第19話 桃犬会談②

 キジ・猿の連合軍と桃太郎農園東軍との戦いの最中に突然鬼が現れ、この地上のあらゆる植物が桃太郎農園東の城に絡みつき、城をつぶし、巨大樹のごとくなったとき、桃太郎農園西では桃太郎が作った緑壁が恐ろしい音を立てて崩れ去っていました。

 桃太郎農園西を収めていた柿万次郎はこの轟音を聞き、急いで外を出ると、目の前で緑壁全体が一気に崩壊していき、緑壁を構成していた植物たちが桃太郎農園東に向かって、まるで緑の大蛇のように地を這い向かっていく様子が目に映りました。

「一体どうなっているんだ…」

 柿万次郎はこれを見て、何が起こっているのかを考えると同時に、緑壁の中にいる桃太郎に何かあったのではないかと考えました。柿万太郎は急いで、側近たちに数名の兵を集め、緑壁のうち、桃太郎が埋まっている位置に急行することにしました。


 柿万太郎が桃太郎の埋まっている位置に着くと、そこには服はボロボロ、全身傷だらけの桃太郎が倒れていました。柿万次郎は馬から降り、桃太郎に駆け寄り

「桃太郎殿、大丈夫ですか!!」

 と声を掛けました。桃太郎から返事はありませんでしたが、かすかに息をしていることを柿万太郎は気づきました。柿万太郎はいますぐこの場で治療するべきか迷いましたが、この緑壁があった場所は犬と桃太郎農園の堺目であり、危険な地帯であったため、桃太郎を抱え、急いで桃太郎農園西の城に撤退することを決めました。

 撤退する途中、柿万次郎は桃太郎農園東に、天に向かって伸びていく植物たちを見ました。植物たちはどんどんと数を増やしていき、最終的には巨大樹のようになりました。側近たちはこれを見て、驚き、

「桃太郎殿以外にも植物を操るものが存在するとは…」

と口々に言いました。これを聞き、柿万太郎は言いました。

「桃太郎殿を産んだ御父上、御母上がこの能力を持っていてもおかしくはない。むしろ自然なことだ。我が桃太郎農園を守るために、力をつかったのだろう。」


「万太郎、あんたは全然事態を把握していないのね。現状はそんな気楽なもんじゃないのよ。」

 しかし、この考えは駆け付けた桃太郎農園北の女王、栗鳥栖にきっぱりと否定されました。栗鳥栖の軍は雉桃猿大合戦時に裏で北東から攻め入った猿たちの桃太郎農園での経路と食料を提供し、猿の兵士たちが食料難によって疲弊してしまうのを防ぎ、猿の進軍に加担していたのだった。しかし、鬼の出現、緑壁の崩れる轟音、桃太郎農園東に向かう植物たちを見て、栗鳥栖はとっさに桃太郎の復活の可能性を考えた。

栗鳥栖は側近たち少数を連れて、桃太郎農園西の城に向かい、柿万太郎たちが桃太郎を救出し、連れて帰ってくることを城の前で待ち構えていたのでした。

 柿万次郎たちは、負傷した桃太郎と栗鳥栖たちを城に迎え入れました。そして、一通り桃太郎の治療を終えると、こう栗鳥栖に聞きました。

「事態はいまどうなっているんだ。」

 栗鳥栖は、心配そうに桃太郎を見ていた目から、きりっとした目に瞬時に変え、柿万次郎のほうに顔を向け、今まで起きた雉桃猿大合戦のこと、鬼の襲来、そして、鬼が植物を支配する力を使い、城をつぶしたことを説明した。

「我らが西の再建を行っている間に、そんな恐ろしいことが起こっていたとは。」

 驚愕しながらも、柿万次郎は事態を理解し、すこし考えたあと、さらに言葉をつづけた。

「鬼が襲来し、そして、鬼と桃太郎が同じ能力を持っているということは、敵対関係であれ、仲間の関係であれ、桃太郎が目的で出現した可能性が高い。だから、鳥栖はここに急行したのだな。」

 これを聞いた栗鳥栖は、

「それも一理あるわ。けれど、もっと近くに確実に起こる解決しなければならない問題が起こるわ。私はそれを解決するために来たのよ。」

 こう言ってにやりと笑いました。

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