第6話 ミユキ、故郷を想う
1
「遠いところ、わざわざ、来てもろうて、スマンですのう……」
そう言って、囲炉裏の前にわたしとクロウを導いたのは、初老の猟師だった。雪焼けしているような黒い肌には、深い皺がいく筋もあり、白い無精髭が、その周りを覆っている。 季節は、晩秋。山里のこの辺りは、稲刈りも終わり、冬到来の準備をする頃だ。
猟師の住まいは、その稲刈り後の田んぼを横目に、里山と呼ばれる樹木の森近くに、ぽつんと建っている。平屋の農家風のこじんまりした家だった。
「いえ、遠いと言っても、車で来れる範囲ですから……」
と、クロウが営業用言葉(トーク)で答えた。
(まあ、車じゃないと、来れないよ!近くに駅はないし、車で、五時間もかかるんだから……)
と、わたしは心の中でツッコミを入れた。
「まあ、お茶でも……」
と、三十代半ばくらいの女性が、湯飲みをわたしとクロウの前に置いた。会釈をして、湯飲みを持ちあげる。女は、静かに立ち去った。
(娘さんかしら?奥さんにしては、若いわ、よね……)
と、わたしは背中を見送る。クロウは、もんぺ姿の揺れるお尻に視線を向けていた。まあ、歳は食っているが、美人で、身体の曲線も悪くない。
「わざわざ、来てもろうたんは、もちろん、災いを、お祓いしてもらいたいがじゃが……」
と、依頼人の猟師が会話を始めた。
「先ほどの女性の方は……?」
と、クロウが訊いた。
「ああ、あれは、嫁さんじゃ!いや、ワシの嫁やない!息子の嫁!今は、後家さんじゃが……」
「後家さん?それでは、息子さんは、お亡くなりに……?」
「そうよ!お祓いの件は、その息子とも関わりがあるがよ……!」
コトは、ひと月ほど前になる。山里の農作物に被害がでた。自然災害ではない。獣による食害だった。足跡から見て、猪だろうと判断して、役場に被害届けを出して、害獣狩りの許可をもらった。狩猟許可証を持った数人が、それぞれ銃を背負って山に入った。息子も参加したひとりだった。
「大きな猪がおってのう、悪戦苦闘の末、仕留めることができた……」
山の斜面を駆け回り、二人ほど怪我をするほど手こずったらしい。その猪を担いで、山を降り、猪は解体して、村人たちに肉を分け与えた。
「弥助ゆう男がおってのう。以前は猟師じゃったが、酒癖が悪うて、猟銃の許可証を取り上げられた。けんど、猪の習性や、足跡、糞を見つけるのは、村一番。そこで、銃は持たずに、先導役を務めたのよ!その弥助が、猪(しし)の肉を食って、死んだ……」
「肉を食べて、亡くなった?毒でも入っていたのですか……?」
と、クロウが尋ねた。
(バカ!酒癖が悪い、つまり、酒好きの男が、美味い肉を手に入れたんだよ!一緒に何を食べたか、わかりゃしない!食中毒かもしれないけど、毒を盛られたわけがないだろう?キノコか河豚でも、一緒に鍋にしたかも、よ……。話しの腰を折らずに、黙って訊いていろよ……)
と、わたしは横目でクロウを睨み、心の中で呟いた。
「猪の肝臓を、まあ、生焼けで喰った所為じゃろう、と医者がゆうて、警察も来たが、食中毒で、コトは済んだ……」
(あらあら、野生の獣の肝臓を生焼けで……?そりゃあ、中毒症になるよ!どんな病原菌があるか、わかったもんじゃないだろう……?バカだね、その弥助って、野郎は……!)
「でも、コトは、それでは……、済まなかった?んです、ね……?」
と、またクロウが尋ねた。
(当たり前だろう?息子さんの死が、今回の依頼に関わっている!って、さっき、訊いたばかりだろう、が……!しかし、この爺さん、噺が上手いねぇ……!まるで、怪談噺を訊いているようだ、よ……)
※
「猟銃を使(つこ)うて、猪狩りに出かけた男のひとりに、喜八ゆうのがおって、夜中に家から火を出して、女房と二人の子供は助かったが、喜八は焼け死んだ……」
と、爺さんが噺を進める。
「火事ですか……?火元は……?それと、何故、喜八さんは、逃げ遅れたんですか……?」
と、三たびクロウが尋ねた。確認する癖があるのは、職業柄か……?でも、怪談噺の間を台無しにしている、よ……。
「それが、よくわからんがじゃ……!一旦は、逃げて、家の庭に出た。女房の顔を見て、無事を確認したそうな……。女房のトワさんが言うには、喜八が周りを見回して、『太一が居らん!』ゆうて、火の盛る家に飛び込んでいったそうな……。太一ゆうのは、下の子供、上は娘で、太一は跡取りよ!」
「でも、先ほど、奥さんと二人の子供は、無事だった!と……?三人目がいたのですか……?」
「いや!子は姉と太一の二人。太一は女房の背中に隠れて、震えていたんじゃ!喜八には、陰になって見えんかったのじゃろう……。慌てておったから、のう……」
「つまり、跡取りの長男が、火災現場の家屋に取り残されている!と、勘違いして、息子を救出するために……?」
「まあ、そうゆうことよ……」
「それは……、お気の毒です、ね……」
フッ、とため息をついて、会話を止めると、二人の男は、湯飲みを手にした。
高座の怪談噺の咄家が、間を取る仕草のように、わたしには感じた。
「三人目は……」
と、咄家が語る。
「シゲという、これも猪狩りに参加した男で、ワシの息子と同い年。一行の中では、若年者よ……!そいつは、山にキノコ採りに行って、帰って来ん。母親が心配して、ワシの息子に相談に来た。息子が、シゲがいつもキノコを採りに行く場所を知っていたから、よ……!それで、息子ともうひとりの寛太ゆう男と連れだって、山に入った。シゲは、崖下で、冷とうなっとった……!」
「つまり、キノコを採ろうとして、崖から墜ちた!ということですね……?」
「そう、考えるのが、普通じゃが、シゲの身体に、崖から墜ちてできた傷とは、思えない、傷があった……。獣の牙か、鋭い爪でつけられた、傷跡が、顔面に、な……」
「それでは、獣に襲われた?ってことですか……?まさか……?猪の仇討ち……?」
「最初は、そんな憶測をしている者もおった!寛太が、な……。何でも、シゲは、猪狩りの時に、猪の子供、うり坊を撃ち殺したんじゃ、と……!猟師が撃ち殺した大猪は、メスじゃったから、『オスの猪が、女房と子供を撃ち殺された、仇討ちをしているに、違いない!大猪を撃ち殺した弾は、自分と、ワシの息子の陽平が撃ったもんや!次は、俺か、陽平じゃ……!』と、わめき出して、のう……」
「でも、誰も信じなかった?のですね……?最初は……、と、おっしゃいましたから……?」
「シゲが墜ちた崖の上に、猪の足跡はなかったし、顔の傷も猪の牙や、噛み傷とは、違っていたので、のう……。おそらく、熊のほうじゃろう、と……。熊の足跡らしいもんがあったそうじゃから……」
「熊?この辺りには、猪ばかりか、熊も出没するのですか……?」
「ああ、熊も猪も、鹿に猿、狸や狐、穴熊に鼬鼠。ひょっとしたら、河童や天狗も出るかもしれん……!」
「河童や天狗!」
と、クロウは驚く。
(あらあら、まるで、わたしの生まれ故郷の四国の山の中と同(おんな)じだね!狐は少なかったけど、ほかに、獺もいたよ!霊媒師が驚くことじゃないだろう……?わたしの面倒をみてくれた、師匠の太夫ばあさんには、天狗に、シバテンとか猿猴とかいう河童の仲間、獺に狢、狸に鎌鼬の妖たちの知り合いが居て、わたしを狐の妖怪から、守ってくれた、そうだから……)
2
「ここが、寛太さんの家ですね……?」
と、村の中心部にある、比較的大きな農家の門の前で、クロウが言った。
「今回の本当の依頼人は、その寛太という男。本人は、猪の祟りを恐れて、この屋敷の蔵に閉じ籠って居る。お祓いをして欲しくて、友人の父親に頼んで、我々を呼び立てた、ってことか……」
クロウの勤める『心霊等研究所』に依頼の手紙が届いた。差出人は『奥野辰平』。文字は『女文字』の読み易い綺麗な文字だった。おそらく、陽平の後家さんが代筆したのだろう。
「しかし、その友人の陽平さんの死は、不思議ですね……?出没したと思われる熊を撃つ猟に出かけて、猟銃が暴発して、命を落とすなんて……!何かの祟りかもしれません、ね……?」
と、先ほど陽平の父親、辰平に訊いた、四人目の死の内容をクロウは、もう一度繰り返した。陽平が亡くなったのは、十日前。初七日の法要も終わっている。
「大猪の狩りに参加した、五人のうち、四人が、ひと月未満の間に死んだ……!食中毒に火災、獣に襲われ墜落死、猟銃の暴発、か……?すべて、死因が異なっている。警察の捜査では、事件性、つまり、殺人の可能性はない!と、結論を出した……」
「まあ、連続殺人事件ではないでしょうね……?これだけ、死因が違っているのだから……」
「なら、祟りだ!と思うのかい?何か、感じるものがあるかい?」
「今のところ、たいした浮遊霊とか、怨霊の気配は感じませんね……。ミユキさんこそ、動物霊は感じませんか……?」
クロウは、浮遊霊や生霊、死霊に何故か敏感だ。わたしは、動物霊とか、自然界の精霊と周波が合うようなのだ。猪の祟りなら、わたしのアンテナに反応があるはずなのだ。
「ないねぇ……、あの辰平の家のほうがまだ居そうな気配だったよ。鹿の頭が飾ってあったし、熊の毛皮の敷物もあった……」
「辰平は、猟師だったんでしょう?昔は……?脚を怪我して、今は細々と畑仕事をしている……?」
「ああ、息子の陽平が村役場に勤めている、いや、いた!から、生計は陽平の給料だったんだろうけど、ね……」
「まあ、とりあえず、寛太さんに会いますか?お祓いの方法は、そのあとで……」
「お祓いなんて、必要かねぇ……?御札と御守りを買ってもらうくらいが、関の山だよ……!」
※
「寛太から、訊いているよ!遠いところ、すまないねぇ……」
と、着物姿の初老の婦人が言った。この屋敷の女主人で、寛太の母親。寿美子という白髪の目立つ女性だ。
「それで、寛太さんは……?」
と、クロウが尋ねた。
「それが、気分がすぐれなくてね……。ちょっとした、ノイローゼなんだろうけど……、急に暴れたり、何かに怯えたりで……、今は、蔵の座敷で寝ているんだよ……。お医者さんに、薬を貰ってね……。何せ、猟師仲間が、次々と亡くなったものだから……、今度は、自分が殺される番だ!なんて言い続けて、ね……」
と、寿美子はゆっくりとした口調で語った。
そこへ、女中らしい女性がお茶を運んできたので、会話が中断する。
「そうですか……?ご本人に会って、お話を伺ったり、身体の周りに、悪い霊魂が纏わりついていないか、確かめたかったのですが……」
「構わなければ、一晩ここに泊まって、明日、様子を見てもらえないかねぇ……?お医者さんの谷崎先生が、往診に来るから、その時にでも……」
「わかりました。では、そのように手配してください。我々は、その間に、熊が出た辺りを見て参ります……」
と、わたしが言った。クロウは、眼を丸くしていた。
「ミユキさん!今回の依頼料を知っていますか?往復のガソリン代を引くと……」
屋敷から離れて、山のほうに向かいながら、クロウが言った。
「想像はつくね!いいよ!わたしの取り分は、ナシでも……。久しぶりに、故郷の山の景色に似た場所に来れたんだ!あんたと、ドライブのデートと思えばいい!たぶん、タダで、美味しい、山の幸をご馳走してもらえて、温泉から引いた湯に浸かれるよ……!」
この山里には、古い温泉宿があり、今は、営業していないが、源泉の湯は、近所の家々に配管を通じて供給されている。
「デート?そ、そうですね……、たいした仕事じゃなさそうだし、御札と御守りを渡せば、終わり……!温泉旅行に来たと思えば……、無料のご招待ですよね……!」
と、クロウは顔を赤らめながら、コクリと頷いた。
(可愛いヤツ……!だけど、キスもタッチもさせないよ!もちろん、寝る部屋は別々だ!夜這い、するなよ……!)
3
「この辺りでしょうか、ねぇ……?」
山道を登り、裏山の自然林の森の一角。側には崖があり、足を踏み外せば、骨折ではすみそうにない。
落ち葉や木の実、枯れ木の枝が、地面を覆っている。古い倒木には、苔やキノコの姿も見える。
「たぶんね……」
と、クロウの問いにわたしは答えた。いくつかの獣が彷徨いた、気配は感じる。
「キッ、キー!」
という声が、頭上から響いた。樹木の枝が揺れて、黒っぽい物体が、枝から枝に飛び移る姿が見えた。
「猿がいるね……!」
「猿?日本猿ですよね……?ゴリラや、雪男じゃなくて……?」
「ゴリラがいるわけないだろう?雪男や猿人は、こんな里山近くにはいないよ!身体も小さなサイズのようだよ……!」
「野生の猿が、こんな民家の近くにいるんですねぇ……」
「猪の被害があったんだよ!すぐ近くに、野生の動物のテリトリーがあるのさ!人間は、後から来た、侵入者だよ……!」
「襲ってこないでしょうね……?」
「余程、住処を荒らさない限りは……、ないと、思う……。それより、猪や熊のほうが危険だよ……!」
「熊……?そうだ!熊の足跡があった!って言ってましたよね……?それって、この辺りのことでしょうか……?」
「こう、枯れ木や落ち葉が積もっていたら、猟師か、動物の専門家じゃないと、わからないね……。熊の習性なんて、わたしは知らないよ!冬眠することくらいしか、ね……!」
「テリトリーを示すために、樹木に爪痕を残す!って聴いたことがあります……。その辺の木についていませんか……?」
「自分で調べろ!男だろう……?」
「動物は、苦手で……。ミユキさんは、得意でしょう?」
「バカ!わたしが得意なのは、動物霊だよ!狐ツキとか……。野生の熊に勝てる術は持ってないよ!出くわしたら、逃げるだけさ!あんたが、襲われている隙に、ね……!」
「ええっ!僕が犠牲になるんですか?」
「あら?あんた、前に、『わたしのためなら、死ねる!』って、岩清水君と同じセリフを言ってたよね……?」
岩清水君というのは、漫画『愛と誠』に登場する、早乙女愛に片想いの少年だ。わたしは、主人公の大賀誠より、好きなキャラクターだ。
「野生の熊に、ですか……?」
「大丈夫だよ!『式』を使って、逃げるくらいの時間は、稼げるよ!あんたも、陰陽師の末裔だろう?『式』だって、使えるだろう……?」
「熊に対応できる『式』ですか……?急に襲われたら、自信ないです……」
「まあ、とりあえず、寛太さんの母上から、貸してもらった、熊よけの鈴を鳴らしながら、進もう!」
「まだ、進むのですか……?」
「うん!この先に村の水源になっている、沼があるんだ。『緑沼』って呼ばれている、透明度の高い、綺麗な沼というより、池なんだけど、ね……」
「そこに、何のために……?」
「水源の池だ!つまり、村にとっては、命の源さ!きっと、水神さまか、龍神さまを祭っている、お社(やしろ)があると思ってね……。今、どんな状態か、確認しておきたいんだよ……」
※
「この村は、温泉の湧き出る、火山帯と、普通の山に囲まれた、盆地にあるんだ。この緑沼は、普通の山のほうにあって、雪解けの湧水がたまって、澄んだ水を湛えているんだね……。ほら、対岸に鹿がいるよ!まだ、若い鹿だね……!」
熊が出た!という崖のあった場所から、少し登った山の中腹にある、『緑沼』の縁にたどり着くと、対岸に鹿の姿があった。この沼は、野生動物の水飲み場になっているようだ。鹿は、わたしたちの気配を感じたのか、一度、耳を動かし、対岸の藪の中に姿を消した。
先程の野生の猿の気配も濃くなった。いつ猪や熊が現れてもおかしくない環境なのだ。
沼の周りには、人が通る小道がある。楕円形の沼を四分の1ほど進むと、目当てのものが見つかった。
わたしが探していた社は、思いのほか小さなものだった。しかし、古いながらも、清掃されており、供物が奉られていた。野生動物が食べないように、目の詰まった金網で囲まれている。猪や熊などの大型の獣は、水辺に囲まれている小さな岬のような地形の場所に建っているため、近づけないようなのだ。
「おやおや、弁天さまが奉られているね……?まあ、弁天さまも水の神様だけど、ね……」
社に書かれている神の名を見つけて、わたしはクロウに向かって言った。
「水神や龍神でないことが、問題になるんですか……?」
少し離れた土手からクロウが尋ねる。彼は、周りの野生動物を警戒しているのだ。
「いや!逆さ!ひょっとしたら、水神さまか、龍神さまが怒っているのか?と思っていたんだ……!弁天さまは、それほど、『祟る神様』じゃないから、ね……」
「しかも、きちんと、供物も奉られていますし、社も綺麗ですよ……」
と、わたしが感じたことと同じことをクロウは言った。
「うん!わたしの勘が、外れたみたいだね……」
金網の扉を閉めて、手を合わせ、礼をしてわたしは、土手に帰る。
「ミユキさんの勘が、外れることもあるんですねぇ……?」
「ここは、野生動物のテリトリーだ!弁天さまは、その境界に鎮座している……!人間のほうに味方するとは……、限らない?かもしれない、ね……?弁天さまのお使いは、白蛇だそうだよ!さて?白蛇の匂いって、あまり経験がないんだよ、ね……」
4
「いい湯でしたね……!」
と、湯上がりに、浴衣とドテラに着替えて、クロウが言った。
「ああ、それと、食事も美味しかった。新米の香り、鹿肉も臭みがないように処理してあった。キノコや野菜も、ヤマメかニジマスの塩焼きも……」
「久しぶりに、のんびりできました!こんな依頼なら、しょっちゅうあってもいいですね……。ミユキさんと一緒だし……」
と、熱い湯で上気している顔をさらに赤らめながら、照れたようにクロウが言った。
「バカ!まだ、仕事は終わってない!っていうか、始まってないよ!明日、寛太に会ってみないことには……」
わたしは、クロウほど楽観的な感想は持っていない。
「まあ、偶然の事故が続いたから、神経質になっているんですよ!医者の薬と、我々が心を落ち着かせる護符を渡せば、寛太さんも安心するでしょう……」
「偶然の事故、ねぇ……?三度までなら、わたしも『偶然!』って、安心させてやるけど……、四つ続くと……、誰か?か、何か?が、関わっている?と感じてしまうんだよ……」
そうなのだ!確率というものを考えれば、猪狩りに出た五人中四人が、続けて亡くなるなんて……!ツタンカーメンの呪いより、確率が高そうだ!
「でも、その誰か?も、何か?の痕跡が見えないのでしょう?」
わたしの言葉に、少しは不安感を覚えたのか、クロウが霊媒師の顔を見せる。
「我々が来る、と知って、姿を隠しているのかもしれない……。最後の事故、陽平の暴発事故から、十日が経っているんだから、ね……」
「なるほど、十日の間に、痕跡を消した……か……?そうだとしたら、その誰か?か、何か?は、かなりの術者?妖だとしたら、かなりの妖力を持ったモノ……?」
「うん!だから、あの弁天さまの力をお借りしようと思うんだよ!あの社は、きちんとしていたから、弁財天は、わたしの波動を捕らえてくれると思うんだ……」
「弁財天の真言は『オン・ソラソバテイエイ・ソワカ』ですよ……」
※
「どうも、神経衰弱のようですなぁ……」
と、往診に来て寛太を診察した、谷崎という、初老の医師が言った。
「自制心を喪失しかけている……。幻覚症状も……。蔵の明り窓から、猿が覗いている!とか、猪が扉に体当たりしたとか、熊の声がすぐ側で聴こえたとか……、あり得ないことを口走る……。精神安定剤を出しておきますから、それで、様子を見てください!とにかく、心を落ち着かせることが一番!好物を食べさせて、ゆっくり、休むことです、な……」
そう言って、医師は帰っていった。
寛太の母親、寿美子が、玄関口まで彼を見送って、ため息をつきながら、部屋に帰って来た。
「先生は、ああゆうとりますが、何ぞ悪いモンが憑いとりませんでしょうか……?」
「寛太さんの身には、悪意のある霊は、憑いていません……!ご先祖さまの霊は、守ってやろうとしているようです……」
先ほど、医師と一緒に蔵の中に入って、医師の診察中、ずっと、周りを霊視していたクロウが言った。
「まあ、ご先祖さまが……」
と、寿美子は少し安堵の表情を浮かべた。
「この家に神棚はありますか?」
と、わたしは尋ねた。
「は、はい!仏間に、神棚も……。氏神さまを……」
「では、神棚の前で、少し、ご祈祷して、護符を奉らせてください!」
わたしの言葉に、母親はよろしくお願いします、と言って、黒檀の立派な仏壇のある座敷に我々を案内した。
氏神は、八幡さま。皇大神宮の御札も飾ってある。その一段高い神棚の前に座って、寿美子には退室してもらい、護符を取り出した。昨晩白木に文字を書いた、弁財天の護符だ。
両手で護符を捧げ、額の前で、念を込めて、真言を唱える。護符を神棚の皇大神宮の御札の横に立てかけ、神棚の前に胡座をかき、柏手を叩く。
皇大神宮と八幡神に詔を捧げ、無礼の段の赦しを乞う。そして、弁財天の真言を唱えた。
「オン・ソラソバテイエイ・ソワカ」
と、三度……。
「緑沼に鎮座しておられる、弁財天さま!わたしは、ミユキと申します。無礼の段!平にご容赦くださいませ!そして、このたびのこの村での死人が発生いたした件について、ご教示賜りたく存じます……!」
5
「陽平さんの奥さまでしたよね……?」
と、わたしは、猟師の家でお茶を出してくれた女性に声をかけた。
「そちらの方は、喜八さんという、火災でお亡くなりになった方の、奥さまでしょうか……?」
陽平の未亡人の側に、同年代の着物に『もんぺ姿』も同じ、婦人がいる。場所は、緑沼の畔。弁天さまの社の側だ。どうやら、社に供物を捧げていたのは、このふたりのようだ。
「どなた、でしたっけ……?」
と、初対面の喜八の未亡人が尋ねた。
「わたしの名前は、ミユキ。こちらの者はクロウといいます。寛太さんからのご依頼でお招きいただいた、陰陽師のはしくれ、で、ございます……。失礼ですが、お二人のお名前を、お聞かせ願えますか……?」
と、わたしは丁寧な口調で問いかけた。
「ああ、そうでしたね!昨日、義父を訪ねておいでた……?わたしは、ミワ、こちらは、喜八さんの奥さまで、トワさんといいます……」
と、陽平の未亡人が言った。
「トワと申します!よろしく……。陰陽師のかたが、こんなところに、何用で……?」
と、喜八の未亡人が尋ねた。
「もちろん、今回のこの村で起きた、四つの悲劇の謎を解くためでございます……。ひとつ、お尋ねいたしますが、トワさまとミワさまは、ご姉妹(きょうだい)で、いらっしゃいますか……?お顔は、あまり似ておりませぬが、鼻筋、口元、耳の形、何より、佇まいが、そっくりでございます、ね……」
「まあ、陰陽師というかたは、そこまで、おわかりになるのですか……?」
トワが驚きの声をあげる。彼女の眼は、二重まぶたで、かなり大きい。一方、ミワは切れ長の一重まぶただ。だから、印象がまるで違う。
「それで、その悲劇の謎とやらは、解けたのでございますか……?」
と、ミワが尋ねた。
「それと、そのことで、わたしたちに、何か御用が、おありですの?」
と、トワが続いた。
「はい!このたびの悲劇は、お二方の思惑どおりに、ことが進んだようでございますね……?」
「な、何をおっしゃるの?四人の死がわたしたちの仕業だと……?わたしたちが、殺人犯と、いうのですか……?」
「四人では、ありません!三人です!そして、直接、お二方がくだした殺人ではありません!あるものが、関わっております!しかし、それは、あなた方、お二人の意志に従ったもの……」
「よくわからないわ!三人とは?誰のことで、関わっている、あるもの!って何のことなの?わたしたちを犯罪者というなら、その証拠を見せてちょうだい……!」
「わかりました。ここでは、なんですので、ミワさまのお宅で、お話しさせていただきます……。ここで話すと、弁財天さまが、お怒りになるや!も、しれませんから……」
※
「まず、三人と申しましたのは、最初の犠牲者、弥助さんは、ただの食中毒です!事件性はありません……!」
と、辰平の家の囲炉裏端に、ミワとトワ、クロウとわたしが、囲炉裏を囲むように座って、わたしが、会話を切り出した。
「つまり、最初の殺人は、火災で焼け死んだ喜八さん、ということです……!」
「わたしが、夫を殺した!というのですか?何のために……?財産なんてありませんよ!」
と、トワが興奮して問い質す。
「ですから、あなた方が直接、手をくだした殺人ではありません!しかし、あなた方は、夫と、シゲという男と、そして、寛太さんも、死んで欲しかった……!それを、願っていました、ね……?」
「願っていた……?どうして、そんなことがわかるのです?それに、願っただけでは、人は殺せませんよ……!」
「トワさん!どうやら、あなたのほうが、お姉さまのようですね……?ひとつか、ふたつ……。まあ、ここからは、昔噺と思って聴いてください!陰陽師という職業柄知り得た、誰も知らないお伽噺の始まりですよ……」
この村には、昔から、小さいながらも良泉の湧き出る温泉がありました。そして、ここから、そう遠くない場所に、遍路で有名な札所の寺があります。たまに、その札所の寺から、次の札所へ向かうお遍路さんが、この村の温泉宿に泊まることがありました。少し回り道になりますが、身体の疲れを癒す目的で、訪ねてくるのです……。
今から、二十年以上、昔のこと、そのまれに訪れる、お遍路さんがこの村にやってきました。三人連れで……。
その年は、米が不作で、この界隈の村邑は、飢饉状態でした。そんな中で巡礼をしていた三人は、空腹であり、身体も弱っていました。三人のうち、ひとりは、三十前くらいの婦人。あとのふたりは、十歳にもならない、女の子……。
温泉の湯に浸かり、身体の疲れは和らいだものの、空腹は満たされません。婦人は、温泉宿の管理人に、食事を頼みましたが、食べ物はない!と断られました。
「ここにはねぇべが、庄屋の家に行けば、猟師が仕留めた、獣の肉を保存しているから、分けてもらえるかもしれねぇダ……」
と、宿の管理人は教えてくれました。婦人は、女の子ふたりを宿に残し、教えられた庄屋の家に向かったのです……。
「そして、帰ってくることは、なかったのです……」
6
「婦人の身に何があったのか……?宿に残されたふたりには、わかりませんでした……。婦人とふたりの関係は、母と娘姉妹でした……」
明くる日、ふたりの子供たちは、母を探しに、庄屋の家に向かいます。しかし、庄屋の家で訊いた答えは、そんな女は、訪ねてこない!という言葉でした……。
そこへ、村の猟師がふたり、山で仕留めた、猪を届けにきました。何日ぶりかの獲物だったようで、庄屋の家で、大鍋を使って、村人たちと、猪汁を食べる宴が開かれました。女の子ふたりも、不憫に思われたのか、ご相伴に預かりました。
その後も、猪や鹿が捕獲されるようになり、村人は、飢饉からなんとか逃れることができ、春を迎えたのです。
女の子ふたりは、その幸運を運んできたモノとして、庄屋の家に泊め置かれ、下女として、働くことになりました。
掃除、洗濯、水汲み、食事の用意に、鶏や山羊の世話。ふたりの子供は、懸命に働きました。食べ物を得るために、まるで、奴隷のように……、もちろん、給金など、一円ももらえません!着古しのお下がりの着物と、継ぎのあたったもんぺ。寝るのは、山羊と同じ、小屋の中でした……。
わたしがそこまで噺を進めると、ミワが、クスンと、鼻を鳴らして、横に顔を背けた。目尻に涙が浮かんでいた。
「もう、沢山!いったい、何が言いたいの?ええ、あんたが喋ってる姉妹が、あたしたちのことなのは、よくわかったわ!それが、今回の出来事と、どう繋がるのよ……?」
と、ミワの涙を横目で見ながら、トワがわたしに言った。
「噺が長くなりましたかしら……?辰平さんのようには、いきません、ね……。まあ、もう少しお聴きください。噺を十年ほど進めますから……」
十年後、姉妹は大人になった。姉のトワが十九、ミワは十七。秋の豊作祝いの祭の夜……。
「ヤメテ!」
と、ミワが叫んだ。
「村の若い男たちが、奴隷同様の姉妹に、不埒な行いをした……」
わたしは、ミワの希望を無視して、冷ややかに、事実を告げた。
「何でもご存知のようね……?ミワには、つらい噺だけど、最後まで、聴く義務がありそう、ね……」
※
「しかし、イヤな事件でした、ね……」
と、ブルーバードを運転しながら、クロウが言った。
「まあ、殺人犯人として、告発するわけじゃない!陰陽師として、事実と背景を知っていることを、あの姉妹に認識してもらえたら、いいんだ……。それで、寛太の命は助かるから……、我々の仕事は完了さ!」
と、助手席のシートにもたれたままで、クロウに語りかけた。
十数年前の祭りの夜、トワとミワの姉妹は、村の若者数人に性的被害を受けた。泣き寝入りするしかなかった……。
ほぼ裸体のままで、奉公先の庄屋の家に帰った。ただ、唯一、幸運だったのは、その家の主が、女性の寿美子だったことだ。
庄屋といっても、戦後の農地改革で、所有する田畑はかなり少なくなっていて、村の権力者ではなかった。寿美子の夫は、三年ほど前に亡くなり、息子の寛太は、まだ未成年で、頼りなかった。女中の数も減っており、トワとミワは、大切な働き手だったのだ。
寿美子は、事情を訊き、翌日、村の長老たちに訴えた。ただ、加害者の中に、寛太もいたことが判明して、訴えの声は、トーンダウンしたらしい。
長老たちが下した裁定は、トワとミワを村の若者と結婚させ、身分の保証をすることだった。そして、寿美子の家の小作人だった喜八がトワと、ミワは吉松という、猟師の息子に嫁いだ。
吉松は、数年後、流行り病で亡くなり、ミワは吉松の弟の陽平と再婚した。
「最初の問題は、トワのお腹に子供がいたことね……。つまり、トワと喜八の長女は、喜八の種ではなかった……。誰の子か不明だったのよ……」
喜八は、そのことをずっと根に持っていた。そして、ある夜、酒に酔って、トワに襲いかかり、その行為をする中で、大変な秘密を暴露したのだ……。
十数年前、庄屋の家に巡礼姿の女が訪れ、食べ物を売って欲しいと言った。庄屋夫婦は、長老の家で、飢饉の対策の話し合いに出ており、不在だった。当時、小作人だった、喜八と吉松と陽平とシゲの四人は、主人の留守をいいことに、保存していた鹿肉で、濁酒を飲んでいたのだ。
トワとミワの母親は、四人の男に乱暴され、抵抗したため、首を絞められ死亡した。庄屋の息子、寛太が物音に不審を感じて、現れた時には、もう、息をしていなかった。
協議の結果、四人で死体を山に棄てることになった。事件の隠匿を図ったのだ。翌朝、日の出前に、死体は山に運ばれ、緑沼の側に埋められた……。
そのことを、喜八はトワを犯しながら、喋ったのだ……!トワは、その母親、そっくりな顔をしていた……。
「不思議なことは、その死体を埋めた時に、緑沼に猪が水を飲みに来て、吉松が持ってきていた猟銃で、その猪を射止めて、結局、トワとミワの姉妹が食べ物を得ることができたのですよ、ね……」
「母親の最後の執念かも、ね……」
7
「喜八の告白を訊いたトワは、ミワにそのことを伝えたんですね……?」
「そう!そして、母親の仇討ちを計画したのよ……。ところが、その一晩の喜八との行為で、トワは妊娠して、太一を産むことになった……」
仇討ちは、お預けになった。ただ、吉松がすぐに亡くなって、仇討ちのひとりは、消えた……。
トワとミワは、母親の眠る、緑沼の畔に出かけ、墓参りの代わりに、寂れた弁財天の社を綺麗にして、お供えを奉った。その行為が、仇討ちにつながったのだ。
「猪が、村の畑を荒す。猟師が狩りに出かける。猪は犠牲になるが、その肝臓の毒素で、ひとりが死ぬ……。仇討ちと復讐が始まったのよ……」
「弁財天の仕業ですか?」
「いや!弁財天に仕えている、二匹の白蛇の仕業ね!弁財天は、傍観者の立場だったのよ……」
喜八とトワの家の火災を白蛇が起こす。外に飛び出した喜八の耳元で、息子の太一がまだ、中にいる!と、囁いた。喜八は、太一は自分のたったひとりの肉親で、眼の中に入れても痛くない!という、可愛がりかただったから、火の中に飛び込むことは、想像に固かった。
ひとり……!トワは何もしないのに、仇討ちができた。
「シゲさんの死にも、白蛇が絡んでいるのですか?」
「そうね!わたしが弁天さまに伺った話では、キノコ採りをしていたシゲさんの前に白蛇が幻を見せて、熊に襲われた気持ちになったシゲさんが、崖から転落死したそうよ……!顔の傷は、トワとミワが、それらしい傷を後から着けたらしいけど……」
「そして、三人目は、ミワの夫の陽平さん……。猟銃の暴発も、白蛇の所為?」
「簡単ね!熊の幻を見せて、構えた銃の銃口に、石と土を詰め込んだ。猟銃が暴発して、頭に致命的なダメージを受けたのよ……」
「四人が連続して亡くなったことで、寛太さんは、気づいたのですね……?巡礼姿の女性の怨霊の祟りだと……!」
「まあ、外れだったけど、我々を呼んだのは、正解だったようね……」
※
「それで?陰陽師さんは、あたしらをどうするつもり?殺人罪で告発する?それとも、呪いをかけるのかしら……?」
と、トワが訊いた。
「いいえ!弁財天のお使いの白蛇の仕業とわかりましたので、弁天さまにお願いして、これ以上白蛇が、仇討ちを手伝うこれができないようになりました。あとは、寛太さんの精神状態を、正常に戻すだけです……!それと、最後にもうひとつ、トワさんに、お伝えすることがあります!」
「何?何をこれ以上……?」
「太一さんのお姉さんの本当の父親のことです!」
「本当の父親?あの状況で、誰の子供かわかるわけがないわ!」
「いえ!今なら、わかります!娘は、父親に似るのですから……」
「あてにならないけど、娘の八重が誰に似ているの?」
「寛太さんです!間違いなく!その八重さんは、寛太さんの子供です!寛太さんは、小さい頃から、トワさんが好きだったそうです。同じ屋敷内で暮らした、ほぼ同年代の子供ですもの……。祭の夜、ほかの男たちを言いくるめ、トワさんの中には、射精しないように、誓わしたそうです!射精したのは……」
「寛太、ひとりというのかい……?」
「そうです!そして、あなたを嫁に!と母親にねだった!しかし、反対された……。当然ですよ!親からしたら、下女以下の扱いをしていた、しかも、傷モノ……。結局、あなたは喜八さんの妻になった……。寛太さんは、ずっと、独身を通した……。そして、時々、あなたと密会して、関係を続けた……。太一さんの父親も、おそらく、寛太さんなのですよね……?姉と弟。そっくりですもの……」
「寛太は、子供の頃から、あたしと将来結婚する!って言ってたんだよ……。優しかった……。おやつを内緒で分けてくれたり……。喜八と結婚したあとも、寛太とはいい仲だった……。それで、八重が乳離れした頃に、身体を許したんだ……。太一は、その時、授かったんだ、ね……?」
そう言ったトワの眼に、涙が光っていた。わたしは、無言で、礼をして、真言を唱えて、その場を立ち去った。
「寛太さんのお母さんの寿美子さん!寛太さんとトワさんの結婚を許してくれますかねぇ……?」
と、村の灯りが遠ざかり、峠を越えて、大きな街の灯りが見え初めた時、運転席のクロウが言った。
トワとミワの姉妹と別れたあと、わたしたちは、寛太の屋敷に戻り、寛太の厄祓いの方法について提案したのだ。寛太の嫁にトワをもらって、妹のミワも、この屋敷で暮らすことを……。
「寛太さんを見守っている、ご先祖さまの霊魂がそれを望んでいます!トワさんのふたりのお子さんは、寛太さんの子供ですから……、この家の血筋の、跡取りですよ……!」
と、少々の嘘──ご先祖さまウンウンの部分──を交えて、寿美子に提案したのだった。
「まあ、そこまでは、我々の仕事の範疇じゃないし、他人の幸福は、ドラマだけでたくさんさ!」
「でも、わからないことがあるなぁ……!弁財天の意志じゃなくて、お使いの白蛇が、どうしてふたりの仇討ちに助っ人?というより、実際に手を下すなんてことをしたんでしょうね……?神様のお使いは、人命を奪ってはいけないはずですよね……?」
「実際に手を下してないのさ!耳元で囁いたり、幻を見せたり、銃口に物を入れただけ……。殺人事件にならなかっただろう?ギリギリ、セーフなのさ!だけど、白蛇が動いたのは、妹のミワの所為だろうね……」
「ミワさんが何かしたのですか?」
「あの女には、蛇性の匂いがする。きっと、母方の血統に、そういう人間がいて、先祖返りをしているんだろう……。かなりの霊能者の素質があるよ!本人は、気づいてないけど、ね……。」
「霊能者……?ああ、そういえば、ミユキさん、今回、我々のことを『陰陽師』って称していましたね?いつもは、『霊媒師』だったのに……?」
「それは、あの山里の所為さ!故郷を想い出してね……。わたしは故郷の師匠が呼ばれている『太夫』ってのが好きなんだよ!でも、こっちでは、太夫さんは、別の商売だろう?霊媒師って、ちょっと、こんな山里には、似合わない!と思って、『陰陽師のはしくれ』なんて、言っちまったのさ……。もう、いいだろう?わたしは、疲れているんだ!家に帰り着くまで、眠らしておくれ!デートは終わりだよ!マイ・ダーリン……」
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