9.じつはすごいひと

今日は午後からしとしとと雨が降っている。窓から見える空は真っ黒な雲で覆われていた。

こんな日は死んだときのことを思い出すなぁ。今思えば雷に撃たれて死ぬなんて漫画みたいな死に方してたんだよな。



「ルーシャス?どうかしたの?」



苦笑いを浮かべる俺を見て母さんが声を掛ける。流石に今日はママ友さん達もお茶会の気分じゃないようで、ずっと家にいる。



「いや、今日は何だか夜みたいだなって思って」



死んだ日のことを思い出してたなんて言えない。当たり障りのないことで誤魔化す。



「そうね~。母さんもこんな日は好きじゃないわね。動き回ってなくちゃ落ち着かないもの」



「あ、あはは…」



あんたって人は……本当に騒がしい母親だよ。父さんは普段は騎士団剣術部隊の隊長だけあって父親らしい貫禄が感じられる。…テンションが上がっちゃうとどうしようもないけど。でも母さんは常に落ち着きがない人で、やれ仕事だお茶会だと飛び回っている。その上パニックになるとどこからともなく取り出したカスタネットを鳴らしてフラメンコを踊り出す始末。こっちがパニックになるっつーの。


そんな母さんだけど実は騎士団の魔術隊に所属している。ああ見えても濃い赤色が出ていて、エリート魔術師なんだそうだ。ちなみに適正は火属性で、俺の風と同じように1つの属性に特化している。

何故そんなエリートが頻繁にお茶会をしているのか?と疑問に思ったので聞いてみたら、



「だって母さんだもの。」



と『み○を』を付け足したくなる返事が返ってきた。

全然答えになってないんですが…。



「ちょっとお買い物に行ってくるわね~」



と母さんが出ていったので、ミーナちゃんに助けを求めることにした。

あ、母さんが買い物に行ったのはイーナさんが風邪を引いたからだ。朝から干していた洗濯物をずぶ濡れになりながら取り込んでくれたらしい。イーナさん、ありがとうございます…。







「ミーナちゃーん」



「は~いただいま~」



とりあえず母さんがいない隙にミーナちゃんに答えを貰おう。








「お呼びでしょうか~?」



「あ、ミーナちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」



「なんですか~?」



「母さんいつもお茶会ばっかりやってるだろ?あれって騎士団から何も言われないの?」




「ああそれはですね~、フィエナ様のママ友さん達は避難誘導に一役かってるからですよ~」



「避難?」




「はい~、この国では力が弱くて1人で倒せるものから騎士団が総出してやっと倒せる力の強いものまで、いろんな魔獣が出るんですよ~」



「そんな物騒なものが…」



「その魔獣から避難するときにフィエナ様の指示の下でママ友さん達が近所の人の避難誘導をしてくれるんですー」




「へえ~、そんなとこで役に立つんだ。」



「はい~」


確かにそれじゃあ騎士団も母さんのお茶会サボりに文句言えないよなー。人生何が役に立つかわからないもんだね。






「知りたいことはお分かりになられましたか~?」



「うん、ありがとうミーナちゃん」



「いえ~、どういたしまして~♪」



そう言ってミーナちゃんは微笑を浮かべて小首を傾げるのだった。これ最近分かったけどミーナちゃんの癖だった。可愛らしいからいいんだけどね。

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