第23話 桃犬会談⑥

「今回の事の原因は、桃太郎農園の中でも悪しき心を抱く者たちが密かに阿片を使い、キジたちを毒に染めたことだ。阿片の毒でキジたちを犯した者への怒りから、未知の者たちが、植物を制御し、阿片を悪用する者たちを城ごとひねりつぶし、滅ぼしたのだ。」

 そのことが初耳だった犬たちは驚き、唖然としていた。一方で、桃太郎の側近たちは桃太郎が何故鬼たちの目的が分かっているのか疑問に思いました。しかし、この場で桃太郎に聞くわけにもいかず、黙りこくるしかありませんでした。

 桃太郎は続けて、こう言いました。

「私は阿片を医療以外の目的で使うことには強く反対しており、キジの森を毒に染めた者たちに怒りを抱いている。故に今回の出来事を起こした未知の者たちの行動に一定の理解を示す。

 そして、問題はまだ終わっていない。阿片を悪用した者たちの中には、生き延びている者もいる。彼らは影に隠れ、いまも再起の時を狙っている。」

 そう話す桃太郎の目は真剣そのものでした。


 この状況を打破するため、桃太郎は犬の帝王に助力を求めました。

「我々が協力し、阿片を悪用した残党を滅ぼせば、未知の者たちと連携する道が開けるかもしれません。」

 犬の帝王は鋭い目で桃太郎を見据え、ゆっくりと答えました。

「ふむ、それはあくまで仮説にすぎぬ。だが、植物を操る種族と友好関係を築くことができるなら、それは我が帝国にも利益をもたらすだろう。」

 この一言に、その場の空気が少し和らぎそうに見えたが、しかし、彼はさらにこう続けました。

「ただし、ただで協力するわけにはいかぬ。最近、桃太郎農園の民が肉を口にするようになったと聞く。我が帝国の主力産物である肉を貿易に取り入れることを、同盟の条件に加えるべきだ。」

 犬の帝王はその言葉の裏に自信を秘めていました。彼の嗅覚は鋭敏で、桃太郎農園の村々から漂う微かな肉の匂いを察知していたのです。この匂いは菜食主義を掲げていた以前の桃太郎農園ではありえないものでした。


 その言葉に桃太郎は少し考え込み、隣に控えていた栗鳥栖に尋ねました。

「栗鳥栖よ、肉とはどのような味がするのだ?」

 唐突な問いに、栗鳥栖は目を丸くしました。この場の緊張感にまったくそぐわない質問だったからです。

「そ、それは…少し脂っこくて、香ばしくですが…」

 桃太郎自身は光合成や植物から栄養を取っており、肉を食べたことが一度もなかったのでした。

 犬の帝王はそのやり取りを見て豪快に笑い声を上げました。

「よい。では、この後の会食で我が帝国の最高の肉料理を振る舞おう。そして、その味を確かめたうえで同盟を結ぶか否かを決めれば良い!」

 その一言に呼応して、桃太郎も

「こちらも我が農園の最高の食材で貴様らの胃袋をつかんでやろう!」


 こうして、再び夜の刻に、桃太郎農園の城にて会食を行う取り決めを行い、話し合いは閉廷となった。桃太郎は、柿万次郎と栗鳥栖に、会食の料理を用意するように命令した。柿万次郎は少し困りながら、栗鳥栖に

「どのような料理を用意すべきか、ともに話し合ってはくれないか」

といったが、栗鳥栖は

「そういうのは貴様の役割だ。じっくりない頭で考えるのだな」

といって、彼女の側近を呼びつけ、さっさと行ってしまった。柿万次郎は彼女の後姿を見ながら途方に暮れてしまった。

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