4-7 大立ち回り

「旦那、ここから出るには何をすればいい!」

「あ? 俺か?」

「旦那以外に居ねぇだろ」


 弟さんの力に怯えたのか、これ以上、関わるのは命に関わると思ったのか小猿は奥の車両に逃げていった。落ち着いた現場に興奮した弟さん、エル・シウテクトリと呼ぶべきか、何にせよ彼が喰村さんに問いかけた。


「出るだけなら、念じれば出れるが」

「出るだけじゃダメだ。ここに乗ってる乗客を解放するにはどうしたらいい」

「なら、車両を壊せばいい。この先に車掌室がある。猿の頭の部分だな。それを壊せば制御を失い緊急停止する」

「なら、決まりだな」


 何かが決まったらしい。

 確かにこの電車の乗客全員を助けたいが、小猿は車掌室を守るように車両の先頭に集まっている。確かに弟さんは無類の強さを持っているが、前に行けば行くほど小猿は多く数の利で押し負けるに決まっている。


「姐さんも、さっきはありがとな」

「こんな小猿に俺は負けそうになっていた……気付かせてくれたのはあなただ」

「あ、はい、どういたしまして……」


 再起して欲しいとは思ったけど、ここまで立ち上がるとは思わなかった。むしろ、最初よりも大きくなってしまっている。頼もしいことはいいことだけど、変化を見ると温度差で風邪をひきそうだ。


「それじゃあ、行くか、姐さんと旦那は俺の後ろに隠れていてくれ」

「このエル・シウテクトリが全力で守ってみせる」


 あまりにも逞しくなりすぎじゃない?

 さっきまで弱々しく死のうとしていた人には到底見えない。正気を取り戻したからとは思えないほどの変わりようだ。

 この人、本当に死にたがっていたんだっけ。こんなに逞しい人なら、猿夢なんて恐れないんじゃないか?

 いや、今がおかしいのか。闘争に駆り立てられてアドレナリンが大量に放出されて、テンションが異常に上がっているだけなのかもしれない。何にしても変わりすぎているけど。


 弟さんは前に進み始めた。車両を区切る扉を開けると、小猿の群れが一斉に私たちの方を見た。


『次は〜挽肉〜挽肉〜』


 小猿達はプロペラが回る鉄塊を構えた。

 小猿達は一斉に弟さんに襲い掛かるが、的確にプロペラの中心を砕いていき、相手の武器を順番に無力化していく。相手を次々と無力化しながら歩いていく弟さんの後ろをついていくと、すぐに次の車両が見えてきた。


『次は〜串刺し〜串刺し〜』


 車両を跨ぐと共にアナウンスが鳴った。小猿は鉄の串を構えて待ち構えている。次々と襲いかかってくる小猿達を的確に平手でかき分けていき、どんどんと前に進んでいく。すると次の車両が見えた。


「次が最後の車両だ。これを進んだらコントロールルームがある」


 車両を移ると、小猿達は巨大なミートハンマーを構えて待っていた。これは叩き潰しとかだろう。


『次は〜叩き潰し〜叩き潰し〜』


 合ってたね。

 弟さんは小猿が振り下ろしてきたハンマーを両手で受け止めると、頭をがっしりと掴み、そのまま地面に叩きつけた。小猿の手から離れ、転がったハンマーを拾い上げると、頭を折りただの棒きれにし、軽そうにくるくると振り回した。

 次々と襲いかかる小猿達を棒きれで薙ぎ払っていく。最後の車両を守るためだろう、小猿は大量にいたが、弟さんは疲れることなく小猿達を一掃した。

 あまりの大立ち回りに拍手をしたくなったが、逸る気持ちを押さえ込んだ。命のやり取りを茶化してはいけない。


「コントロールルーム、あれか」

「素手で行くのは危ない。ハンマーを使え」


 喰村さんはその場に落ちていたハンマーを拾い上げ、弟さんに渡した。彼は素直にハンマーを受け取り、コントロールルームの中に入っていく。


「小猿達よ。俺の勝ちだ!」


 コントロールルームの中の機械を次々に叩き壊していく。叩く度に外郭が粉々になっていき、基盤に達した瞬間、キキキキキと言う甲高い音とともに車体がガクンと揺れて、動きを止めた。


「勝者、エル・シウテクトリ!」

「若き炎の戦士は、理不尽の化身、人知を超える存在に打ち勝ち! 新たなる伝説をこの世界に刻み込んだ!」


 拳を天高く突き上げて勝鬨をあげる弟さん、いや、エル・シウテクトリに思わず拍手をしてしまった。それほど、猿夢に打ち勝った彼は美しかったのだ。

 あまりにも異常な光景だったが、終わって思い返してみれば、全てが神話のように美しかったのかもしれない。


 絶対に違う。テンションに飲まれているだけ!

 正気になれ私!

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