第20話 竜生君は強く無い
「た、
森から出てきたその人を見て、僕は思わず叫んだ。まさか僕の大恩人の彼とこんなところで再会できるなんて思わなかった。
「…つ、剛義君…?うわぁっ!魔物!!」
大声を出した僕に気付いた竜生君だったけど、僕の前に立つグリを見て驚いてしまったみたいだ。確かにグリは見た目怖いもんね、筋肉ムキムキだし。
「大丈夫だよ竜生君、こいつはグリ。僕の仲間だよ」
「な、仲間…魔物が。そ、そうなんだ」
竜生君は一応納得してくれたみたいだけど、続いて後ろの森からガサガサと魔物が飛び出してきた。、
「ゴブリン…3匹か」
『またこいつらか…しゃあねえ、やるか』
『俺、蹴散らす』
そして僕が何か言う前に二匹はゴブリンに向かっていった。なんという行動力、さすがです。
あっという間にゴブリンは叩き潰され、塵と消えた。何気に薄井さんも一匹倒してるじゃないか…また首斬り一発。さすがです。
「す、すごい。あのグリフォンみたいなやつも、あの女の子も…。あれ、もしかしてあの子って薄井さん?」
そんな戦闘メンバーの戦いぶりを見て驚いた様子の竜生君。でも所詮はゴブリンだよ?そこまで大したことじゃ無いと思うけど。いや僕は何も出来ないから何も言えませんでした。周りが強すぎて感覚バグってきてるのかな。
それにしても竜生君、けっこうボロボロじゃないか。そこら中アザだらけだし、何だかすごく苦労してきたように見える。
「竜生君、大丈夫?けっこう怪我してるみたいだけど…」
「ああ、うん。僕は弱いから仕方がないよ。それより剛義君、本当にありがとう。助かったよ。まさに渡りに船だよ」
ようやく落ち着いたみたいで、竜生君は少しだけ柔らかい表情になった。元々穏やかな人だからね、出来れば笑顔でいて欲しい。
「僕の方こそ、助けてもらってばっかりだったから。少しは役に立てて嬉しいよ」
「剛義君…ありがとう。それに薄井さんも、君たちも」
そうして竜生君は他の面々にもお礼を言ったけど、薄井さんは無言で幽霊みたいに佇んでるだけだし、クロとグリは竜生君を警戒している。これは僕が間に入らないとダメそう。
「え、ええと…」
「大丈夫、お礼はちゃんと薄井さんに届いてるよ。それとこっちはクロとグリっていうんだ。ほら、竜生君は悪い人じゃないよ。それどころか僕の大恩人なんだから、君たちもちゃんと挨拶してよ」
『チッ、しゃあねえなあ…俺はクロだ』
『…俺、グリ』
僕がそういうとクロはチョロチョロと竜生君の前に移動して、グリは身を低くしてそれぞれ挨拶してくれた。でも竜生君には分からないんだっけ。結局僕が通訳して伝えてあげた。
それより薄井さんは何で僕の後ろにピッタリついてるの?人見知りすぎない?相手クラスメイトだよ。何か僕のスタンドみたいになってるよ。…まあいいけど。
「それじゃお互いの状況を話さない?竜生君の話も聞きたいし」
「そうだね、その方がいいね」
「じゃあ丁度お昼だし、何か食べながらにしようか。うちには優秀な狩人がいるから」
そうして僕達は、お昼ご飯を食べながらお互いの話をする事になった。
…
「…それは大変だったね。ここまで無事で良かったよ」
「いやあ、剛義君の方こそ。お互い力が無いのは辛いよね」
一通りお互いの話を聞いて、二人でため息をついた。
あの時盛り上がってたから僕は知ってたけど、竜生君は星4つの【
物凄い力があるんだろうと僕も思ってたけど、どうやら同期率が低すぎてまともに力を使えなかったらしい。
その同期率は何と脅威の2%。力は感じるけど、意識を向けるだけで気絶しそうなほど頭が痛くなる。暴走が怖くて力を使う気になれなかったそうだ。
だから結局生身で戦ってたらしいんだけど、ゴブリンが二匹以上いたら勝てないから逃げ回っていたんだ、と話してくれた。
僕も自分一人じゃ何もできないから、竜生君の話には大いに共感した。運良くクロとグリに出会えたけど、一歩違ってたらどうなっていたか分からないからね。
「じゃあ竜生君も一緒に行こう。3人で協力して進もうよ」
僕は竜生君がいたら無条件で信用するって決めてたけど、その話を聞いてますます協力したくなった。恩人が困っている今が恩を返すチャンス、そういう気持ちもあったから。
「嬉しいけど…いいの?僕は本当に何も出来ないんだよ」
「うん。こういう時こそみんなで協力した方が絶対にいいよ」
「剛義君…ありがとう、よろしくお願いするよ。薄井さんもよろしくね」
こうして【
ちなみに竜生君にゴブ豆を食べてもらったけど、3つとも食べて1%しか上がらなかった。すごい成長率の悪さだ…。それでも初めて同期率が上がったと竜生君は喜んでいた。これは…先が長そうだ。
クロとグリは、竜生君から怖い匂いがするって言ってたけど、それは多分黒竜の力のせいだと思う。やっぱり竜は格が上なんだろう、本能的な恐怖を感じているんだと見た。
なので彼に危険は無いという事をせつせつと話すハメになってしまった。
薄井さんは何も言わなかったけど、多分竜生君の合流に同意はしてくれてる、と思う。一応チョコを多めに渡したら明らかに喜んでくれたから、大丈夫だと思いたい。賄賂は偉大だ。
一応僕が間に立つけど、早くみんなに竜生君の良さを分かって欲しいな。
「いやあ、まさか蛇がこんなに美味しいとは思わなかったよ」
竜生君はそう言って蛇を余さず平らげた後、すぐに眠りについてしまった。
今までろくに食事もとれず、夜も安心して眠れなかったんだ。今日くらいはゆっくり休んで欲しい。
もうここからでも塔が近くに見える。星の事は気になるけど…とりあえずもう少し頑張ればゴール地点なんだ。明日からは竜生君とも力を合わせて頑張ろう。
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