西の魔女が死んだ 書評

@kamala_114514

西の魔女が死んだ 書評


前置き(大した事は書いてないから読まなくてイイ)

私がこの小説を読んだのは中学生2年生の頃でした。

それが、桜が舞っていた頃か、蝉がうるさく鳴いていた頃か、焼き芋が食べたくなった頃か、こたつでみかんを剥いていた頃か。時期は思い出せないですが、多分中学2年生の頃に読んだと思います。

その当時、きっとこの本のメインターゲット層だった私ですが、特に何か心に残ることもなく読み終えて、その時は、面白いと思いませんでした。

もう可愛くない程歳をとった今。もっと別の見方ができるでしょうから、本棚の奥から取り出して、再読し、書評を書こうと思います。

書評とカッコいい飾りをしておきながら、かなり散漫です。チップス形式でやっていきます。ご自愛よろしくおねがいします。


①まいちゃんについて

1-1 目

このキャラクターは凄くイイ描写で埋め尽くされている。一言で言えば、多感な神経質さん。その描写は見事です。

まいちゃんがいかに実直であるか、それは彼女の心理描写の法則から分かります。人と出会った時に、彼女が初めに出す印象は目なのです。お母さん、おばあちゃん、ゲンジさんに対しても。まずは、目の色の言及から始まる。ワザワザ言うことじゃないですが、これは人の目をよく見るということでです。これだけで多感な神経質さん。言葉だけで、設定が宙ぶらりんになることなく、キャラクターの輪郭がハッキリしますね。


1-2 植物博士

まいちゃんは、中学生1年生にしては驚くほど植物に詳しい。植物博士さんです。プラタナス、孟宗竹、楓、樫、月桂樹、勿忘草……。ザッと上げるだけでも、これだけ彼女は植物に対しての知識があります。名前は知っていても、写真でこれはカエデですかな?これは孟宗竹ですかな?もし、聞かれたら私は絶対に答えられない自負があります。

もしも、ジャイアンみたいな中学生なら、こんな描写は違和感満載です。その点、多感な神経質さん。という設定は不自然を生み出さない。

しかし、良い点ばかりではない。先ほど述べたように、この作品では非常に多くの植物が出てくる。私は野山に疎いから、8割近く分かリませんでした。ハッキリ言って悪手だと思います。

この作品では、いくつも植物を同時に並べる、俗に言う列挙をよくする。

この作品の列挙は、単調さがなく、十分に過不足ない言葉で、リズムがとても良いと思います。ですが、私みたいな無知は絵が浮かばない。どれほど凄い言葉で、見事に修飾しても、修飾先のイメージがないなら無以外の何者でもありません。

私は、知らない植物が出るたびにググって(文明の利器サマサマ)何とか追いつきました。矢継ぎ早に、文章とイメージが有機的に結びつく感覚の面白さこそ列挙の良さであって、イメージが無理ならば、私は控えるべきだと思いますね。私が無知すぎるのかも知れませんが。


1-3 共感できるのか?

ここは、青春小説だと特に重要です。共感とは、同じ気物になる。このために必要なのはリアリティです。なので、共感とはリアリティと言い切ってしまってもイイ訳です。リアリティのない青春小説なんて、誰も読まないですからね。

その点、この作品はとても共感できるポイント、リアリティに溢れています。

リアリティについて詳しく話しましょう。この作品で、一番リアリティを作り出しているのは「アイ・ノウ」このワードです。

このワードについて軽く説明すると、「おばあちゃん、大好き」まいちゃんがそう言えば「アイ・ノウ」おばあちゃんが必ずこう返す。二人の間の決まり事みたいな物です。この掛け合いは作品内で、何度も出てきます。

大好き→アイ・ノウ。矛盾のようですが、この流れ一つでは何もリアリティはないです。

しかし、作品の緻密な人物描写と結びつき、太古の昔からあるようなルールだと読者に思わせます。それは、まいちゃんと、おばあちゃんにリアリティがあるからです。二人がリアリティ溢れる人物ですから、二人の間のルールはリアリティになるのです。俗に言う炭取が回るって奴ですね。

もう一つ挙げると、私が先ほど酷評した植物の列挙でしょう。イメージができれば、放牧的な世界観というのが如実に作品全体に現れます。


②おばあちゃんについて

2-1 変人なのか?

この小説の構造は初めにおばちゃんが死んで、病院へ行く最中、回想に入る。まいちゃんと、お母さんの車でのやりとりで、おばちゃんは変人という前触れがあります。

この変人描写が初めて出てくるのはタバコのシーンです。ハッキリ言ってかなりおかしい。お母さんが居る手前では、吸わない。しかし、それは口煩く言われるからでしかない。そう書かれています。これは明らかな二律背反ですよね。愛している孫は喘息持ちな訳で、タバコを吸うなんて言語両断です。もちろん、人間はそう言った矛盾を抱える生き物です。しかし、その矛盾を成立させるとのはかなり変人な訳ですよ。


2-2 おばちゃん魔女なのか?

これはこの作品のキモですよね。どちらとも取れるような書き方ですから、作者もきっと決めていないのでしょう。キモと言っておきながら。中身が何もナイ。これは、宗教の話で、読者が信じたい方を信じればイイ話です。本当に中身がナイ(笑)。


③総評

3-1 作品について

まいちゃんの心理描写は、きっとこれを見る若い人達にとって、等身大の人物でしょう。多感で打たれやすい。でも、別に未熟な訳ではないし、物事を知らない訳ではない。衝撃を知らないのです。だから、わかっていても、受け止めることが難しい。そうした経緯で、魔女の元で修行をする。

ここの字面だけで見れば、突然ファンタジー過ぎますが、この空想感はとても作品が読みやすくなっている訳です。これがあるおかげで、おばちゃんが説教臭くないのがこの作品のとても誉めるべき点です。もし、おばあちゃんが説教臭いなら、ハッキリ言って読むのが苦痛です。ワザワザ痛いところを突かれる訳だから。

この構造はとても危うい。下手な書き方をすれば、読みたくない、読めない人がきっと出てしまう。

ですが、ここで魔法使いというファンタジーというものを加える。そうすると、それは魔法のように、読者の胸におばあちゃんの言葉がスッと落ちてくる。おばちゃんの二面性は、読者に対して、メッセージを最も伝えやすくなっています。まったく説教臭くない。


3-2 私の感想

ここまで暖かさを持ち、技量に溢れている素晴らしい作品だとは思いませんでした。ありがちな青春小説だと思った過去の自分を責めたい。

この作品は本当に本当に一度読むべきだと思います。……

語りたい事はまだまだ山ほどありますが、この素晴らしい小説の輝きを濁らせてしまうだろうから、これ以上言葉はいらないでしょう。ですが、最後に一言、私は心の底からこの作品が大好きです。イヤイヤ、別に私「アイ・ノウ」待ちしてませんからね?


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