英雄達の往生際

金食い虫

短編

 災厄の帝王の心臓に刃が突き立てられる。それを見た俺は安堵した。仲間みんなの敵は討てたようだ。とても耳障りな断末魔が聞こえてくるのがその証明だろう。あのクソ野郎は死んだ。救世の旅は終わりを迎えた。今は救世の英雄としてではなく、ただの村人として幼馴染もう一人の英雄に声をかけてもいいだろう。


 「なあ、ヒルデ」


 「..............なに??」


 「勝ったな」


 僕としては祝福したかっただけなのだが、彼女は悲痛な声を轟かせる。


 「ええ、きっちりトドメは差したわ。でも、体が動かない。魔力欠乏状態で無理矢理魔法を使ったから命を削ったようでね、アナタを助けてあげる治癒魔法をかけることさえ出来ないわ。」


 それを聞き、僕は答える。


 「僕だって君を助けることが出来ないさ。下半身のないこの体でここまで会話できてるのにも勇者の頑丈さに感謝するぐらいだ。」


 そう、おどけて伝える。すると、またしても悲痛そうな声が聞こえた。


 「アタシは、あなたに生きていてほしかったよ。アタシが死んだとしても、アナタさえ生き残ればと思っていた。なのに、実際はやつ災厄の帝王の攻撃から私を庇ってアナタは死にかけている。こんな最悪の勝利に意味なんて「ふざけるな!!」.............!!」


 彼女は悔しげに、自嘲げに何かを口走ろうとした。だから、俺はそれを遮った。


 「俺たちは目標を達成したんだ。勇者パーティ全員の命と引き換えにな。アイツらを否定させることはやらせない。それに、その言葉は俺やお前も否定するものだ。そんなこといわないでくれよ......。」


 彼女は黙って聞いている。ならば、まだ言いたいことを言ってやるとしよう。


 「俺は、お前に憧れてた。目的のためなら大切なものをも切り捨て人を救い続ける。それは言葉にすることは簡単だが普通はできることじゃない。君の英雄症候群とでも言うべき狂気をも感じる人助け癖に僕は救われたんだ。村で孤立していた僕を救い出し、憎んでいた人類を救うための勇気を君は僕から引き出した。そして、悪の根源を討ってみせた。君は勇者の素質を持つ僕と違い、普通の女の子だったのにも関わらずだ。君の持つ圧倒的なまでの精神力が俺を支え続けた。だから僕は君に憧れ、恋焦がれている。君は僕の英雄だ。だから、卑下してほしくない。さっき犠牲を賭してまで掴んだ勝利を仲間のために否定させないと言った。それはたしかに本心だが、一番の本音は君に卑下してほしくなかったのさ。僕の英雄を。本人に否定されるなんて溜まったもんじゃない。」


 もうこの気持ちを隠すこともない。蓋をしておくのは辛かったし、それでも漏れ出ていた気持ちから仲間たちには悟られていたけど、でも、君にだけは隠し通せていた(と思う)この気持ちをまっすぐ君にぶつけることができる。

 「ヒルデ、君が好きだよ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ヒルデ、君が好きだよ。」


 この言葉にアタシは一瞬思考が停止した。死の間際で幻聴でも聞こえたのだろうか?? アタシただの村娘が好きだって?? 薄々わかってはいたけどこんな幻聴が聞こえるなんてアタシはあんたのことがこれほど好きだったのね...。でも、この恋が叶うことはない。なんてったって相手は救世主様なんですもの。平民には荷が重い相手だわ。でも、死の間際に想いを伝えるだけならば許されるかしら??


 「ねえ、アルト、私の気持ちを聞いてちょうだい。アタシはアナタが好きよ。この世の何にも代えがたい程に。アナタは救世主様で、この恋が許されざる物だとしても、気持ちだけは受け取ってちょうだい。気づかないようにしてはいてもずっと育まれてきたこの想いを。そして、謝ろうと思うわ。こんな死の間際で打ち明けたことを。でも、最期の瞬間ぐらいアタシに独占させてよね。」


 ああ、口に出してしまった。もう取り消すことは出来ない。アナタには迷惑な話かもしれない。けど、やっぱりこの想いを秘めたまま死ぬなんて出来ないよ。

 この気持ちは絶対にあってはいけないもの。でも、必然的に出来てしまったもの。どれほどアナタに助けられたか分からない。死にかけた時や辛かった時、日常な些細なことから世界の命運を分けるほどの重大なことまで、アナタはいつでもどこでも助けてくれて、いつまでもどこまでも引っ張ってくれる存在。

 いつだったか、『何故私が他人ヒトを助けるのか』と聞かれたことがあったわね。それに対しての返答は『根本的に間違っている』よ。私は他人を助けているつもりはない。ただただアナタを助けたくてアナタがしたいことを共にしていただけよ。人類が憎いと何度も口にしていたけれど、私から見ると、それ憎しみ以上に人類を愛しているように見えたわ。じゃなきゃ、他人ヒトを助けようだなんて思わないもの。自覚はなかったようだけどね。でも、そんな英雄症候群バカ他人アタシは助けられ救われたんだ。


 「ねえ、アタシの英雄さん、アナタは私の想いを受け取ってくれるかしら??」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ねえ、アタシの英雄さん、アナタは私の想いを受け取ってくれるかしら??」


 「もちろんだとも、さっきも言ったが僕は君が好きなんだから。」


 「そう、よかったわ。」


 「「アナタのことが大好き」」


 こうして、世界の英雄で互いが互いの英雄達は同時に息を引き取った。

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