第1章:歯車仕掛けの都市ネフィリス

第1話:「転移門を抜けて、蒸気薫る世界へ」

 漆黒の空間に、柔らかな光が浮かぶ。この世界でもなく、あの世界でもない、中間の場所。「中継空間」と呼ばれる特殊な領域だ。

 広大なホールのような場所で、床はまるで星空を封じ込めたようにきらめき、壁際には不思議な紋様が走り、柱には淡い魔力の明かりがともっている。ここは全能の魔女ミーシャが創り出した拠点。無数の並行世界を繋ぎ、そこへの通路として、また避難所や訓練所として機能する新たな基盤である。


 ホールには約100人もの女性たちが集まっていた。彼女たちは皆、かつて異なる世界で「魔女」と疑われ、迫害され、殺される寸前まで追い詰められた普通の女性たちだった。魔女などではない。ただ、理不尽な偏見や恐怖により魔女扱いされていたに過ぎない。しかし、全能の魔女ミーシャが救い出し、ここへ連れてきたことで、彼女たちは死の運命を逃れ、新たな人生を得たのである。


 もし読者が前作を知らなくても安心して欲しい。簡単に言えば、ミーシャはかつて弱い立場で魔女狩りに遭い、死ぬはずだった少女だったが、異世界で奇跡的な力を得て全能の魔女となった。その後、怒りと悲しみから復讐を遂げ、無数の世界を巡る中で今は違う生き方を模索している。

 彼女はかつての自分のように苦しむ女性たちを救い出し、この中継空間に保護し、学びの機会と安全な生活環境を与えた。今、彼女たちは自由になったばかりで、まだ何が起きたか分からないが、少なくとも拷問も牢獄もなくなった。


 この新しい物語「リバイバルウィッチ〜調停者たちと多元界〜」は、そんなミーシャと100人の魔女(実際には魔女扱いされた普通の女性)が、多元世界の混乱と対峙する物語だ。彼女たちは今後、様々な世界へ派遣され、問題解決にあたる“調停者”として成長していくことになる。


 では、今その始まりを見てみよう。



---


「静かにして。」

 黒いローブをまとったミーシャが、ホール中央で柔らかく声を発した。その声は小さくても、この空間全体にすっと響き、100人の女性たちが自然と注目する。

 ミーシャは全能の魔女。どんな魔法も扱え、どんな世界も移動できる存在だが、今は威圧的な姿勢ではなく、淡々とした物腰で、救済者兼教育者としての役割をはたそうとしている。


「ここから始まるのは、新しい活動。あなたたちには、安全な居場所と学びの場を用意した。もう魔女狩りに苦しむ必要はない。」

 ミーシャの言葉に、女性たちはほっとした表情を浮かべる。彼女たちはここ数日、安静に過ごし、治癒や栄養補給を受け、命を繋いだばかりだ。


「しかし、ただ守るだけではないわ。私はあなたたちを育成し、2〜3人ずつのチームを異なる世界へ派遣し、そこに潜む問題を解決して欲しい。」

 聴き慣れない“異なる世界”という言葉に困惑が走る。だが、ミーシャは手を軽く振り、宙に映像を出現させる。


 宙に浮かぶ映像には、蒸気が立ち込めた歯車仕掛けの都市が映る。金属製の建造物、飛行船の影、蒸気管から吹き出す白煙が見え、魔法とは違うメカニカルな雰囲気が漂う世界だ。


「これは『ネフィリス機関都市』。最初にあなたたちから3人を派遣する世界。技術が発達したが、人々は歯車と蒸気による苛酷な労働に苦しみ、一部の権力者が異界との不正な繋がりで混乱を拡大しようとしている。あなたたちには、そこへ行き、問題を解決して欲しい。」

 ミーシャが説明する。


「私たちが……? 異世界? そんな……」

 前列の女性が怯えるが、ミーシャは安心させるように続ける。


「もちろん、最初から全員を行かせるわけではない。今回は3人だけ選び、試験的にミッションを行う。残りの人はここで学び、力を蓄え、次の機会を待てばいい。強制はしないわ。」

 優しい口調ではないが、柔らかな中立さがあり、脅しは感じられない。


 さっと人々の間に小さなざわめきが走る。「誰が行くの?」「もう実力がある魔女なんていないわ」などの声が交じるが、ミーシャは既に教育を始めており、短期間で基礎的な魔力感知や基礎錬金術を教わった者がいる。


「呼ぶわね。メリシア、エレーナ、ラーシュ、前へ。」

 ミーシャが指名すると、列の中から3人の女性が進み出る。


 メリシアは茶髪を短くまとめた利発そうな娘。元々工場で働いた経験があり、歯車や蒸気機関に興味を持ち、ミーシャが教えた基礎錬金術を最も好奇心旺盛に吸収していた。

 エレーナは優しい眼差しの少女で、農村出身。治癒魔法の初歩を習得し、植物や土壌を浄化する力を少し発揮できるようになった。

 ラーシュは言葉巧みな女性で、かつては貴族家で侍女を務めており、人心把握や交渉に長ける。言語や文化、交渉術の初歩をミーシャから学び、謎多き異世界でも情報を集められそうだ。


 三人は緊張しながらも、毅然と顔を上げている。この短期間で学んだ少しの技術と、ミーシャの背後にある絶対的な安心感を頼りに、新たな挑戦へ踏み出そうとしている。


「あなたたちはネフィリス機関都市へ行き、まずは情報を集め、住民が何に苦しんでいるか、支配層が何を企んでいるか調べなさい。行き過ぎた機械化や異界侵食の兆候があるはず。メリシアは動力源マキナ・コアの解析、エレーナは浄化と治癒で人心安定、ラーシュは情報収集と交渉を担当。」

 ミーシャが的確に役割を振り分ける。


 メリシアは唾を飲み込む。「は、はい、頑張ります。こんな不思議な世界で私が役に立てるなんて想像もしなかったけれど……やってみる!」

 エレーナは不安そうだが、「人を癒せるなら、あの魔女狩りの惨劇を繰り返したくないから……私なりに努力します。」と微笑む。

 ラーシュは手を胸にあて、「交渉や説得なら任せて。情報を集めて必ず役立てるわ。」と自信を見せる。


 他の魔女たちが拍手を送る。「がんばって!」「無理しないで!」「成功したら私たちも勇気をもらえる!」

 温かい激励がホールに満ちる。


 ミーシャは軽く手を振ると、薄紫の光が床に投影され、半透明のゲートが現れた。ゲートの向こうには、歯車の影や蒸気が立ち上る街が微かに見える。


「このゲートを抜ければ目的の世界に行ける。私はここで見守っている。危機に際して呼べば応えるが、基本は自力でやりなさい。これが今後の方針よ。」

 彼女の言葉には力があり、しかし厳しさと優しさが同居している。


 三人は手を取り合い、深呼吸する。あの地獄を生き延びただけでも奇跡だったが、今や異世界へ行って人々を救う役目を担うことになるなんて。運命の急転だが、ミーシャが背後にいるなら不可能はないと信じている。


「いってきます!」

 メリシアが一歩踏み出すと、エレーナとラーシュも続く。光が揺れ、三人の姿がゲートの中へ溶け込むと、次の瞬間には空気が変わって三人は消えていた。


 ホールには少しの静寂が降りる。残った魔女たちは興奮と羨望、そして将来への期待で胸を膨らませる。自分たちも訓練すれば、いつか異世界派遣に加われるかもしれない。

 なにせミーシャは、従来の常識を覆す超存在。彼女の教えや魔法的支援で、普通の女性たちが魔女的能力を習得し、異世界で活躍できる道が開けている。


「皆、これから生活環境を整え、学んで、力を付けていくわ。」

 ミーシャが他の魔女たちに言う。「焦らなくていい。あなたたちの速度で学び、準備しなさい。私はいつでもいる。」


 その言葉に、魔女たちは不安を和らげ、笑顔を交わす。「大丈夫、ミーシャ様がいるなら安全よね。」

 「私も早く学んで、世界を救う役割を担いたい。」

 そうした声がささやかに広がる。


 読者が初めてこの物語に触れるなら、ここで全体像が見えたはずだ。

 全能の魔女ミーシャが支える中、中継空間が安全な本拠地となり、100人の魔女たちが各世界へ派遣される。

 その最初の任務は、歯車と蒸気が支配する奇妙な世界で、人々を苦しめる問題を解決すること。

 これから、魔女たちは多元界を旅し、科学兵器や異形の神々、魔力の密林や未開の文明にも挑むことになるだろう。

 そして、ミーシャはその背後で絶対的な安心感を放ち、弟子たちを少しずつ導いていく。


 こうして「リバイバルウィッチ〜調停者たちと多元界〜」の幕が上がった。

 前作で復讐と破壊を極めたミーシャは、いまや救済と創造、調停への道を歩み出す。

 2〜3人ずつ世界に送り込むチーム編成、未知の世界を紐解く探検、魔法と科学、錬金術や交渉術が交錯する冒険。

 この第1話は、その全ての序章である。


 ミーシャはホールの隅で目を閉じる。「さて、あの3人がどんな報告を持ち帰るか楽しみね。」

 そう心中でささやき、微かな笑みを浮かべる。そして、読者は次の話で、ネフィリス機関都市へ降り立った3人が何を見、何を学び、どう問題を解決するかを知ることになるだろう。


(了)


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