自分の理解を超越した存在は、こわい。
そんな時、人間がとる手段は、いつの時代もだいたい同じだ。
”異常”というレッテルを貼り、差別する。
管理下に置いて監視しようとする。
それができないとわかれば、排除を試みる。
それはもう、暴力的なまでに。
そんな息づまるような世界に、本書の主人公は断固、抗う。
魔法も、魔法使いも、便利な”道具”に成り下がってしまった時代に、
魔法を自在に操り、現れた先を一瞬で血の海に変えるという、危険きわまりない男。
一般人にまぎれて生きるフリーの殺し屋、その名も”葬儀屋”――
彼を追うのが、魔法を扱う能力をもち、同じ業を背負う”魔堕ち”という構図が、どこまでも
皮肉だ。
”葬儀屋”が自分たちと同類の存在だと分かっていても、わが身を守るには、国に飼
われ、政府の犬としてひたすらに命令をこなすしかない。
その哀れさたるや。
皆の安全の為、平和の為に――
そんなスローガンのもと、誰かの人生を搾取してはいないか。
自分の人生の主人公として生き切っている実感はあるか。
読みながら思わず身につまされる。
差別され、裏切られ、それでも幸せを願う。
明日には死ぬかもしれないから、今日を笑う――
全世界が敵だったとしても、どんな抵抗も無謀で、希望のかけらさえなかったとしても、そ
れをものともせず、ただ、生きる。
”葬儀屋”の渇いたレジスタンスのあり方が、とってもクールだ。
いつしか、そんな”葬儀屋”のまわりに、仲間がひとり、ふたりと増えていく。
だからきっと、これはダークファンタジーであると同時に、メタ的なディストピア小説でも
あるし、著者が託した、かそけき希望の物語なんじゃないか。
ふと、そんな思いも去来する。