場面整形

ボウガ

第1話

「私はうまれたころから、人の眼におびえ続けてきました」

 アイさんはそう語る。最近電撃入籍して話題になった、未来型の歌姫である。電脳空間にて、彼女の歌声は話題となった。そしてその自信から彼女は顔だしでの活動を始め、恵まれない子供たちや貧しい人々への寄付を始めた。


 だが近頃、ある熱心なファンにおびえていたのだ。そのファンの消失から、人々は結婚相手こそが彼で、洗脳されているのではないかと苛烈な話題にし始めた。


「いいえ、違いますよ」

 アイさんと親しい記者の前で、アイさんは簡単に心を開き答えた。

「彼は確かにあの熱心なファンです、付きまといに近いこともされました、電脳空間の中でね、でも別の面があったんです」

「別の面?」

「現実です、現実で福祉活動の中で出会ったNPOの人でした、それならなおの事といわれるかもしれませんが、彼が私に話したかったことをきいてください、コレ」

 

 記者は手紙を渡された。

「私は、あなたのボランティアが売名だとするファンに納得がいきません、そのことを伝えたかったのです」

 記者はうーんと考え込んだ。そしてその熱心なファンの言動について、かつて探偵にたのんで調べたことがあったので自白した。

「その人は、今のように電脳世界であなたをいかがわしい店につれていったことがある、性的なものではなく、ガラの悪い人間たちが集う店です」

「ああ、そのことですか」

 アイさんは楽しく笑って、ワイングラスを手に取って氷をゆらした。

「あの人に頼んだんですよ、すでにあの人を気に入った後の話で、私が現実で、人とうまく話せないっていったら、彼あんな店につれていって、電脳世界ではこうできるっていって、いきなりアバターを変化させたんです、彼は周囲の人々に罵倒されました、あまりに醜く汚らしい格好ですから、でも彼はこういいました」

「なんて?」

「“これはあなた方の醜さを現した顔だ、人が集まる場では人はその場にふさわしい表情になるのだ”もちろん、周囲の人々からぼこぼこにされました、感覚接続(※五感の一部を電脳空間に接続すること)はきっておいたので、大したことはなかったんですが、恥ずかしくないかと尋ねると、彼はにっこりわらいました“あなたはあなたにふさわしい場で輝くべきだ”って」

 記者は一瞬たじろいでグラスをにぎった。

「つまり、あの人も私と一緒で、あの人の場合は電脳で人を極端に怖がって、私の場合は、現実で人を極端に怖がったってわけですね!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

場面整形 ボウガ @yumieimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る