色々調べ尽くした挙句の適量の睡眠薬を旦那様と奥様に盛った。


「うまく運べるかどうか分からないから、まずは軽い奥様の方から」と雄二に頼み込んで、ロッジの脇の納屋に二人して奥様を運び込んだ。穴の中に下ろして雄二が背中を見せたところでヤツの頸動脈に小柄を突き立てた。

 この小柄は新田本家の家宝で旦那様の手入れが行き届いていて物凄い切れ味だった。


 血を吹き崩れ落ちて来た雄二から身をかわし、奥様を引き摺り上げた私は穴の中で奥様を揺すり起こした。


 朦朧としている目の焦点が私に合った途端、奥様は金切声を上げて私の喉を締めにかかった。私は首に掛かろうとする両腕を必死に抑えて涙ながらに「すべての罪は私が背負いますからどうか旦那様とヨリを戻して!!」と懇願したが聞き入れてもらえず、止む無く小柄を奥様に突き立てた。



 血糊がべったりと付いた服と二人を埋め、汚れた体を清めてから……

 “死に装束”のつもりで持って来た“思い出の”パジャマを着てロッジに戻り旦那様を揺り起こした。


「ああ、今、礼華の夢を見ていたよ……」


 礼華と言われるたびに痛んだこの胸に……私は旦那様を抱いた。


「夢で礼華が居なくなったんだ……今は夢じゃなく現実だよな!」


「ええ、西崎も下山して今、この世界は……あなたと私の二人きりだから……どうかしっかりと抱いてください!」


 冬の夜は長い……にも関わらずいつまでも明けて欲しくないと私は切に切に願った。


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