仙華頌籟 ~Vivid・Touring~
織羽りんご
序章
序章-1 仙華釈放、取り戻す旅路へ
ああ。また、この夢だ。
「質問、アナタは何故禁忌を犯したのですか?」
「民を、守るため──────」
そうするしかなかった。護衛の身分では限界があった。救えぬと判断したから。そして、私一人が覚醒しようとも意味がないと判断したから、私の力を民に分け与えた。
「質問、民は救えましたか?」
「─────わからない」
最後の一撃を見舞う瞬間に虹色の光に包まれ、仙界に強制転移されたのだ。どうなったのかは、わからない。
「質問、これをどう思いますか?」
「これを?」
「はい。民を救うべく立ち上がった仙人に、一切の情も無く降り注いだ罰を、アナタはどう思いますか?」
「────────────」
もちろん、それがなければ勝っていた。
「ならば今一度世界を歩んできてください。さすればアナタは、ワタシの最初で最後の協力者となるでしょう──────」
瞬間。
突如として白い光が現れた。
目を閉じていても感じられる程に、それは眩しかった。
人影が一つ。
慣れぬ光の中を必死に凝視する。
そして────────
「
◇
「信じられない……本当に千年経ったんですか?」
「正確に測った訳ではないのでわかりません。石蔵の扉が開いた、ということは千年経ったということでしょう」
それもそうだ。
わざわざ石蔵に張り付いて一千年も数える奴があるか。
千年にも及ぶ懲罰。仙人とはいえ元は人間。よく精神が壊れなかったなと、遠い昔のように思い返す。
「そいうえば
「南将軍は今、
「勝手に下頼殿に連れてったりして大丈夫なの?」
恐らく、南将軍からは何も───
「南将軍からは特に何もご命令されておりませんし、
「でも何か言われたら?」
「その時はその時です。覚悟はしています。罰がなかったらその時は奇跡が起きたのだと思ってもらって結構です」
しばらく歩いていると下頼殿が見えてくる。
□
嘗て、「匠歩国」の民に信仰され、仙界で名を知らぬ者は居なかった仙人『
だが、彼女は禁忌を犯し、人界に多大なる影響を及ぼした。
そこからは
そんな自分が、果たして徳を積めるのだろうか─────
□
ここの下頼殿の内装を見るのは初めてだ。
「そんなに気になりますか?」
「もちろん…入ったことは一度もなかったので……綺麗な所ですね」
綺麗、と言っても煌びやかな装飾がびっしりと施されているわけではない。
日が差すことで、木の深みがより滲み出ている。それに書がたくさん置いてあるのにも関わらず、埃が一切舞っていない。
これもまた、一仙人の所業なのだろう。
響く足音。
「それでは
彼女は棚から取り出した書を開く。それを覗き込むように
「現在、人界で大きな問題というものは特に起ってはいません。ですがここ最近は特殊な妖鬼[人界に住み着く鬼のこと。人の肉や骨を食べる]が出没しております」
「これは嫌な…でも千年経った今じゃあ、それ専門の者がいるんでしょう?」
「はい。もちろんそれに秀でた者は存在します。ですがこの妖鬼は少し異なります」
異なる?
この千年間で妖鬼に何らかの事が起き、それに伴って種類が増えたのか?
「この妖鬼達は体が青ではなく赤、さらには常に集団で行動をしており、その集団の名を『
「体が赤い妖鬼、さらには血を吸う……確かにこれまでの妖鬼とは異なるし、とても厄介だね」
肉や骨を食う妖鬼とは異なり、血を吸うだけ。
故に、血や肉が散乱することは無く被害を受けた人の発見がかなり困難となることが予想される。これなら人界に妖鬼に秀でた者がいても対処は難しい。
「その妖鬼の集団は今どこに」
「正確にはわかりません。あの妖鬼は特殊故、仙界にも情報が少なく完全な位置を特定することはできません。ですが人界での情報をまとめると……今、人界に降りるとなれば『
冰有国。
聞いたことはあるが、行ったことの無い場所だ。とにかく、道に迷わず、周りに迷惑かけぬよう気を付けて問題を解決しよう。
そう思うと同時に姿勢を正す。
「わかりました。では今から冰有国に向かいます。ここまでありがとうございました」
「何も武器を持たな状態で行くつもりですか?」
あ─────。
言われて初めて気付く。
さっきまで石蔵に居て鈍った感覚、そして今までは腰に剣を携えて当たり前の生活だった。故に、今自分が丸腰なことをすっかり忘れていた。
顔に熱が走る。
鏡で自分の顔を確認したくなる。
「えへへ…これは失敬。では私の剣の所へ案内してくれますか?」
だが、
「申し訳ございません。貴方の剣がある場所を知っているのは将軍等のみですので、私は案内することができません。ですが
東将軍から?…違う所属区域を統括している将軍から貰うのは初めてだ。
「剣ではありませんが、これを持っていってください」
「あ、ありがとうございます」
弓を受け取る。
手にした瞬間、通常の弓とは違った重さが腕に伝わってくる。
弓自体は初めてではない。だが、いきなりこう高級感のある弓を持たされては心が落ち着かない。壊したら、どうなっちゃうのかな────────。
「それに大変申し訳ない事を言いますが、今の貴方は仙声が低いので一人で妖血歩団を壊滅させることは不可能です」
これもまた忘れていた。
仙声は民の声、即ち仙人の力の源。
それが限りなく0に近い、いや0な私が人界に降りたとてコテンパンにやられてまた仙界に無様な姿で戻されるだけだ。再び顔に熱が走る。
「では、どうすれば……」
「安心してください。既に一人、手伝いたいと申し出ている武官がいますが、今は少し手が離せないそうなので人界での合流になります。が、これでもまだ安牌とは言えません。せめてあと二人は欲しいですが……」
「以前私に仕えていた三人の中から二人を選べば─────」
「あの御三方は貴方が石蔵に入った瞬間から将軍等の命によって独立しています。故、以前より声を掛けることは困難であります」
まぁ、そんな予感はしていた。
そう簡単な話は無いなと思っていたが、言われると余計に効く。頬を掻き、溜め息交じりに言葉を出す。
「で、では募集を続けてください。決まり次第人界へ送ってくれると助かります」
「ではそうさせていただきます。それと───」
「連絡する際はそれをお使いください。では、くれぐれもお気を付けて」
「はい」
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