魔法騎士見習いの俺は、見習いの字を取りたい

ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中

試験

 今日は待ちに待った魔法騎士団の昇級試験だ。


 俺、カミル・フィンクは、今日の昇級試験で魔法騎士見習いから魔法騎士に昇級することを目標に、この一年間努力を重ねていた。


 俺がこんなにも懸命になっているのには、勿論理由がある。


 入団から、丸二年。まだ見習いの名前が取れていないのは、同期の中で俺だけだ。だから見習いの字を取りたいのは当然ある。だけど、それよりもっと大きな理由があった。誰にも言ってない理由が。


「よーし。気合を入れて頑張るぞ……!」


 部屋の鏡の前で自分の全身を見る。魔法騎士団に所属するようになってから、こんなに鍛え続けているというのに、体つきは貧相なままだ。しかも見た目は地味な、黒髪の黒目。どう纏めようにもすぐグシャグシャになる癖っ毛。整髪料をいくら付けても、訓練が終わる頃にはボサボサになっているんだ。くそう。


 昇級試験は強さだけでなく、魔法騎士としての立ち振舞いや見た目の精悍さなども関わってくる。つまり全体的にパッとしない俺は、せめて強くないといけないってことだ。


 それでも少しはマシになりますように、と横の髪を必死に押さえつけていると、鏡の中にムカつく男の姿が映り込んできた。同室のルドルフだった。


「……なんだよ」


 鏡越しに、ギロリと睨む。


 光を浴びるとキラキラ輝く金髪に、甘く整っている癖に男らしい顔立ち。俺より頭ひとつ分背が高いが、それだけでなく身体もひと回りどころかふた回りくらい大きい。だが決して太っているということはなく、均等の取れた肢体に引き締まった筋肉は、城内の女性たちだけでなく一部の男性からも人気を博していた。


 ルドルフが、鼻で笑う。


「まだ諦めてないのか? いい加減自分の適正に合った選択をした方がカミルの為だと思うけど」

「うるせえよ!」


 腕をぶんと振り回したが、あっさり躱されてしまった。くそっ! 図体がでかい癖に素早いなんてずるいぞ!


 ルドルフはひとつ上の先輩ではあるけど、「敬語を使われると距離を感じるから」などと言い出した、礼節を守るのをよしとする騎士団の中ではなかなかな変わり者だ。


 そんなルドルフが、俺を諭すように語りかけてきた。


「魔法騎士の適正はないと入団の時に言われたんだろ? 魔道士の適正はあるんだから、そろそろ認めて僕の相棒になろうよ」

「断固として拒否するッ!」


 三年目を迎えた魔法騎士は、魔力の相性のよさから判断した魔道士と契約を結ぶのが一般的とされている。治療と攻撃、更には相棒の魔法騎士に対する補助魔法まで全てを網羅する、魔法騎士にとっていなくてはならない大切な相手だ。


 魔法騎士と魔道士は、基本同室となるが、俺とルドルフは契約なんてしていない。なのにルドルフと俺が寮で同室な理由は、入団時に魔力の相性検査をした際、俺とルドルフの相性が驚くほどいいことが判明して、何故かそのまま騎士団長に「君の部屋はここね」と強制的に決められてしまったからだった。


 契約前に同室にするという異例の出来事に、周囲は相当ざわついた。


 そもそも初年度は、適正を見る為、新人は魔法騎士希望も魔道士希望も一緒くたに扱われる。二年目になると選択を迫られるけど、この時俺は魔法騎士を選択した。その時のルドルフの驚きっぷりといったら、笑ってしまうほどのものだった。


 ルドルフは驚いた後、滅茶苦茶反論した。だけど俺がなりたいのは騎士一択。書類だって魔法騎士希望で出している。騎士団長は「うーん……そんなに頑なならお試し期間で一年だけね」と、魔法騎士見習いとしてやっていけることになったという訳だ。


 ルドルフには、他の魔道士を相棒にする選択肢もあった。だけどルドルフは「待つ」と言ってこれを拒否したんだ。中には約束した相手が騎士団に入ってくるまで待つ人もいるので、この特例が認められたらしい。


 それからというもの、憧れの騎士になるべく努力しているというのに、すぐにこいつはこうして俺を魔道士にさせようとしてきた。俺の夢を邪魔するんじゃねえ! と思うものの、罪悪感がないと言えば嘘になる。……早く既存の魔道士の中から選べばいいのに。


 ルドルフが俺の頭頂に顎を乗せた。


「団長からも、カミルが駄目なら諦めてそろそろいい加減魔道士の相棒を決めろって言われてるんだよ。余ってる魔道士を紹介されては断る俺の身にもなってくれない?」

「俺には関係ないじゃねーか! 勝手に相棒を作れよ!」


 頭を退けようとしたら、後ろから回された腕で拘束される。く……っ! この馬鹿力め!


 ルドルフが、わざとらしく寂しそうに微笑む。


「そんな寂しいこと言うなよ。僕とカミルの魔力の相性が最高にいいのは、カミルだって分かってるだろうに」

「うるせえ! 俺は騎士になるったらなるの! ずえーったいお前の魔道士になんてならねえからな!」


 ガン! と足でルドルフのスネを蹴ると、ルドルフが「イタッ!」とようやく俺を離した。ふん!


 振り返りざま、スネを擦っているルドルフをビシッと指差す。


「いいか! お前は黙って今日の結果を待ってろ! そんで今日の試験を突破して、俺だって騎士になれるってことをお前に認めさせてやるッ!」

「……どうしてそんなに騎士に拘るんだよ」


 ちょっぴり涙目になったルドルフが尋ねてきた。


 ドキッとしてしまった俺は、挙動不審げに目線を泳がす。


「おっ、お前には関係ないだろ!」

「いーや、あるね」

「ねえだろうが!」

「僕の魔道士が頑なな理由が知りたいんだよ」

「誰がお前の魔道士だ!」


 フンッと鼻息も荒く部屋を出ていこうとすると、いつもより半音低いルドルフの声が背中に投げかけられた。


「カミル、今回の試験で駄目だったら、騎士見習いの肩書もなくすのは分かってるよな」

「……分かってるよ!」


 役立たずの騎士見習いを置き続けるほど、騎士団は甘くない。もし二年目最後の昇級試験も駄目だったら、団長からは魔道士に転向することを示唆されていた。だけど俺は、密かに騎士団から去ることを決意していた。魔道士として残るなんて、あまりに惨めすぎたから。


 ルドルフが、寂しそうな声色で尋ねる。


「……ねえ、騎士に拘る理由は教えてくれないの」

「お前には関係ないっつってんだろ」


 はあー、と深い溜息が聞こえてくる。俺は振り返らないまま、扉を開けて出て行った。


「……関係なくないんだけどなあ」


 そんな呟きが聞こえてきたけど、絶対に振り返らなかった。



 そして、頑張りに頑張った昇級試験の結果、俺の昇級は見送られることになった。


 見送られるといっても、もう後はない。実質諦めないといけないってことだ。


 しょんぼりと項垂れながら、寮の部屋に戻る。こうなる可能性も見越して用意していた退団届が、自分の机の引き出しに入っている。それを団長に渡し、速やかに出ていこうと思っていた。


 部屋に戻ると、鍵がかけられている。ルドルフはいないらしい。ちょっとホッとして、鍵を開けて中に入った。俯き加減のまま机に直行し、引き出しを開ける。【退団届】と書かれた封筒を手に取った次の瞬間――。


「え」

「なにそれ」


 封筒を持った方の手首を一瞬で掴まれてしまった。慌てて振り返ると、ごっそりと表情が抜け落ちたルドルフが俺の背後に立っているじゃないか。こ、怖いんだけど!?


「ねえ、なにそれ。ここのところコソコソしたり思い詰めたような表情をしてるなと思ってたけど、退団したいほど僕のことが嫌いなのか」

「え、いや、そういう訳じゃ……」

「じゃあなんで僕の魔道士になってくれないんだよ。辞めるほど嫌だってことだろ」


 どう言えばいいのか分からなくて、無言のまま首を横に振る。


「僕に魔法をかけることがそんなに嫌か」

「……そ、そういう訳じゃ」


 いつも朗らかなルドルフの目が、ちっとも笑ってない。


「魔法騎士と魔道士は強い絆で結ばれる。騎士団に入団する条件に『嫡男でないこと』がある理由はカミルも分かっているだろう?」

「そ、そりゃまあな……」

「僕に抱かれるのがそんなに嫌?」

「……」


 魔法を使うには、魔法騎士と魔道士ができるだけ密接に触れ合うのがいいとされていた。接触の内容が濃ければ濃いほど、効果は強くなり持続もする。つまり、恋人や夫婦のような接触をする方が手っ取り早いってことだ。


 契約とは、濃い魔力の塊をお互いに注ぎ込み合い、自身の魔力と相手の魔力を交わすことを指す。契約後は、互いの魔力にのみ強く反応し、他人の魔力には鈍くなるというものだった。


 だけど、魔法騎士か魔道士のどちらかに妻がいる場合、互いに割り切れる性格だったらともかく、こまめに深い繋がりを持たなければならない彼らの間にはどうしたって溝が生まれてしまう。また、異性同士で組ませた場合、女性の方が孕んでしまえば残された方は騎士や魔道士として立ち行かなくなってしまう。


 その為、魔法騎士団では嫡男でないことが定められている上、男性しか所属できない決まりになっていた。


 ルドルフが、抑揚のない声で続ける。


「二年間、カミルが僕のことを見てくれるのを待った。カミルの可愛らしい努力は応援できないけど、懸命な姿を見ていられるのは楽しかった」

「は?」


 何を言ってるんだ、こいつは。


 ぽかんと見上げると、ルドルフが自嘲気味に笑った。


「……なのにこんなに嫌われているなんて、惨めだ」

「き、嫌ってなんか、ない」


 堂々としていたいのに、声が勝手に震える。


 ルドルフは片眉を上げると、訝しげに尋ねた。


「嘘だ。じゃあどうしていつも反発する。どうして魔法騎士を目指していた」


 じっと見つめられて、耐え切れずに目を逸らす。だけどルドルフは手首を掴んでいない方の手で俺の顎を掴むと、クイッと押し上げてしまった。


 ルドルフの端整な顔が、目前に迫る。


「なあカミル。他に好きな者でもいるのか」


 首を横に振った。


「狙っている魔道士がいるとかか?」


 もう一度、首を横に振る。


 ルドルフが俺の手を引き寄せ、ルドルフの逞しい胸板に押し付けた。


「理由を知らないままで、諦めることなどできない。なあ、頼む。本当のことを教えてくれないか」


 日頃のルドルフからは想像もつかない真剣な眼差しに、必死で堪えていた覚悟がぐらりと揺れる。


 ……そうだよ。別に言ったらいいんだ。言ってしまってスッキリして、それでルドルフとはもう二度と会わなければいいだけの話なんだから。


 そう思った瞬間、言葉が溢れてきた。


「最初、魔法騎士団に入団した時……俺、浮かれてて」

「まあ、大抵の人間はそうだな。憧れの職場だし」


 ルドルフが頷く。


「ルドルフと魔力の相性がいいって言われて、もっと浮かれちゃって」

「……え?」


 ルドルフの目が大きく見開かれた。反対に、俺の目には涙が滲み、惨めったらしく目線が落ちていく。


「周りの奴らに、貧相なくせに不釣り合いだとか、目つきが悪くてルドルフと並ぶとみっともない、ルドルフが可哀想とか」

「は?」

「どんな手を使って落としたんだ、そんなに具合がいいのか試させろって襲われたし」

「どこのどいつだ今すぐ殺す名前を言え」


 何故か光を失ったように見える目をしたルドルフが、抑揚なく尋ねてきた。


「あ、俺一応否定した上で、魔力だけはあるからさ、跳ね飛ばすことはできたから未遂だぞ」

「一切触れられなかったのなら未遂と認める」

「……ええと、最後まではさせなかった」

「どこのどいつだ今すぐ殺す名前を言え」


 ルドルフの早口に、強張っていた俺の心がフッと解れていくのが分かった。ルドルフは本気で怒ってくれている。それが何よりも嬉しい。


 だから、どれぐらいぶりなのかも忘れるくらいの久々の笑みを浮かべて、伝えることができた。


「魔道士を選択してルドルフと契約したら、こんなしょぼい俺じゃルドルフの足を引っ張るだけで、ルドルフは不幸になるって言われたんだ」

「誰に」

「ルドルフにはもっと相応しい魔道士がいる、俺じゃないのは間違いないって言われて、俺もそうかもなって思った」

「は」


 ルドルフの表情は強張ったままで、何を考えているかまでは読み取れない。


「……魔道士を選択しない時点で、騎士団を出て行こうとも思った。だけど……ルドルフ、優しいだろ。格好いいし、一緒にいて楽しいしさ。だからあと一年、いや魔法騎士になればこの先ずっと適度な距離で傍にいられるかもしれないって思ったんだ」

「カミル……」

「ルドルフってばさ、三年目なのに魔道士を決めないもんだから、ヒヤヒヤしちゃったよ! 魔法騎士を目指すって決めたら周りからの干渉は減ったから、このままうまくいけばよかったけど……もう、駄目になっちまった。はは……っ」


 瞬きと共に、大粒の涙がボタタッと落ちていった。


「俺、ルドルフに不幸になってほしくないもん。だから……退団する。元気でやれよな」


 それでも懸命に、にこりと笑いかける。


「じゃあな、ルドル――わっ!?」


 次の瞬間、俺はルドルフの逞しい腕の中に包まれていた。息をするのも辛いくらいきつく抱き締められている。……はは。最後に素敵なご褒美を貰えちゃったな、なんて思っていたら。


 耳裏に、温かい息が吹きかかった。


「お前にあることないこと吹き込んだ奴は、カミルに会う前の僕を知らない奴だな」

「えっ」


 ドキリとした。確かに、言ったのは俺の同期の奴らだ。だけどどうして――。


「カミルが来る前まで、僕は自分の力を制御できないでいた」

「え」

「剣を振り回せば勝手に魔力が暴走して周囲を焼いてしまったりしてたんだ。元々魔法騎士を目指したのも、相性のいい魔道士と巡り合う為だった」

「そう……だったんだ?」

「ああ。この部屋には特別な結界が張られていて、中で魔力が暴走しても外まで影響しないようになっている」


 そんな話は聞いてないぞ。


「カミルが来るまで、部屋の中は暴走の跡で酷い有様だった。だけどカミルと出会った瞬間、ピタリと収まったんだ」

「え」

「こんな穏やかな気持ちになれたのは、生まれて初めてだった」

「ルドルフ……」


 そうか。だからルドルフはやたらと俺を魔道士にすることに拘っていたのか。


「カミルといれば、俺は普通の人間になれる。最初はそれくらいの気持ちだった。だけどカミルと過ごす内に、カミルの一所懸命さが可愛く見えてきて。相性のよさを除いても、カミルを僕のものにしたいと思い始めていた」

「え、そ、それって」


 顔を上げようにも、後頭部を抑えつけられていて叶わない。


「カミルが魔道士になったらすぐさま契約して他の奴に取られないようにしよう。そう思っていたのに、まさか魔法騎士を選択するとは思ってもなかった」

「だ、だって……」


 ふん、とルドルフが鼻で笑う。


「僕は魔法騎士団の疫病神と言われていたのに、何がカミルが僕を不幸にする、だ。騎士団長の慈悲で置いてもらってたに過ぎない。なのに外面でしか人を見ない奴の言うことを聞いていたなんて、腸が煮えくり返るくらい悔しいよ」

「……」


 仰る通りすぎて、何も言い返せなかった。


 でも、とルドルフが続ける。


「カミルによく思われたくて格好つけていた僕が悪い。もっと恥も外聞もかなぐり捨ててカミルに縋りついて、何でも話してと言い続けるべきだったんだ」

「はは……なにそれ」


 ルドルフの言葉が温かくて、嬉しくて涙が出てきた。


 と、ルドルフがこれまでで一番低い声を出す。


「では名前を言おうか。誰がお前に馬鹿なことを吹き込んだ。誰がお前を最後まで襲おうとした」

「……」


 俺が黙り込むと、ルドルフが突然俺を抱え上げた。


「わっ!?」

「言えないのならカミルの記憶に聞くまでだ」

「は!?」

「魔法騎士団に伝わる自白魔法というものがあってね。僕がやると暴走して相手が廃人になるから使えなかったんだけど、カミルに魔力交換してもらいながらならきっとうまく使えると思うんだ」


 にっこり笑顔のルドルフに言われた俺は、提案の内容に掠れ声を漏らす。


「う、嘘だろ……?」

「僕の運命の相手であるカミルを傷つける奴なんて万死に値するからね、勿論やるよ?」


 こうしてベッドに投げ出された俺は、ルドルフと満遍なく魔力交換をしてしまい――。


 息も絶え絶えになった俺は、白旗を上げた。


「……も、もう、言ってないことはない……っ、もう、無理……っ」

「うん、ちゃんと話せていい子だったね、カミル」


 ちゅ、と自白させられている最中何度もされたキスをトドメとばかりにされた満身創痍の俺は、ルドルフに抱き枕にされながら意識を手放したのだった。



 それから暫くの後。


 俺から全部聞き出してしまったルドルフは、徹底的に魔法騎士団内の整理を行った。俺に嫌味を言ってきてた奴や、俺を襲おうとした数名は、自白させられた次の日にはボッコボコにされて退団することになっていた。仕事が早い。


 ちなみに騎士団長には「ほどほどにねー」と言われてた。ほどほどって意味をルドルフは分かってたんだろうか。それに復讐が騎士団長公認ってどうなんだ、と思ったら。


「だってルドルフとカミルって、魔力量的にも騎士団歴代一位二位を争うほど強いもんね。そんな便利で最高な駒、離す訳ないじゃーん」と騎士団長から直接返された。ノリが軽い。


 そう。滅茶苦茶相性のいい相手を見つけると、稀に相乗効果でお互いの魔力やら体力やらを最高値まで高め合うことがあるらしい。俺とルドルフが正にそれで、契約前はそこまででもなかったのに、契約後は自分でも驚くほどとんでもない状態になってしまっていた。


 魔物討伐に出かけても、あっさりと大群を駆逐して終わってしまう。怪我をしても一瞬で全快できるんだよ。本当とんでもない状態なんだけど。


 お陰さまで、俺を馬鹿にしてくる人間は魔法騎士団の中ではいなくなった。隣には、愛してやまない最高の相棒で恋人が常にいる。これが幸せでなくて何なんだろう。


「カミル。何を考えてる?」


 俺を片時も離したくないらしいルドルフは、今日も俺にくっついていては周囲の視線を感じる度睨みを利かせている。なんでも、色気が増した俺を狙っている奴を牽制しているんだとか。そんな奴いねーよと言ったら、ごめんなさいを言うまで徹底的に魔力交換をさせられたので、もう俺は余計なことは何も言わない。


「んー? 内緒」


 直接的な愛情を口にするのはまだ恥ずかしさが残っていた俺がそう答えると、ルドルフがムッとした顔になった。そのまま唇を近付けてくる。


「……自白魔法を」

「わーっ! 馬鹿! 言うってば! お、お前といられて幸せだなって思ってたの! ってこんなこと言わせんなよな!」

「照れてるカミル、可愛い」


 ルドルフが、うっとりとする。あーもう、この顔は狡いって。


「うるせ」

「ツンてなるカミルも可愛いよ」


 くす、とルドルフが俺のことを笑ったので、俺は仕返しにルドルフの頭を掴み、これでもかという濃厚なキスをお見舞いしてやったのだった。

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