最弱陰陽師の黄泉帰り転生無双~地獄で10万年修行した少年、神すら凌駕して世界最強になったが未だに修行中だと思い込んでいる~

ラチム

第1話 最弱陰陽師イサナ、死亡

「除名……?」


 ボロアパートの一室で俺は呟いた。

 手紙に書かれていた内容、それは俺を陰陽師連盟こと陰陽連から除名するというものだ。

 除名理由は一定期間の成果を上げられていないためというものだった。


 俺はバイトを掛け持ちしながら陰陽師として生計を立てている。

 12歳の時に親を事故でなくしてからは施設に引き取られたが、間もなくして陰陽連からスカウトされた。

 一定以上の霊力があると認められたらしく、俺は舞い上がったもんだ。


 陰陽師といえば子どもがなりたい職業ナンバー1であり、俺もその一人だ。

 世にはびこる怪異を討伐するなんて憧れないわけがない。

 陰陽師は古くから存在していて、今は大手企業や政界とも繋がっている。


 両親が生きている時はこのまま大人になってつまらない仕事をする人生かと落ち込んだもんだ。

 それがスカウトだなんて全能感で満たされた気分だったよ。

 施設から引き取られたオレは陰陽連で修行をした。


 ところが俺は人よりものすごく物覚えが悪い。

 陰陽師の基本の術である五行の壱の習得すら8年もかかる始末だ。

 俺と同期で入った子ども達は次々と卒業していって今も立派に活躍して、或いは死んだ。


 そう、陰陽師は言われているほど華やかなものじゃない。

 何せ3年後の生存率が10%を切っている。

 俺とほぼ同期の男の子はわずか半年で五行の壱を習得して天才だと持て囃された。

 養成所を卒業してからは晴れて陰陽師となり、間もなく第一怪位の怪異討伐に成功する。


 ところが一年後に凶悪な怪異に取り込まれて殺されたと風の噂で聞いてしまった。

 要するに俺達は使い捨てだ。

 次々と死んでいくから次々とスカウトしなきゃいけない。


 今をいくスター陰陽師なんてほんの一握り、いや。一つまみだ。

 多くは怪異に殺されるか未だ行方すら知れない状態となっている。

 それでもオレの陰陽師への想いは消えなかった。


 俺は昔、陰陽師に助けられたことがある。

 学校からの帰り道、怪異に襲われたオレを陰陽師が救ってくれた。

 俺の目にはヒーローが写っていて、それから何をするにも陰陽師のことが頭から離れなくなる。


 思えば俺の霊力はあの時に覚醒したように思える。

 よく心霊体験をしたら霊が見えるようになると言うが、あれはあながち間違いじゃない。

 極度の恐怖体験が眠っている霊力を呼び覚ますことがあるようだ。


 陰陽連に引き取られて実にから実に8年。

 陰陽連の養成所は3年で追い出されたが、それから独学で合計8年もかけて五行の壱を習得したんだ。

 陰陽師のデビュー条件は基礎の五行の壱の習得、こんな俺でも陰陽連は認めてくれた。

 俺は張り切って仕事をするつもりでいた。

 ところが俺みたいなのに依頼が舞い込んでくるはずがない。


 そりゃ一定期間の成果どころじゃないさ。

 そもそも仕事がないんだからな。

 だから今はこうしてバイトを掛け持ちしながらボロアパートで生活している。


「はぁ……どうしたもんかね」

 

 俺だって仕事さえあれば。何度もそう思った。

 確かに五行の壱しか使えないけど、チャンスさえあれば第一怪位の怪異くらいはやれるはずだ。

 力なく手紙を落とすともう一枚の紙がはらりと落ちる。


 そこには陰陽連が俺によこした依頼が書かれていた。


* * *


 依頼内容は廃屋にいる怪異の討伐だ。

 昔、独身の男が住んでいたらしいが同僚に振られた腹いせで首吊り自殺をしている。

 それ以来、ここには自殺した男の霊が出るということだ。


 この依頼は陰陽連が俺に与えた最後のチャンスだ。

 これをこなすことができれば首の皮が一枚繋がる。

 陰陽連、いいところあるじゃん。

 よし! オレは今からこの廃屋に突撃して人生逆転を狙う!


「こぉーーい!」


 気合いを入れるため、俺は大声を出した。

 当然反応なんか返ってこない。怪異とはそもそも何なのか?

 それは悪霊かもしれないし、そうじゃないかもしれない。


 例えば道を歩いていたらなぜかいつまで経っても家に着かない。

 これも怪異だ。原因は様々だが、悪霊が絡まないこともある。

 現象含めてすべてが怪異だ。


 基本的にわからないから怪異と呼ばれている。

 ここにいるのは悪霊のようだし、その点はわかりやすい。

 陰陽連の手紙によればここの悪霊は第一怪位、駆け出しにはもってこいの相手だ。

 オレは廃屋の中を歩き始めた。


「ふぇぇーん……」


 どこからか女の子の泣き声が聞こえる。

 さっそく怪異のお出ましか。

 いるのは男の悪霊だが、何が起こるかわからないのが怪異だ。


 悪霊が女の子の声を出しておびき出しているのかもしれない。

 俺は慎重に進んだ。

 するとそこにはへたり込んで泣いている幼稚園児くらいの女の子がいた。

 見たところ霊とは思えないが、どうだろう?


「き、君。こんなところで何をしているんだ?」

「おともだちときたら、はぐれちゃったの……」


 状況は掴めないが肝試しか?

 こういうことがあるから廃屋の怪異は討伐対象になる。

 この子が怪異とは思えないし、ひとまず連れ出すか。


「さぁ、一緒に出よ――」


 手を伸ばした先にいる女の子の背後にそれはいた。

 剥き出しの黒がない白目、黒い雨に降り注がれたかのように見えるコート。

 それは紛れもなく血だ。


「けたぁ、けたぁ、けたぁ」


 首に巻き付けられているローブが締まって白目が飛び出す。

 口から吐き出したドス黒い血がびちゃびちゃと床を汚した。

 その手に握っているのは錆びた包丁だ。


「な、なんだよ、これ」


 対峙しただけでわかる明らかな霊力の違い。

 頭が真っ白に塗りつぶされてしまうほど俺の思考は固まった。

 その直後、俺は理解する。


(第一怪位どころじゃ、ない)


 そうか。これはチャンスなんかじゃない。

 陰陽連は明らかに無理難題をふっかけてオレを始末しようとしてるんだ。

 そうだよな。いつまでも役立たずを登録させておくほどお人好しじゃない。


「ご、五行の、い、いち……」


 オレが印を結ぶと同時にずぶりと体に何かが侵入した。

 鋭利な異物が俺の腹を貫き、引き裂かれる。


「み、ツケ、ツケケケケ、たたたたたぁ……けたけたけたたたぁぁーーーー!」


 激痛で叫ぶ間もなく俺の首が床に落ちる。

 床に広がる俺の血、人生の幕切れはあまりに呆気なかった。

 無月 イサナ。享年20歳。廃屋にて死亡。

 そんな風に何かの記録に残ればいいなというのが俺の最後の願いだった。

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