キラーキラーハッピーソウル・モンスターズマスター・スタースターゲーム 〜突然訳の分からないデスゲームに巻き込まれた学生は、最低ランクの星一つ能力で生き残る〜
花祭 きのこ
始まり
第1話 お鍋とお花
「ハァッ、ハァッ…」
キャンディみたいな派手な地面の上を全力で走る。空は一面七色に輝いていて頭がおかしくなりそうだ。
「うわあああーっ!」
星のピンク悪魔のゲームに出てくるなんとかウッズみたいな木の化け物。そんな目に光のないやつが、俺の後ろからズンズンと追いかけてくる。
な、何なんだこいつは、枝から毛虫落としたり空気吐くくらいの攻撃しか出来ないはずだろ。普通に走ってくるんじゃないよ、バグってんのか?
そして追いついたそいつが器用に根っこを使い、俺の頭の上にのしかかってきた。うわああー、そ、そんな重量にはとても耐えられん!やめろ、その攻撃は俺に効く!
そしてそのなんとかウッズみたいなやつはモニョモニョと俺の頭に根を張ってきた。なんとも気持ち悪い感覚が体を襲い、意識が遠くなっていく。そして気付けばいつの間にか俺の視点は、木の化け物の視点へと変わっていた。
ううむ…頭の上から見下ろす景色は新鮮だが、意味が分からん。何なんだこりゃ。展開についていけん。
ああそうか、これは…夢……
……
…
ん…
ん、うんん…?
何だ…
何か、頭が重いな…
雲のように真っ白でそれでいて何もない、そんなフワフワした世界から俺は少しずつ、少しずつ抜け出していく。
あれ、何かものすんごい怖い夢を見た気がする…けど思い出せん、なんだっけな。まあお漏らししてないみたいだしいいか。
そうして寝ぼけた頭でゆっくりと目を開いた。
「あれ…ここ、どこよ?」
周りを見るとそこは全く見覚えのない森の中だった。
呼吸をするだけで汗が滲むような蒸し暑い空気、やけに湿っぽい地面、背丈ほどに生い茂る草、異常に巨大な木、木、木。そんな場所に俺は立っていた。
ううむ…どこからどう見ても森だ。密林、樹海、THE・森。圧倒的な森の暴威を感じる。
所狭しとご神木みたいなふっとい木が乱立してるし、そのせいで空が見えないから何ともまあ薄暗い。
それに色調もおかしい。その辺に生えてる植物は紫とか青とか毒々しい色だし、形だって異様にキモい。うん、これは絶対におかしいね。魔界の原生林かな?
「…ファッ…!?え、何これ。ちょま…いやこれ、マジでどうなってんの??」
現実味を感じないこの状況をどこか他人事のように感じていたが、これはさすがにおかしい。というか絶対ヤバい。危険が危ない。一気に焦りを感じる。
ううむ、俺は何でこんな魔界みたいな場所にいるんだろうか。一体どういう経緯でここに?…俺、最後に何してたんだっけ??
待てよ…。えーと、そうだ少しずつ思い出していこう。
俺は
えーと確か昨日は深夜までネトゲやってて、敵対勢力の傭兵みたいなやつに闇討ちくらったんだっけ。うん、ここは覚えてる。
落とし穴の中に処理落ちする量のウンコ詰めて圧殺してくるとか、マジで頭おかしい野郎だった。PC直接破壊するのはやめて欲しい。
そんでイライラしながら寝て、朝寝坊したけどギリギリ学校のホームルームには間に合って、それで…。
あれ。んん??
…何でだ?どうしてもそこから先が思い出せん。
何故かそこから先の記憶がぷっつりと消えて無くなっとる。…いや怖っ。記憶が途切れるとかレトロなホラー漫画かよって。鳥肌立つわ。
「そして目が覚めればそこはガチ森とな。うーん、全く意味が分からん。しかも俺、立って気失ってたっぽいよな…それって可能なのか?…何なんだこの状況は…謎すぎだろ」
謎すぎワロタ。もう俺のファミコンスペックの脳みそはショート寸前だ。
誰かこの状況を詳しく優しく、そして丁寧にかつソフトタッチで教えてくれまいか。
…よし、こういう時はとにかく情報の整理をしよう。
きっと持ち物や何やらにヒントが隠されているのだ。これぞ脱出ゲームの基本。真実はいつも一つって中身が中年の養殖小学生もそう言ってた。
「差し当たってこれな。さっきから重たくてしゃーないわい」
俺は何故かずっと右手に持っていたそれを両手に持ち直し、まじまじと眺めた。
これは…どう見ても中華ナベだ。
中華料理屋で炒め物とかに使う、あの中華ナベ。多分鉄製の丈夫で重たい立派な中華ナベ。
俺、何でこんなもん持ってんの?こんなん自宅にも無かったし、もちろん学校にも無かった。完全に謎である。
「こっわ…何でこの状況で中華ナベもってんだよ。全然分からん」
裏面とか色々くまなく調べてみたが、どう見ても何の変哲もない中華ナベだ。銘も無い。状況把握のヒントにもならんし、ひとまず鍋は地面に置くことにする。
さて、気を取り直して検分の続きをしようか。
えー着ている服はいつもの学ランだろ、そんで中は白いワイシャツ、安物の腕時計、上履き、皮袋、それと…
「ってぉおいぃー!皮袋て!カワブクロて!!」
危なかった。しかしここの税関は通せまへんで!皮袋。皮袋さんはさすがにスルーできまへんでぇ!
いつの間にか俺は小汚い皮袋を肩に担いでいた。いや違和感無くフィットしてたんで全然気づかんかったわ。
しかし…え、ホントにコレ何?バッグじゃなくて皮袋…。コスプレ?何かの小道具か何かですかね?
「あっ意外と軽い。どれどれ、中身は何じゃらほいっと…」
この状況を知る為の手掛かりが何かあるかもしれない。そんな期待を胸に、俺は皮袋の口を開いた。
「これは水だな。…ん?何だこりゃ」
袋の中からは500mlの水のペットボトルが一本、それと昆虫ゼリーみたいな物体が2つ出てきた。
その謎の小さな容器を手に取ってみる。
中身は緑色で、ゼリーよりもちょっとゆるい。振るとチャポチャポ音がする。
ラベルを見てみると、そこには『回復薬』と書いてあった。、
「回復薬…?回復薬って、あの?薬草とかポーション的なアレ??はは、冗談だろ、はいはいナイスジョーク。…いやでもこれ…。もしかして本物の可能性、ある…のか…?」
こんなもん怪しさ満点満州事変だが、何せ今の状況じゃそれを一笑に付す事は出来ない。
無くした記憶に禍々しい樹海、謎の皮袋、回復薬らしきもの。
ドッキリやイタズラの線も考えたが、さすがに大掛かりすぎる。だとすればこれって…もしかして、もしかすると、あるのか?ラノベ的なアレ…異世界転移、なのか?
始まったのか?
中華ナベを装備して冒険するタイプのハイセンスファンタジー冒険譚が始まってしまったのか?だとすると俺のジョブは鍋奉行とかなのか?
「まあ待て待て、結論を急ぐな。まだ慌てるような時間じゃあ無い。それにまだツッコミどころが残ってる」
まだまだ検分は終わらない。先走る自分をなだめながら、俺はさっきからずっと気になっていたソレに手を伸ばした。
「ちょっとシャープな変身ベルトみたいだな」
いつの間にか俺の腰には、近未来のオモチャみたいなベルトが装着されていた。
異様に軽くて気持ち悪いほど体にフィットしている、謎のベルト。シルバーなバックル部分にはボタンが一つ付いている。いや、横にちっちゃいツマミも付いてるな。
…うむ、これが何なのかは分からないが悪くない。ちょっとだけカッコ良いじゃないか。センスを感じる。
怪しみながら恐る恐るそのボタンを押してみると、カシャン!と音がしてバックル部分が開いた。
「オゥフ、ビックリした!…お、何か中に入ってるじゃん。…これは、カードか?」
ビビりながらベルトを開けると、中にはトレーディングカードみたいなカードが一枚だけ入っていた。
俺はそのカードを取り出して、まじまじと手に取って見た。
カードには絵が描いてあった。
茶色い大根みたいなのがちょっとだけ土から出ていて、その大根には顔がある。顔はニコニコとした可愛い顔で、その上にはヒマワリっぽい黄色い花が咲いている。そんな間抜けな感じの絵だった。
さらにその絵の下には、何やら説明文みたいなものが書いてあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【
『再現』の力。その混沌は全ての植物を喰らい、そして成長する。
同期率:38%
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…?
マンドレイクって、あの引っこ抜かれると絶叫するアレか?
別名マンドラゴラだっけ。でもマンドラゴラって植物食うモンスターだっけ?薬の材料とかのイメージはあるけど、そんな話は聞いたことないぞ。それに何だか物騒な説明文。うーむ、よく分からんがこれは俺の知ってるやつとは別物なのかもしれん。
それにしても星一つとはショボい。どう見てもレアではないし、これはクソ雑魚のハズレカードかな。
裏面には「ハッピーモンスターズ」というロゴみたいな文字が書いてあるが、そんなカードゲームは聞いたことがない。
しかし何だってこんなカードが大事にしまってあるんだ?このベルト、どう見てもこのカード専用のホルダーだろ。
むむ、実はこのカードは重要アイテムだったりするのかもしれない。よし、とりあえず戻しておこう。
俺はそのカードをベルトのバックルの中に戻しておいた。あっ、何か小銭が数枚入るくらいのスペースがある。薄っぺらいものなら入れられそうだ。とりあえずキレイに剥けたささくれでも入れとこう。
そして横についてたツマミを下げてみたらパチンと音が鳴った。どうやらロック機能のようだ。カギ付きとは、ますますこのカードの重要疑惑が深まってきたな。
「さて、最後はポケットだけど…」
いよいよ持ち物検分も最終段階。今のところ怪しいヒントは回復薬と謎のカードだ。状況把握の決定打には至らない。俺は学生服のポケットをゴソゴソと探った。
「レシートと500円玉と、あれ、何で生徒手帳がこんなところに」
ポケットから次々とゴミを出していき、最後に胸ポケットから出てきたのは生徒手帳だった。しかし俺はこんなもの入れた覚えはない。第一生徒手帳なんて一年生の時くらいしか持ち歩いてなかった。
俺は怪しみながら手帳を開いてみた。
『私立塩麹高等学校 2ーB 瑠璃丘 正義』
うむ、間違いなく俺の生徒手帳だ。
しかしページをめくると、そこには印刷された字で妙な事が書いてあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第一の試練】
星を3つ集めて鉄の塔へ行こう!
〈注意〉
カードは星。星を集めているのは君達だけじゃ無い。取られると死んじゃうよ。
与えられた力を上手に使おうね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ファッ?????
試練…試練とな。
どうやら俺は、いつの間にか何かの試験的なモノを受けていたらしい。ちょっと、勝手に人に試練を課すのやめてくれませんかねえ。
とにかく怪しい謎の文章。これを素直に信じるならば、星とやらを集め鉄の塔なる場所に行けという事らしい。何ともアバウトな指示だが。
いやホント、一体誰の何のための試練なんだよ…とは思うが、今のところこれが一番有力な情報なのも事実。何せ場所を指定しているんだ。つまりその塔がゴールって事だろ。
となると、ひとまずその鉄の塔とやらを探すのが良さそうだ。が、しかし星が何のことやらサッパリなんだよな。星、星ねえ…
「あっ、もしかして」
そこで俺はピンときた。冴えてる。俺は今日冴えてるぞ。
カードは星。そして今カードといえばこれしかないじゃないか。
俺は再び腰のバックルからカードを取り出した。相変わらずの間抜けな絵、よく分からんフレーバーテキスト。そして書かれている一つの☆マーク。
おそらくはこれが星。つまりはこれと同じようなカードを3つ集めればいいってことではなかろうか。
待てよ…俺の他にも集めてる奴がいる的な事が書いてあったな。あれ?て事はまさか、このカードの奪い合いになるのか?
「えっ…て事は、もしかしてこのショボいカード取られたら俺、死ぬの?」
…。
俺は無言でそのカードをバックルの中へと戻し、パチンとしっかりロックした。
いや、頭から信じたわけじゃ無いけどね。そんなこと言われたら怖いじゃん。うっかり失くすだけで何か取り返しがつかなくなりそうで怖いじゃん。一応ね、一応大事にしまっとこうね。
「しかし与えられた力、ねえ…」
正直ずっと気にはなっていた。そして嫌な予感もしていた。
それがカードの絵を見て生徒手帳の文章を読んだ時、その予感は確信へと変わってしまった。
というのも、さっきからずーっと頭が重たいのだ。重量的な意味で。
…確実に何かが頭の上にある。
何故なら、俺が動く度に「それ」がグイ〜ングイ〜ンと連動して動き、頭にそのボヨヨンとした反動を感じるのだ。
与えられた力と頭の上の感覚。つまりその“何か”とは、おそらく…
俺は覚悟を決め、そっと頭に手を伸ばした。
柔らかい…薄くてフワフワしてる。コレは…葉っぱかな。
そしてその上。細い…うむ、これは茎だ。その上にはやはり…フサフサしている、花ですね。
そして手先を下の方にずらす。案の定、根本はぽっこりと盛り上がっていた。木の皮みたいにざらざらしてるけど、形はまるで大根のようだ。
これは…もう認めるしかあるまい。
「頭に花、咲いとりますがな」
俺は間抜けな声を出した。
だって仕方がないじゃない。アホみたいな話だが、俺の頭にはしっかり花が咲いていたのだ。ていうかもういいや、多分これマンドレイクだろ。あのカードに描いてあった人面根っこのマンドレイク。
…いや何でだよ!ちゃんと地面に生えろよ、こんなもん人間の頭に生えていいもんじゃないよ!
「俺の頭は畑じゃねえ!!」
鬱蒼と茂る森の中、俺の叫び声だけが虚しくこだました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます