2つで1つの協働殺人

天川裕司

2つで1つの協働殺人

タイトル:(仮)2つで1つの協働殺人



▼登場人物

●シャルロット・エア:女性。39歳。リチャードを愛している。不妊。解離性同一性障害。もう1つの人格は妊婦を恨む。

●リチャード:男性。40歳。シャルロットの婚約者。ガルコフを射殺。正当防衛で釈放されかけている。

●警察1:男性。50代。ベテラン刑事のイメージで。

●警察2:男性。40代。警察1に付く部下のイメージで。

●ジェーン:女性。39歳。シャルロットの幼馴染の様な友達。一般的な友達のイメージでOKです。

●ギスパー:男性。50代。建築業者。2番目の妊婦殺人事件現場から偶々出て来るところジェーンに目撃される。でも普通の業者で犯人ではない。

●ガルコフ:男性。妹を殺された恨みでシャルロットに復讐する。その時にリチャードに殺された。

●ガルコフの妹:享年30歳。シャルロットに殺されていた。どこかで2人は出会い偶然妊婦だと知られた妹は場当たりの形で殺害された。

●係員:男性。40代。警察署内の遺体管理の係員。鑑識所属。

●担当医:男性。50代。警察お抱えのドクター。シャルロットの精神鑑定をする。


▼場所設定

●シャルロットの自宅:ニューヨーク市内にある一般的なアパートのイメージで。

●警察署:こちらも一般的なイメージでOKです。本編では「警察」と記載。

●街中:必要ならで一般的なイメージでお願いします。


▼アイテム

●ゴールド・シルバー香水:女性に人気の香水。ゴールドがファンデーションの役目を果たしシルバーは装飾(匂い)の役目。なので2つ一緒に持ってないと意味が無い。


NAはシャルロットでよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたは女性の苦しみを知っているでしょうか?

苦しみと言っても精神的な苦痛。

それは孤独に似ているかもしれません。

男性には味わえない女性ならではの孤独の苦痛と言えば、

皆さんは何を想像するでしょう。

今回はそれがネックとなった事件でした。

単純な視点をもって事件を眺めれば、

すぐに真実を見分ける事ができるでしょう。



メインシナリオ〜


ト書き〈シャルロットのアパート〉


リチャード「…だから僕は子供がなくても、君との結婚を望んでるんだよ」


シャルロット「でもそれじゃあ…」


リチャード「僕の目を見てくれ。これが嘘をついてる顔に見えるかい?僕は君を愛している。君もそうだと思ってる。一緒になろう」


私の名前はシャルロット・エア。

ここニューヨークの下町界隈に住んでいて、

もうすぐ結婚するかもしれないそんな状況にある。


でも私は少しこの結婚に反対していた。

たとえ今の彼・リチャードと一緒になっても、

彼を幸せにする事ができないかもしれない。


女が愛する人を幸せに出来ると言うのは、

やはり女ならではの生体の力。

男が腕力で女を幸せにするなら、女は内助の功で男を幸せにする。


そう信じてやまなかった私は、

やはりこのリチャードとの結婚には少し躊躇する。

でも彼は私の事を愛すると言ってくれており、

それに嘘は無いと信用していた。

だから私も段々その気にはなっていたのだ。


ト書き〈トラブル〉


でも同時に、私の周りでトラブルが起きていた。

それは夕方頃になると、

決まって私のアパート周りに現れる男の影。


最近では少し遠くへ行って電車に乗り、

そこから最寄りのバス停へ帰ってくる迄にも男の影は

バスや電車の中にも現れるようになり、

まるで私は始終、誰かに追い回されてるような

そんな感覚を受けてしまう。


シャルロット「一体何なの…?リチャード、早く来て…」


街でリチャードと落ち合う時でも、

彼が現れる迄にその視線を感じる。


(相談)


リチャード「で?付け回されるような覚えはあるのか?」


シャルロット「ないわ。あなたも知ってるように、これまで私がまともに付き合った男なんて殆ど居ないのよ。ずっとミッション系スクールに通って男の人との接点は殆どなかったし、あなたと出会うまでは本当に人見知りで、惚れにくい性格だったからね」


リチャード「ああ、それは知ってる。でも最近じゃどうだい?買い物へ行った時や市役所なんかに行った時、怪しい男がついてくるなんて事は?」


シャルロット「…分からないわそんなの。そんなの注意して見てなかったもん…」


リチャード「…だろうね」


とにかく私達は警察に通報すべきかどうか迷っていた。

でもまだ被害らしい被害は1つもない。

この段階で警察に言ったところで何をどうしてくれるわけでもなく、

見回りを強化する、この一点張りで終わるだろう。


もう少し様子を見て、その影が消えるならそれで良い…とし、

リチャードはこれ迄より私の周りに居てくれるようになって、

私の身を少し過保護な迄に守ってくれるようになった。


シャルロット「リチャード、ねぇお願いだから無茶はしないでね?」


リチャード「ん、無茶?」


シャルロット「ええ。あなた、カッとなったらすぐ掴みかかっちゃう性格だから」


リチャード「ははw心配ないよ。いざとなりゃ、これがある」


シャルロット「あ、あなた、そんなもの一体どこで?」


リチャードは懐からデリンジャーと呼ばれる拳銃を見せ、

私にそう言って笑った。


ト書き〈事件〉


でもそれからすぐ、事件は起きてしまったのだ。

私が仕事から帰ってアパートに居た時、

いつものようにシャワーを浴びる前にリチャードに電話をかけ、

ウチに来てくれるのを待ちながら家の事をしていた。


その時、閉めた筈のドアの鍵がカチャカチャと鳴り、

「なんだろ」と思ってドアの前まで行った時

ガチャッ!と開いたドアから黒ずくめの男が侵入してきて…


シャルロット「きゃあ!」


と言う間もなく…


ガルコフ「静かにしろ…!騒ぐな」


と脅すように言ってきたその男は私の体を持ちリビングまで誘導し、

そこで私を押し倒そうとしてきた。


でもその直後、2度目にドアが開き、

「てめえこの野郎!やめろ!」

と聞き慣れた声がした後、

「バアン!!」

と銃声が鳴り響き、私に馬乗りになりかけていたその男はバタンと倒れた。


シャルロット「リ…リチャード、あなたなんて事を…」


リチャード「ふぅ…。正当防衛だよ、これは…」


そのあと洗面台まで行って私の涙を拭ってくれたリチャード。

でもその時リビングからまた物音がして

ビクっとした私を「ここに居て」とリチャードはとりあえず引き止め、

自分だけがリビングへ行き物音の確認をした。


あの男がまだ生きていたようで、

リチャードはそこでその男の最後を看取った。


ト書き〈取り調べ〉


それから少ししてすぐ警察を呼び、

私達は事の次第を全て話した。


リチャード「…部屋に入る前に彼女の悲鳴のようなものが聞こえたんです。そして入ってみたら、この男が彼女に馬乗りになっていて…」


警察1「それで銃を発砲して殺害した、と?」


リチャード「…ええ」


警察2「理由はどうあれあなたのした事は犯罪です。これからどうなるかはもう納得されていますね?」


リチャード「で、でも!これは正当防衛でしょ!?」


警察1「ああ正当防衛にはなりますが何も銃殺する事はなかった。他の方法で男を撃退する事もできたのでは?」


リチャード「あの時はそんな状況じゃなかった!私と同じ立場に立って、同じ事があなたに言えるんですか!?」


結局、リチャードは捕まった。


シャルロット「リ…リチャード…」


リチャード「フッ、大丈夫さ。ちょっと散歩に出てくるようなもんだ。またすぐ帰ってくるさ」


ト書き〈トラブル2〉


それから数日後。

リチャードが居なくなった私の生活は

まるでもぬけのように虚しくなった。


あんな壮絶な体験をしてしまうと

周りの物事が全部薄れて見えてしまう。

でもその私の周りでまた第2のトラブル、

無視できない事が起きていたのだ。


(テレビを見ながら)


シャルロット「また…」


最近この界隈で空き巣被害が増えており、

その被害は次第にエスカレートして空き巣では済まず、

強盗殺人にまで発展していた。


そして不思議だったのは、

被害者に選ばれるのは全て女性の上、妊婦だった事。


シャルロット「なんて可哀想な事を…」


これから生まれてこようとしていたその命も一緒に葬るなんて…

およそ人間のする事じゃない。


私も1人の女性ながらその犯人を心から憎み、同時に恐怖した。


(友人が遊びに来る)


そんなある日。

落ち込んだ私を励まそうと女友達がウチに遊びに来てくれていた。


ジェーン「大丈夫よ。リチャードはすぐに帰ってくるわ」


シャルロット「ありがと」


彼女はジェーンと言って、私の幼馴染のような友達だ。


ジェーン「あ、この香水、あなたも持ってたのね?」


シャルロット「え?ああそれ?フフ、前にリチャードがプレゼントしてくれたのよ」


ジェーン「へぇ〜良いなぁ♪私もそんな恋人、早く見つけないと」


シャルロット「フフ…」


また彼の事を思い出して悲しくなった。


ジェーン「あれ?でもシルバーのほうは無いのね?」


シャルロット「ん?ああ、私ゴールドのほうばっかり使ってたから、ちょっと前に無くしちゃって」


ジェーン「も〜ったいない!ゴールドとシルバー2つで1つなのに」


リチャードがくれたその香水は

「ゴールド・シルバー」と言う女性に人気の香水で、

とても良い香りがして、今では私にとって

リチャードとの思い出の匂いになっている。


シャルロット「ごめん、ジェーン。あんまりその香水に触れないで、彼のこと思い出しちゃうから…」


ジェーン「あ、ごめんなさい」


ト書き〈警察〉


警察1「妹?」


リチャード「ええ。確かそう言ってたと思います」


警察2「死ぬ間際に、その男が自分の妹の事を君に伝えたと?」


その時リチャードは警察で取り調べを受けていた。

確かに幾ら相手が強姦魔とは言え、

殺害してしまった事は彼にとって一生の後悔になる。


正当防衛は既に立証されかけていたが、

リチャードも自分なりに思う所があり、

その辺りの事を警察に話していたのだろう。


リチャード「ああ!でも分かりません!もうあの時はただ彼女を守らなきゃいけないってその一心で!」(混乱)


警察1「気持ちは分かりますよ。どうぞ落ち着いて」


警察2「ふむ、妹か」


警察1「見知らぬ女性の家に侵入し強姦を働こうとしていたあのガルコフに妹が居たとはなぁ。どうやらその線から洗い直す必要も出てきたみたいだな」


警察2「我々としては、ほぼノーマークでしたからねぇ妹の事は。ガルコフの素性を少し洗ってみましたが、彼は自分の妹の事について殆ど他言していません」


警察1「ん?」


警察2「話すのを嫌ってたみたいで、彼の妹の事について知る人は、外部の人間では殆ど居ないと言う事です。おそらく知ってるのは身内だけかと」


警察1「なるほど。そこに何かあるな」


警察は、私を襲おうとしていたあの男、

ガルコフという男の妹の事について調べ始めた。


ト書き〈建築業者〉


またそんなある日、ジェーンが家に遊びに来ていた。


シャルロット「あ、いけない。今日、業者さん来るんだったわ」


ジェーン「業者?」


シャルロット「ほらここの床、少しへこんでるでしょ?この書棚の重みでへこんじゃって、私じゃどうにもならないからこの棚を解体して貰ってね、床もちょっと直して貰わなきゃって思ってたのよ」


ジェーン「なるほどね。じゃぁ私もう帰ろっかな」


シャルロット「ごめんね」


(呼び鈴が鳴る)


ジェーンが帰ろうとしていた時、呼び鈴が鳴った。


シャルロット「はぁい」


ギスパー「すみません〜、オート建築の者ですが」


シャルロット「あ、来ちゃったわ」


ジェーンはその業者と入れ違いの形で帰っていった。

でもそのとき彼女は、来てくれたその男の顔をチラチラと見、

何か不審な表情をしていた。


ギスパー「ハイ♪どうもこんにちは。この棚と床ですか?」


シャルロット「あ、ええそうです。直りますか?」


ギスパー「まかせといて下さい。そうですね、これならまぁ夕方迄には直るでしょう」


そして業者から来たその人・ギスパーさんは私の家に入り、

それから工具を広げて作業し始めた。


それを何となく見ていた私の携帯に着信が入った。

ジェーンからだ。


(メール内容)


ジェーン「こんな事いきなり言ってごめん。でも落ち着いて聞いて。その業者の男、どっかで見た事あるのよ。確か2番目の犠牲者が出た時、彼女の家から急いで出てきた男がその人だったの。私その時ちょうど前の通りに居たからその人はっきり見たわ。だから、万一って事もあるから、作業中は家を出たほうが良いかも。金品取られるって事より命のほうが大事だからね。それが無理ならなるべく早く帰って貰って」


シャルロット「…ど、どういう事…」


一瞬で平凡な日常が恐怖に変わった。

さっき不審そうに見ていたジェーンの表情の理由はこれだったのか。


ギスパー「ねぇすいません」


シャルロット「はっ…!」


ギスパー「?どうしましたw」


シャルロット「あ、いえ、何も…」


ギスパー「ちょっとトイレお借りしてもいいですかねぇ?」


シャルロット「あ、そこ…」


ギスパー「どうもw」


今ひとつ屋根の下に一緒に居て、目の前に居るこの男が

あの妊婦連続殺人の犯人に見えてきてしまった。

私は途端に怖くなり、トイレに入ってる間に声をかけ、

「ちょっと買い物に行ってきますので」と部屋を出た。

彼は何か言ってるようだったがそれも無視して。


ト書き〈警察〉


警察1「彼女の遺体、まだ保管してるって?」


係員「ええ身寄りが無かったのでまだ」


警察2「ガルコフにも身寄りはありませんでした」


警察1「てことは遺留品もそのままなのか?」


係員「ええそうですが」


警察1「見せてくれるか?」


(指紋付きのシルバー香水が出てくる)


警察2「ええと、財布と、化粧品と、ポーチと小物。どれも女性が身に付けて不自然な物はありません」


警察1「…この香水、なんて言ったかな」


警察2「ああ、それは『ゴールド・シルバー香水』っていう女性に人気の香水ですよ。ゴールドのほうがファンデーションの役目で、シルバーが少しラメを備えた匂い付きの水ってわけです」


警察1「ほう、君は詳しいんだな」


警察2「あはは、ええ、うちの妻も付けてるもんで」


警察1「ふむ。でもなぜ1つしか無い?そんな香水なら2つで1つだろうに?」


結局その香水は再び鑑識に回された。

そして1度目の調べで見落としていた新たな指紋が現れたと言う。

それは蓋の裏側に付いていた。


ト書き〈シャルロット逮捕〉


シャルロット「どうして!?ちょっと何なんですか!」


警察1「あなたの指紋が出てきたんですよあの香水から。面識がない筈の彼女の香水の蓋から、どうしてあなたの指紋が出てきたんでしょう?」


シャルロット「そ、そんなの知らないわよ!」


警察2「とりあえず署のほうまで、任意で良いので来て下さい。取り調べながらお話はそこで聞きますので」


(警察で後日)


警察1「で、彼女の状態はどんなです?」


担当医「ええ、解離性同一症の一種だと思われます。普通は幼児期に抱えた激しいトラウマなんかがこの症状を起こすのですが、人によっては中途障害のように、同じく激しい精神の苦痛を受けた場合、この症状が現れる事があります」


警察2「その精神の苦痛とは?」


担当医「おそらく彼女…シャルロットの場合は、自分が不妊である事に激しい怒りと悲しみを覚え、それが精神を取り巻き、本人も気づかない内にその第2の人格を生み出してしまっていたのでしょう。その人格が暴走し、同じく女性である他の妊婦を見たとき激しい怒りが湧いてしまい、その感情の暴走の延長で殺害していた…おそらくそんなところだと思います」


警察2「なるほど。ガルコフの妹さんもちょうど懐妊したその直後だった。その恨みを晴らしに彼はシャルロットの自宅を突き止め、あのとき踏み込んだと言うわけか。その第2の人格は、犯罪のエキスパートだったようですね」


警察1「ふむ。リチャードがすぐに彼を殺してしまったもんだから、その辺りの事情も聞きそびれていたと言うことか。…で、彼女の記憶は?」


担当医「もう1つの怒りの人格が彼女を支配している時は、おそらく無いでしょう」


警察1「…とりあえず、同じ悲劇が繰り返されない事を祈るばかりだ」


(※)これまでにアップしてきた作品の内から私的コレクションを再アップ!

お時間があるとき、気が向いたときにご覧ください^^


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=K3FT9B490bA&t=426s

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