~露見の理想(おんな)~『夢時代』より冒頭抜粋

天川裕司

~露見の理想(おんな)~『夢時代』より冒頭抜粋

~露見の理想(おんな)~

 白昼に観る夢想(ゆめ)を仕留めて起材(きざい)とすればお前の描(か)く文学嗜好は華々しく成り誰の眼(め)にさえ生粋(もと)をも正す。これまで見て来た文士に図れば誰も彼もが素顔を見せずに虚構を観(み)せ得て、お前が独歩(ある)いた夢想(ゆめ)の跡にはぽっくり咲き得る〝魅惑〟が積まれて奇麗に笑う。きらきら輝(ひか)った虚無を見るより、現行(いま)に盛(さか)った怪訝を仕留めて真理(しんり)を観るのがお前の〝人間(ひと)〟には適しているとは思えないのか?

 虚無の白紙をすんなり通って〝俺〟の心身(からだ)は現行(ここ)まで来るのだ。淋しい表情(かお)して迎えて在るのは人間(ひと)に生れて如何(どう)して儚く痩せて行くのか、お前の生粋(もと)などくっきり正して虚構に問いたい気持ちに会わされふっと笑って、人間(ひと)の祈りを延長させたい未熟な意識に苛まれている。現行(いま)に添えられ、ぽつんと佇むお前の主体(あるじ)が何処(どこ)へ向かって独歩(ある)いて在るのか、自然に生れる「人間(ひと)」の疑惑に一つ確かな答(こたえ)など知り、人間(ひと)を超え得る〝物知り博士〟を自然へ投げ出しそのまま置きたい。一体誰の知識がそれほど困った窮地まで来て、〝そのまま置かれた〟真(しん)の糧など拾えようか。一体どんな男がそれほど困った窮地まで来て、〝そのまま置かれた〟真の糧など吟味しようか。一体どんな女がそれほど困った窮地まで来て、〝そのまま置かれた〟真の糧など生み育てるか。みんな虚無なら虚無へと還って人間(ひと)の感覚(いしき)の遅延を待たずに月に隠れて算段して在る。人間(ひと)の頭上(うえ)には虚空が延び得て宙(そら)まで拡がり、宙(そら)の波紋を突き抜けずに居て足場が浮んだ地球(かたち)に辿って生活(くらし)をするのは人間(ひと)に生れた定めの無に在り何ほどでも無い。感覚(いしき)に活き行く何に就いても人間(ひと)へ遣られる意味を欲しがり〝虚無〟の空気に巻かれて行くのは惨敗者として感覚(いしき)に富み得る信仰(よわさ)を手に取り、人間(ひと)の眼(まなこ)は宙(そら)へ向かって屈曲して在る。

 白紙に生れた幻想(まぼろし)など観て、三位(さんみ)の規律に煩悩(なやみ)を放(ほう)って無知を着飾り、三点だけしか人間(ひと)へ言わない神秘に手向ける言葉を知れば、〝三サイズ〟を詳細(こまか)に問うた白紙(てがみ)を携え当(とう)の人間(あるじ)は塒に固まり衰退して行く。躰の摂理を自然から見て柔らに解(と)き得て静かに眠れば、四季の霞に冷酷成るほど人間(ひと)へ立て得た流行(ながれ)の固さをすっと手に取り孤独を知るのは、人間(ひと)に覗いた鼓動に在るまま人間(ひと)を生せた粗大に息衝く自然には無い。経過(とき)の行方が明日(あす)へ向くのか過去へ向くのか曖昧なるのは人間(ひと)に生れた信仰(よわさ)が講じた術(すべ)の内にて、人間(ひと)を囲んだ景色の朗(ほが)らが人間(ひと)を安(やす)ます永久(とわ)に語って薹を知るのに役立つ故にて、人間(ひと)から離れた天地を睨(ね)めても発見され得ぬ四季が在るのは人間(ひと)の常識(かたち)の斬新には無い。〝プラス〟へ働く重力(ちから)を知り得て人間(ひと)は立場を提唱し直し、時間(とき)へ這入れる空間(すきま)を見付けて悶絶して居る人間(ひと)の懸命(いのち)に動じていながら、自分と他人(ひと)とが感覚(いしき)を透して相対(あいたい)している無限の広場を地上(ここ)だと据えて、常識(かたち)を見付ける空間(すきま)を敷いては進退して在る。

 人の記憶は何処(どこ)へ行けども向けども一向変らぬ試練を手にして眼(め)にして形成(なり)を呈(あらわ)し、夢想(ゆめ)へ付け込む神秘足る矢が一体何処(どこ)から飛び出て温(ぬく)もり得るのか自分の意にして見据えて在っても一向化(か)わらぬ耳鳴(おと)に紛れて薄ら仕上がり、俺の心身(からだ)へふらふら跳び付き意識の撓(しな)りに俺を観たまま懐いた知己など、唾棄に伴う生気の温(ぬく)みに放られ置かれて動静(うごき)を止(や)めて、宙へ浮かせた肢体の角(かど)には丸味が加わり呆(ぼう)っとして立ち、俺の感覚(いしき)も他人(ひと)の意識も終ぞ取られる掛かりの無いまま素行に見て取る従順(すなお)に落ち着く。流動(かたち)を見ていた〝変幻自在〟は呆(ぼう)っとして立ち宙(そら)へと返り、「明日」を知らない凡庸(ふつう)の常識(かたち)にほろほろ釣られて虚ろな眼(め)をした孤高の朝にはすんなり仕上がる空虚を手に取る綽(しなや)かさが在り、目立って揃った人間(ひと)の群れにはどれが〝群れ〟だか取り留め付かない余裕(あそび)の気温がぽっと浮き出て奇妙に仕上がり俺へと向いて、俺から離れる〝常識(かたち)〟は初めに未練に伴う〝記憶〟を観(み)せたがやがて経過(じかん)に途切れて活きつつ白体(はくたい)と成り、負け惜しみを追い狂った最中(さなか)に大声(こえ)を発して怒調(どちょう)に有り付き、俺の背中に嫌と言う程奇妙な文句を並べた後(あと)にて二度と咲かない唄声(こえ)を呈して長閑に在った。

 俺の心身(からだ)はほどほど流行(なが)れて夢想(ゆめ)へと居着き、現行(ここ)を離れて常識(かたち)を忘れて上昇し始め、陽光(ひかり)か人工照(あかり)か気取れぬ程度の幻想(まぼろし)を観てぐるぐる回った体験(きおく)の渦へと呑まれて行った。自分を呈(あらわ)す仕事をせずまま何にも目標(あて)さえ探さぬ儘にて日々を費やす女の牛歩に嫌気が差してはそうして生育(そだ)った退屈(ひま)への空想(おもい)をそれまでして居た他人(ひと)の仕事へ重ね合せて悟りを開き、虚無の内にてひたすら独歩(ある)いた〝階段〟等からすっと飛び立つ自身(おのれ)を観た後(のち)固室(こしつ)で行う孤独な作業に悶絶し始め、つい又夢中に小躍(おど)った労苦を手にして〝硝子〟を磨き、俺の心身(からだ)は現行(ニュース)を離れて堅く立ち得た。他人の仕上げた作品(にっき)等へは一目(ひとめ)もくれずに自分の気に入る〝参照〟だけ観て悪態吐(づ)いて、世間の出方と自分の出足の等間隔だけ頭上で輝き時に知り行く閃き程度に興味を保(も)ち得てほろほろ笑い、独人(ひとり)の人生(いのち)を自然へ寄るまま恰好付けずに独歩(ある)いて行った。新人類なる何処(どこ)かの孤島の子供なんかが得てして母の胎にて抱かれて居ながら両親(おや)が出過ぎる世間の汚(よご)れを笑える程度に踏襲して活き、俺の目前(まえ)には悪魔を晒して真っ直ぐ延び行き愚問を交し、母と子供に吸われる体(てい)して腕力(ちから)を誇示する猿の要(かなめ)(かなめは点付け)は〝父〟と称して自己(おのれ)に集(つど)った弱者だけ見て実力(ちから)を誇示する技能を宿して得意気に在り、蚊帳を外れた俺の感覚(いしき)は此処(ここ)まで透った〝自然の摂理〟を真っ向から観て如何(どう)する間も無く活きる活力(ちから)を宙(そら)から借りては独人(ひとり)を覚え、自分の生命(いのち)が預けられ得た人生(いのち)の木の実をすっと手に取り自活を覚えて煩悩(なやみ)を覚え、愛しい記憶も瞬間(とき)に預けて活性するのは俺を嫌った自然の表情(かお)したモルグの一味と遭遇している。白衣を纏った絵筆の先にて俺の生命(いのち)が絢爛豪華な温(ぬく)みを呈して人生(いのち)を象り、知己に憶えた無数の気球(きだま)を眺めて愛でては他人(ひと)の知り得ぬ〝未開〟へ行くから俺の目標(あて)などすうっと透って逃され始め、他人(ひと)が遺棄する未業(みぎょう)の司祭(あるじ)が久しく濡れない地上に在るゆえ俺の意識は仄(ぼ)んやりするほど覇気を忘れて高揚し始め、誰にも奪(と)れ得ぬ仕業(しぎょう)の程度を象り続けて変って生(ゆ)くのを目下流行(なが)れる世間に沈めて淡く立ち行く決意を固めて人間(ひと)から出たのは初春(はる)に芽生えた呼吸(いき)の内にて未だそこにて出逢った他者(もの)など一人も居ない。漱石(かれ)の感覚(いしき)が独白して在る〝文芸批評〟へ注意しながらこうした文学(がく)など人生(いのち)に対する仕業(しぎょう)に在るのか端々(ばたばた)しつつも冷静足る儘、俺の感覚(いしき)が野打(のたう)ちながらも自問して活き、ほとほと困った表情(かお)を呈して胡坐を掻きつつ提言するのは〝現行(ここ)からでは何が如何(どう)だか全く仕切れず未来(さき)の反転(こと)など終ぞ見採れぬ姿勢に落ち着く。何が何でも切羽詰まった人間(ひと)の現行(いま)には彼の呈する批評の成果が如何(どう)でも要るのに通り掛った未熟の表情(かお)めが何を言うやら甚だ分らず通り過ぎ行く意識が透って期待していた返応(こたえ)は付かぬ。現行(いま)に知れ得る確固の態(てい)など果して立場(ここ)から辿れるものか…〟、と試算を投げ打ち困った顔して寝転び生(ゆ)くのは俺を象る肉塊(からだ)の仕種で精神(こころ)に根付いた灯(あか)りの態(てい)には決して無い。自然に知って、俺の肢体(からだ)はそれまで憶えた労苦の通りに躰を源(もと)から反転させては誰に見知れぬ〝固定〟を巡って分業した儘〝彼〟の目前(まえ)には止まった司祭(あるじ)をきょとんと呈して如何(いか)なる事象(こと)へも臨時に対処出来得る姿勢を正して瞑想して在る。

 そうした機転に一つ輝(ひか)った諮問が脱(ぬ)け出て俺へと対峙し、透る世間へも一度返って巡業しようと焼噛み半分、気性を操(と)れ得ぬ自体の未熟を逸する内にて熱く成り活き孤高を認(したた)め、両眼を向けつつ見上げた末(さき)にはついと見慣れぬ人間(ひと)の渦中が仄(ぼ)んやり灯って遊泳(およぎ)をし始め、興じる雰囲気(ムード)は華やぐ人気(ひとけ)に蹴倒されるまま俺の心身(からだ)を丈夫に仕上げて見る見る間(あいだ)に環境(まわり)を配して明るく成った。

 〝俺の能力(ちから)は未(ま)だ伸び代を持つ〟と誰かに何かにそっと云われた俺には自然に吹き抜く涼風(かぜ)の主(あるじ)が旧い家屋をすうっと抜け出て仔細に呈(あら)われ、隠れた樞(ひみつ)を伝える態(てい)して俺の元へとゆらりと寄り付き、俺が座し得た土台の不安を甚だ正しく直してやろうと優等生から劣等生へと告げ口され行く気色を講じる柔い〝細目(ほそめ)〟が安易に表れ活性して行き、俺の瞳(め)には誰の姿勢(すがた)へ憚る事無く瞬間(とき)を惜しんですっと這入れた私塾の居間にて座ったようだ。而(こう)して俺を待ち受け得たのは俺の周囲(まわり)に集わされ得たどの学生にも又掛かる試練に類似して在りどの学生にも学生故にて受験され得る試験の体(てい)にも類似しており、俺の心身(からだ)は緊張感にて程好い臭気を会得した上周囲(まわり)に集(つど)った気色を眺めて端座をし始め、これから始まる試験に於いての自分の出来等、予測するのに楽して居ながら白い心地にうっとりしている。私塾(そこ)へ這入れと云われた瞬間(とき)から俺に芽生えた学舎の在り処が誰の所有(もの)かと思案に暮れたが、一向灯らぬ発覚(アイデア)等へは振り向く仕種を見せない内にて如何(どう)であっても自分の心身(からだ)が私塾(そこ)へ向くのは到底変らぬ定めと見て取り思考を取り止め、這入る迄には周囲(まわり)に集った誰も居らずに、俺の気儘は布団を撥ね退(の)け牛歩に在るまま自分の為にと添えられ成り得た私塾の内まで這入っていたのだ。宙(そら)で小鳥がちちと声上げ鳴いたかも知れない内には俺の意識は幾分疲れて呆(ぼう)っとしてあり鈍(どん)に在って、何かを気にする余裕(ゆとり)さえ無く自分に課された受験の事にて一杯だった。

 そうした私塾に生れ得たのは他人(ひと)が講じた障害(もの)へと有り付く学士に課された試験であったが、初めに知り得た試験の体(てい)には微妙に違ったニュアンスが飛び、私塾へ這入って暫くする内、俺の感覚(いしき)は周辺(あたり)を気にして真っ直ぐ独歩(ある)き、官(かん)が講じる規律(きまり)の正味に直ぐさま跳び付き理解してあり此処(ここ)に並んだ学徒の集積(むれ)とは自分に観(み)せ行く対象(もの)に有り付き決して自分と同様なるうち呼吸(いき)をして生(ゆ)く人間(ひと)の正味を有さぬ人間(もの)だと仔細に気取ってその果(さ)きを見て、集中して行く自分の吐息を私塾が灯した未来へ先取りゆったり振舞う官(かん)の居所(いどこ)を〝塒〟伝(づた)いに寄り道する儘、俺の感覚(いしき)はもんどりうつほど私塾の灯(あか)りに活気を報され苦労していた。私塾へ這って自分の立場に相対(そうたい)して在る〝自席(じせき)〟へ着くのに十分程度も要してあって、私塾(そこ)へ這入った〝俺の時刻〟は誰にも見取れぬ定刻間近であたふたしており試験開始に切迫していた学徒の群れには並々成り得ぬ人間(ひと)の想起が顕著に上がって上気しており、鼠の尻尾に樞(ひみつ)を知りつつ上気に逆上せて縋り付く程跳び付く俺には、私塾(そこ)で成された人間(ひと)への〝騙し〟が煌々輝(ひか)って紅く灯って、結構手間取る〝自席〟探しに俺の精神(こころ)は問答するまま得心して居る。

 そうして私塾で学徒へ対して為された試験(テスト)は学徒で在るなら誰にとっても大事な試験で鎮座して居り、まるで呼吸(いき)する〝試験〟の表情(かお)には何時(いつ)か見知った俺への〝定め〟が大手を振り抜き真綿を買い取り、俺の為にと〝仕留める道具〟を一切浚って上々在るのが人間(ひと)の集(つど)った景色の内にて堂々有り付き不動にあって、俺から出て行く実力(ちから)の程度が私塾(ここ)で如何(どう)して何処(どこ)まで評価されるか、そうした愚問が翼を拡げて悶々湧き立ちプールに詰った人群(むれ)の脚色(いろ)には何にも似ない徒労の具(つぶさ)が準じて阿り自体へ注いだ〝苦労〟の美味など宙(そら)へ覗いて悠々現れ、途轍もない程長い経過に私塾(そこ)へ集った皆の姿勢(すがた)は変形したまま滑走してある。見得ない何かへ惑溺するほど俺や周囲(まわり)は自然の経過(ながれ)に大きく構えた試験の圧力(ちから)に緩々身構え欠伸をして居り、経過を通して景色に映った〝自分〟の姿勢(すがた)を好く好く報され学舎の内にて〝自分〟が無いのを後(あと)から気付いて気忙しくなり、そう成る〝定め〟を俺だけ仕留めて皆から離れて静かに在るのか、俺の徒労(ちから)は愈々煌めき明日(あす)へ向かって感覚(いしき)の程度が緩み行くのをほとほと感じて嬉しくなりつつ、小さな〝私塾〟はそうした事変を愈々踏まえ、皆の目前(まえ)には輝かしい程大きなホテルに成り得て皆の能力(ちから)を区別しながら存在している。俺の心身(からだ)はのべつ隈なく自分がするべき仕業(しぎょう)を探して周囲(まわり)へ集(つど)った皆の肢体(からだ)を押し退(の)け、初春(はる)の芽生えを感じる程度に鈍(どん)と成り得た自分の感覚(いしき)を四肢(てあし)へ拡げて闊歩(ある)いてあったが、急いだ所で如何(どう)なる間も無く、皆の意識は空虚に途切れて〝ホテル〟を観ており俺の事など遠い当てへと都度都度押し遣り各自が各自の熱気と呆気(ほうけ)に操(と)られた気分を手に取り自分へ課された分業(ノルマ)の在り処へ歩いて行って、まるで初秋に巧く活きた蜻蛉(とんぼ)の態(てい)して零れた労苦をも一度眺めてやるなど、息巻き息巻き、遠方(あたり)に散らばる霞を喰いつつ活き永らえ得た。俺の眼(まなこ)はそうした彼等の背後(あと)へと続き、俄仕込みに憶えた知識(かて)など学士へ課された実力(ちから)と見立てて奮迅するまま気弱を隠した〝気取り〟を呈して、皆が集まるロビーの方へと都度都度向かう。まるで空気がぽんと遠鳴り、圧力(ちから)を隠した仮面に観採れて不気味であった。

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~露見の理想(おんな)~『夢時代』より冒頭抜粋 天川裕司 @tenkawayuji

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