第21話 桃犬会談④

 栗鳥栖と犬の皇帝は城の前の平地において向かい合いました。お互いの意思を無言の中で読み取る幾分かの時間の後、栗鳥栖が初めに啖呵を切りました。

「私たちは植物の力を操る民です。そしてその力はあなた方が緑壁で実際に体験していますわね。」

 その挑発的な一言に、犬たちはいらだち、歯を食いしばった。それをしり目に栗鳥栖は話を続けた。

「今回の緑壁の崩壊は、この桃太郎農園東において逆らい攻め入ったキジ、猿を葬るために力を行使したために発生したのです」

 これを聞き、犬たちにざわめきが起こりました。この様子を見て、栗鳥栖はあと少しで押し切れると確信しました。

「この力を再び君たちに行使することもできる。しかし、植物たちも、そして桃太郎も攻撃をして、多くの犠牲を出すことを好んでいない。実際、君たちと我々の戦いにおいても、桃太郎は緑壁を築くことで、犠牲者を最小限に抑えようとしていた。我々は戦いを好まない。いまここで、不戦の契りを交わし、この戦争を終わらせたい。」

 これを聞き、犬たちのなかでは同盟を結ぶべきと騒ぐものが出てきました。そして、それに呼応して、どんどんと騒がしくなっていきました。しかし、この騒々しさは犬の帝王の一言によって静寂となりました

「この話には大きな矛盾が一つある。故に説明願いたい。」

 これを聞き、栗鳥栖はこう問いました。

「どのような矛盾がありましょうか。」

 それに対し、犬の皇帝は

「桃太郎は戦いを好まず、攻撃を嫌うということならば、我々に対する緑壁は理解できる。しかし、今回の巨大樹は我々が考えるに、なにか一定の領域に存在するものを植物で絞殺したかのように感じる。これすなわち守りの意志ではなく、攻撃の意志故ではないか。この矛盾をどう説明する。」

 これを聞き、栗鳥栖はこの交渉は一波乱あると腹をくくりました。


 犬の皇帝の発言に、栗鳥栖はどう返答するか考え、刹那の間押し黙りました。そのわずかな沈黙を見逃さず、犬の皇帝は続けて話し始めました。

「この植物の守りの意志と攻めの意志、これすなわち力を操るものの違いを感じる。我々も目撃したように守りの意志は桃太郎のものであったが、攻めの意志は別の者の力であると考える。

 しかし、この稀有な力が多くの者が持っていると考えることは難しい。故にこの力は桃太郎の一族が持つ力であり、桃太郎の一族の内乱が桃太郎農園内で起こっている。そう断定した。」

 栗鳥栖はこの発言を聞き、半分が真理であることに驚きつつ、半分の誤解に好機を見出し、話に乗ることを決め、こう尋ねました。

「仮にそのようであったとして、犬帝国はどのように行動なされるのでしょう。」

 犬の皇帝は表の表情は変えず言いました。

「我々も無益な殺生を望まぬ。故に桃太郎と手を組むことはよしと考える。そして、他の勢力と手を組むことはよしとしない。」

 栗鳥栖は安堵しました。しかし、犬の皇帝は次に一つ要求をしました。

「しかし、これはまだ朕の憶測にすぎぬ。故に桃太郎と直接話をし、この同盟を直接取り付けたい。国の運命を決めること故、この我儘を呑んでいただきたい所存。」

 この一つの要求によって、栗鳥栖は窮地に追い込まれてしまいました。

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