゃいけない。役に立って見せるぞ。
僕は剛義君にもらったゴブリンの棍棒を握りしめ、心の中で静かに気合いを入れた。
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