4-8 命と弔い、あっちで会えれば
「はい、起きてください! 起きてください!」
電車を壊したのが関係しているのか、意識を取り戻す人が増えてきた。ただ、多くの人がきっかけが必要だからと簡易的なシンバルを作った。
破壊したコントロールパネルの中で音がなりそうなパーツを使って作ったものだが、想像よりも大きな音が鳴って大体の人がこれで起きた。
「起きた人は周りの人を起こしてくださいね!」
「もう大丈夫です! 目を覚ましましょう!」
起きなかった人も周りの人に起こさせる。これで取り残される人は居なくなるはずだ。一番手前から一番奥まで全ての車両でこれをやった後、もう一度、鳴らしながら元の車両に戻っていく。
「そう言えば、小猿って食べられるですか?」
「食べられる。小猿を連れていけることもある」
「いや、そうじゃなくて、ここでなら小猿は食べられるんですか?」
小猿のほとんどは峰打ちにしたと言っていたけど、中には死んでしまった小猿も居た。相手に殺気があったからとは言え、殺してしまった以上は捨てて命を無駄遣いしたくない。それをしてしまうと小猿と同じ穴に入ってしまう気がする。
「言うと思ってな。調理道具を持ってきた」
「さすがです!」
クーラーボックスを床に置き、中からガスバーナーと固形燃料、そして小さな鍋を取りだした。
クーラーボックスから出したものはお守りとカプセルとか小さいものばかりで、何でクーラーボックスを持ってきたのか謎だったけど、納得がいった。
「何してるんすか?」
すっかりテンションが落ち着いた弟さんがやってきた。さっきから小猿を一つ一つ確認して、死体を並べている。鎮魂のつもりだろうか。
「小猿を食べようかなって」
「あ、食べるんすか! 良かったぁ」
「良かった?」
「自分が入ってる組織が特殊な鉄則があって」
「食べない、売らないものは殺さない。万が一、それ以外で殺さなきゃいけなかったら、礼節を持って弔う。それが自分らの鉄則っす」
「拳や棒で殺すのだって対等になるためですし」
喰村さんが狩人と言っていた意味がわかった。弟さんが所属している組織は命を奪うことを自覚して、命に礼節を持って接している。
無闇に命は奪わず、食べるため、生きるために狩りをするなんて素敵じゃないか。
そう言えば弟さんはエル・シウテクトリとか言っていたな。エル・〇〇ってスペイン語だったし、どちらかと言うとメキシコのプロレスラーのイメージがある。
もしかしたら、メキシコの死の価値観、サンタ・ムエルテが根底にある組織なんだろうか。死は生の一部であり、崇高なものであり、何よりも平等なものである。
いや、違う気がする。もっと原始的で死の恐怖を知るからこそ、命を尊び、死を自覚する。死が当たり前に存在することを理解し、その上で死と生を尊ぶ。そんな意味合いのような気がする。
自分で考えても結論が出ることはない。だから、聞いてみることにした。
「サンタム・エルテ的なやつですか?」
「一部っすけどね。色んなところの寄せ集めって感じっすよ」
「命があるから自分らは生きてる。命があるから死がある。死は常に隣にあるが怖いものではない。終わりがあるから、この生は楽しまなければいけない」
「ただ、自分らも命を奪うことがある。命を奪う以上は、原始的な方法で命と向き合う。命が奪われたものを食べる時は最大限の敬意を持って接する」
「まぁ、死は怖いっすけどね。心では思っていても、本能は覆せないっす。先輩とかにはすごい人居るっすけど、自分はまだまだ」
私の命の価値観に近い。話していることにとても共感出来て、話を聞いていて楽しい。あんなに意味がわからなかったのに、理念を聞くと全ての行動に納得がいく。
いや、あの無類の強さに関しては意味がわからないままだけど、行動の理屈に関しては納得がいく。
もう一度、拍手をしたいくらいだ。
「火がついた。猿夢の調理についてだが」
「あれ……何だこれ」
弟さんの足元から光がポロポロと昇り始めた。光と共に足がどんどんと透明になっていく。
「……早いな。壊したからか」
「もう少しで、アンタは現実に戻る」
「食えないってことっすか!?」
「調理をしている間に消えるだろうな。俺たちも調理中に戻される」
「……なら、弔います!」
並べられた小猿の死体の前に立つと、彼は自分の指先を噛み切った。ポタポタと小猿に自分の血を垂らしていく。
「自分らは、殺したやつの血をかけるんです」
「死後の世界には番人が居て、辛い死に方をした人、戦って死んだ人、幸せに死んだ人をそれぞれの世界に振り分ける」
「辛い死に方をした人、戦って死んだ人は天国に、幸せに死んだ者は生前の行いで行き場所を振り分けられる」
「だから、殺したやつの血を持っていかせるんです」
「命を奪った存在の血は最上位の武勲っすからね」
「間違って地獄にいかないように」
死後の世界については私は何もわからないし、なるようになれと思っている。でも、こうやって死を弔う姿勢は尊敬が出来る。宗教というのはそういうものなんだろうけど。
「これで、終わりっすね」
「ありがとう。それで、猿の持ち帰り方だが、消える直前に猿を持っていると持ち帰れることがある」
「……アンタの集団では弔ったものは食べれるのか?」
「食べる分には制限はないっす!」
「じゃあ、これ握って」
床に並べられた猿の中から二匹を持ち上げ、弟さんに渡した。すぐにもう二匹持ち上げて私の方にも差し出してきた。
「面舐もだ。三人で六匹、試行回数があがる」
編集長が居たら持つの嫌がりそうだなぁ。
別に私は嫌ではないので直ぐに受けとって両手で握り締めた。喰村さんはまた二匹、持ち上げ、私と弟さんの顔を一回ずつ見た。
「石腸、お前が起きたら、俺たちも起きる」
「その時に猿を持ってたら一緒に食おう」
「うっす、食べましょう!」
弟さんの体はもう半分消えかかっている。段々と消えるスピードが上がっていき、思ったよりもすぐに姿を消した。消えたのを確認すると私達は同時にお互いの顔を見た。
「それじゃ、あっちで会いましょ」
「あぁ、あっちでな」
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