鮮血の女神

taikist

1.女神の鎮魂歌

 もうこれで四回目になる。

 何度も失敗したけれど、そろそろ慣れてきた。


 最初は無我夢中で、抵抗されたくなくて、すぐに終わっちゃった。

 大声を出されちゃって、怖くなって、すぐ終わらせちゃった。

 どうしようもない消化不良。


 二回目。

 今度は叫ばれないよう、先に喉を潰すことにした。

 だけどそうしたら、またすぐに終わっちゃった。

 つまらない。


 三回目は、簡単には始めてあげなくて、じっくり焦らしてあげることにした。

 ようやくうまくいった。ようやく、満たされた。

 そう思ったのに、すぐにまた渇いてきちゃった。

 満たされない。


 だから今回も、前と同じように。

 ゆっくり丁寧に、遊ぼうね。


 眠っている間に椅子に縛り付ける。簡単に逃げられたらつまらない。


 わたしばっかり満足しちゃあ悪いから、ちょっとサービスしてあげる。


 目が覚めたところで、わたしが目の前で自分の下着を脱いで、丸めて、彼の口に突っ込んでやるのだ。その上にガムテープを貼ってあげれば、ずっと噛みしめていられるよね。

 この人にだって、最期にちょっとくらいはいい思いさせてあげないと。


 彼がくぐもった声を出して呻き、もがいている間に、わたしは自分の服を脱いでいく。彼の服は、眠ってもらっている間に脱がしておいた。

 これでお互い、生まれたままの姿同士、たっぷり楽しみましょう?


 まずはゆっくりと、左肩から肘にかけて、腕の表面を刃で撫でてやる。すると皮膚に浅い切れ込みが入り、じわぁっと赤黒い液が染み出してくる。

 それを見て、そんなに痛くないだろうに、彼は顔を歪めてみせた。


 あはっ、かわいいなぁ。大丈夫、すぐに痛いのも気持ちよくなるからね。


 同じところをもう一度、さっきよりも深く切り込んでみると、さっきよりも血の勢いが増してくる。零れ落ちないように指で掬い取って、彼に見せてやった。掌で転がし、指で撫でるようにかき混ぜる。


 これがあなたの血だよ。でも、こんなもんじゃないよね。もっときれいな色が出せるはず。もっともっと、見せて。


 傷ついた腕を両手で包み込むようにして掴み、両側へ押し広げた。裂かれた断面が見えるくらい、傷口が開かれていく。段々と力を加えていくと、肉が裂けて、深く、深く切れていくのがわかる。わたしの手で、ぷちぷちと繊維を裂いていく感覚。ああ、たまらない。

 その度に、彼は苦悶の表情で、声にならない叫びを上げていた。


 たくさんの血が流れてくる。でも、まだ赤黒い。もっと深いところ、あなたの本当の色を、わたしに見せて。


 溢れ出てくる血が勿体ないので、両の手で掬い、彼の陰茎にかけて、擦り付けてやる。

 こんな状況でも、気持ちいいんだねぇ。そろそろ、痛みの気持ちよさにも気づいてくれたかな?


 今度は傷口に向けて立てるように刃を接し、両手で構えて一気に切っ先から中ほどまでを押し込む。

 さっきとは違う、真っ赤なしぶきが噴き出した。押し込んだ刃を力任せに引き抜けば、さらに勢いよく辺りに飛び散る。それを一杯に浴びて、わたしの身体はあかに汚されていく。


 あまりの衝撃的な景色、感覚に、彼は一瞬目を見開いて、涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃになっていた。


 ほら、きれいな色。いっぱい出たね。これがあなたの本当の色なんだよ。

 もっといっぱい見せてあげるからね。


 今度は左の太ももに突き立てた刃をぐっと押し込んでやる。染み出た赤黒い血の奥から、真っ赤な鮮血が噴き上げた。


 もう、あなたの体液でべとべとだよ。ほら、あなたの血だよ。気持ちいいでしょう?


 鮮血を擦りこむように、彼の陰茎をしごく。その活力は、まだ衰えていない。

 こんなにされても、えっちな気分になれるんだねぇ。早くしないと、血がなくなって勃っていられなくなっちゃうよ。


 すると、しごいていた陰茎から、勢いよく白濁した体液が飛び出してくる。どくどくと脈打つたびに、何度か飛び出してわたしの身体にかかったけれど、呆気なく、血で洗い流されていってしまった。


 あはっ、よくできました。じゃあ、もうこれはいらないよね。最期にいっぱい気持ちよくなれたもんね。


 萎えていく肉棒に刃をかざすと、彼は抵抗しようと縛られた手足をばたつかせ、涙ぐみながら必死に何かを訴えてくる。


 ああ、こら、暴れると切れちゃうよ? 射精しちゃうほど痛いの気持ちいいのに、ここが痛くなったらどれだけ気持ちいいんだろうね。


 まだ少し粘ついた液の垂れる先っぽを愛らしくつまんでみる。

 と、不意に立てた刃を一気に引き、切り落とした。


 その途端、血の流れに呼応するように、くったりと彼の全身の力が抜けていった。

 それから、彼がふたたび目を開けることはなかった。


 最期に一度、首筋にナイフを突き立て、体重をかけて押し込んだ。途中で何かにぶつかったみたいに、それ以上刃が進まなかったけれど、強引に押し込んで、根元までしっかりと突き刺した。


 ふう、これでお遊びはおしまいね。

 全身に浴びた血はまだ固まり始めてもいない。そのままシャワー室へ入り、汚れた身体を隅々まで洗い流した。


 今日は完璧だった。失敗がないという意味で。

 だけど、何だろう。満たされない。足りない。


 どうすれば、この渇きは癒されるのだろう。

 こんなこと、あと何回繰り返せばいいのかな。

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