「じゅうななさい」第一次試験合格したようですが辞退します。【カクヨムコン10短編】
音無 雪
第一次試験 辞退致しますわ
「それでは昭和工業さんの新工場竣工を記念して、乾杯」
「「「乾杯」」」
ようやく乾杯まで来ましたか
ここまで長く感じました。実際に長いですけどね。立っていたら女子高生のように途中で倒れていますよ。
ただでさえお嬢さまモードで頑張っているのですから疲れるのです。
§
ただいま株式会社昭和工業さま新工場竣工を祝う宴に出席しております。
実はあまり繋がりがない企業でして、なぜ呼ばれているのかさえ不明でございます。
先日、私宛に角封筒の招待状が届きまして、祝賀会であれば社会勉強も兼ねて行ってはどうかとの父からの助言もあり出席させていただきました。
同じテーブルには次期社長であるご子息が正面にいらっしゃいます。この方からの招待状でした。
ある程度の面識はございますが、友人かと言えば微妙ですね。知人としておきましょう。
もうひとり殿方がいらっしゃいますが、こちらは役職者のようです。
席次表で確認しますと、次男さんのようでございます。同族会社ですからね。
あとは私を含めて女性が三人
ひとりは何度かご挨拶させていただき面識がございます。私より少しだけお姉さま 良家のお嬢さまで目を惹く美人でございます。
もうお一方は初対面でございますね。同じ卓に着くのもなにかの縁でございましょう。
「じゅうななさい」をしております音無と申します。以後お見知りおきくださいませ
お話をすると大学を出たばかりとのこと、お若いですね。
他のテーブルにも若い女性が数名いらっしゃいます。みなさんドレスアップされておりますので会場全体が華やかでございます。
このような祝賀会では珍しいですね。一般的には関係する会社の役員さんが集まることが多いかと存じます。
そうなりますと会場がスーツの色のみで地味ですからね。
乾杯のあいさつが終わり歓談に入ります。ほぼ名刺交換会でございますね。
私も本日の交換用に名刺を作ってまいりました。
『公益財団法人 じゅうななさい友の会 役職 なんちゃって聖女』
完璧でございます。
あまり素性を明かしたくはありませんので交換用名刺でございます。このような小娘と名刺を交換してもすぐに忘れられてしまいますからね。
でもきちんと連絡が付く名刺も別に用意しておりますよ。同じテーブルの女性とはこちらの名刺で挨拶させていただきました。
§
社交辞令の見本市でございます。じゅうななさいの特殊スキル『聖女の微笑み』を駆使しておりますが、何かがゴリゴリと削られております。
それに全体に宴の雰囲気がおかしいのですよね。なんとなく落ち着かず、同じテーブルの女性三人で行動しております。
次期社長さんはやたらとお酒を勧めてまいりますが、じゅうななさいですのでお酒は呑めないのです。どうぞおかまいなく
個人資産が莫大とのこと 世のためにしっかりと納税してくださいませ 寄付などをされるのもお勧めいたしますわ
次男さんは趣味でバンドをされているとのこと かなり明るい髪色はその為だったのですか
指には無骨なシルバーアクセサリー 役職者の方には見えない個性を感じます。
高級な外車に乗られているそうでドライブなどにお誘いいただきましたが、父が厳しく門限の関係上難しゅうございます。また機会がございましたらお誘いくださいませ
私たち三人ともやたらとモテますよ。何でしょうね。この違和感
司会の方が壇上に上がりましたので、そろそろお開きでしょうか
「本日、昭和工業さまのご子息をはじめ、前途有望な男性が集まっております」
そうですね。若き経営者候補でございますからね。
「ここに出席の女性はお眼鏡に叶い招待状を手にした幸運な方ばかりです」
幸運だったのでございますね。
「招待状を手にされた時点で、第一次試験に合格されたと言うことです。おめでとうございます」
第一次試験ですか 知らない間に試験を受けていたようでございます。
「次期社長夫人の座を狙うチャンスですよ」
・・・そう言う趣向の宴でございましたか それで私だけの宛名で直接招待状が届いたのですね。
安く見られたものでございます。
表情の変化から会場の空気を読みますと、3割程度のおじさまは事前に知っていたようですね。
にやにやとされております。
5割程度のおじさまは困惑しており、残りのおじさまは青くなっていらっしゃいます。
そして女性側ですが、全員固まっております。宴の趣向をご存じの方はいらっしゃらないようです。
物を知らない若輩者ではございますが、会場内の力関係だけは先程の挨拶周りにて把握いたしました。
このような場では、じゅうななさい特殊スキル『聖女の鑑定』を常時発動しておりますからね。
表現はよろしくありませんが格上の方ばかりでしてよ。それを親御様を通さずに本人へ縁談を持ち込みましたか
それも家柄などは考慮されなかったのでしょう。
大手取引先のご令嬢、ライバル系列のお嬢さま、財閥系ご令嬢
何を考えていらっしゃるのでしょうか
おそらく個人的に知り合いの女性を集めて「次期社長」《ぼくえらい》の名を出せばモテると考えたのでございましょうか
学生時代のノリでございますね。
馬鹿なのですか
同テーブルのおふたりに視線を送ると同意を頂けたようでございます。
お姉さまが他のテーブルにいらっしゃる方に視線を送った後、軽く頷かれました。
全員の同意が得られたようでございます。
さて反撃でございますよ。
§
お姉さまが優雅に立ち上がり壇上へ
「素晴らしいお祝いの席にお招きいただきありがとうございます。私も招待状を頂きましたので、第一次試験は合格したと受け止めてよろしいのでしょうか」
次期社長のご子息は大きく頷いておりますが、当代社長は真顔でいらっしゃいます。
もしかしたら社長の知らぬところで暴走した可能性もございます。
しかし結果は変わりませんね。
「あなたはいつから選ぶ側だと勘違いされていたのでしょうか」
会場が凍り付く音が聞こえてまいります。
「試験合格の権利、辞退させていただきます」
綺麗にカーテシーを決めて降壇されました。
お姉さま素敵でございます。
私も辞退させていただきましょう。これでも怒っているのですよ。かなり
「私も辞退させていただきます。今日のお礼は後日改めて」
社長の顔をしっかり見ながら挨拶させていただきました。覚えていやがれでございますですわ
じゅうななさい特殊スキル『絶対零度の雪姫』発動でございます。
「他にも辞退される方がいらっしゃるようでしたらお茶の席を設けますのでご一緒にいかがでしょうか」
お姉さま抜かりがございませんね。何も言わずとも退席すれば辞退とみなされる流れが出来ました。
女性全員が立ち上がって一礼した後、出口へと向かいます。
扉の前にて最後尾の女性が一言
「わたくし 人の顔を覚えるのは得意ですので」
顔覚えたから覚えていやがれでございますですね。
素敵な表現で御座います。何か機会がありましたら使わせていただきます。
――――
――――
少し離れた場所にあるカフェの一角 お姉さまの手回しで予約されておりました。
「悪役令嬢の反撃シーンが出来るとは思いませんでした。気持ち良かったですわ」
恍惚とした表情のお姉さま
お姉さま こちら側の人だったのですね。
「まさに『ざまぁ』でございましたわ」
あなたもこちら側でしたか いえ みなさん頷かれている所を見ますと全員同志でございますか
「本当の『ざまぁ』は今からですわね」
「でも従業員には罪はありませんし」
「社長は同罪ではないでしょうか」
「親に社会勉強のためと勧められましたが、確かに勉強になりました。『ざまぁ』をするまでが勉強で御座いますね」
まあ その話は追々いたしましょう。今日の所は忘れたいのが本音でございます。
今の感情のまま走りますと皆さん全力で叩き潰してしまうように感じるのです。
落ち着きましょう。
§
「異世界物を嗜んでいらっしゃるのですか」「ええ 共感する場面が多くて為になりますもの」
全員ドレス姿のまま、上品なオタ話でございます。
「胸元のブローチ素敵ね。魔道具のよう」「そういっていただけると嬉しいです」
嬉しいのですか 意外とみなさんディープでございますね。
趣味の合う方ばかりが集まったのもご縁を感じます。これからもお茶会など致しませんか
「ぜひ 集まりましょう」
「まだ音無さんのお話を聞いておりませんでした。噂で世界樹の聖女さまとお聞きしたのですが、そのあたりを詳しくお聞かせいただけませんか」
そのお話はやめませんか
―――― ◇ ―――― ◇ ――――
お知らせ
・リアルエッセイではございますが、関係各所にご迷惑が掛かりますので団体名は仮名とさせていただきました。
・「じゅうななさい」は「十七歳」とは若干違うようでございます。生温かく見逃していただけると助かります。
「じゅうななさい」第一次試験合格したようですが辞退します。【カクヨムコン10短編】 音無 雪 @kumadoor
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