第1話 すべての始まり

 召喚は、ある日突然行われた。


「有紗ちゃん、こんにちは」


「玲香さんこんにちは!」


「有紗ちゃんはいつも元気ね。ほんと、私にはまぶしいわ……」


「いやいや、玲香さんもまぶしいときはあるって」


 玲香さんは父の命の恩人で、私の家庭教師であり友達でもあった。


 濡れ羽色の髪をハーフアップにして、いつも濡れ羽色の目を輝かせている。


 超大企業の社長の娘さんでもあるらしいけど、この人にとってそんなことは関係ないらしく、気さくで話しかけやすい雰囲気がある。


 ただ、同時にほんの少しだけ感じられるファンタジーな雰囲気に目を瞑ればだけど。ただの勘だし、実際にファンタジー的な力を見たわけではない。何より、ファンタジーなんて実際にあるはずがないのだ。


「今日は漢字を覚えたかテストね!」


「え~」


「こういう定期的なテストが意外と重要だったりするから」


「わかってるって。ただ、テンション下がらない?」


「そう?」


「うん、そ……え?」


 しゃべっていると、突然視界が白だけになる。すぐに自身が光っているだけだと気づいた。


 こんなこと初めてだったから、戸惑った。そして何も抵抗できないままいたら、突然身体が浮いた感覚がした。浮いた感覚が収まったと思って思わず閉じていた目をあけると。


 赤と金で彩られたいかにもお城といった空間にいた。


「はい?」


「お目覚めになられましたか!」


「はいぃ?」


「あなた様は今、我がエスペランザ王城に降り立ったのですぞ!」


 とりあえず、この人たちが話している言語はわかる。母親に「いずれ必要になるから」と言われて仕込まれた……ええと、確かカナダ語だっけ。確かに必要になったな。


 お母さん、予言でもできたのかな。明らかに外国人というか白人の見た目以外は普通だったけどな。


 それにしてもものすごくざわざわしてて、日本語なら平気で聞き取れる人数も、カナダ語だったら聞き取れないんだけど。


 人混みは苦手だけど、外国語ならマシかも……そんなことはないか。


「静粛に!あなた様のお名前は?」


神代かみしろ有紗ありさです」


「アリサ様ですね。アリサ様にはこれからやってほしいことがあります」


「なんですか、やってほしいことって」


「アリサ様には魔王を討伐していただきたい」


「はい?」


 要求がわけわからないんですけど。魔王ってファンタジーの話だよね?そんな魔王なんているわけない。


 でも、目の前の多分大臣の白髪ハゲおじさんは、さも当然魔王がいたかのように言ってた。嘘でも冗談でもないとしたら、魔王は存在するってことになる。


 もしかして、ウェブ小説でよくある異世界召喚とか異世界転移ってやつかな?そうだとしたらものすごく辻褄は合う。


 そして、ここに呼び出されたってことは、何の素質もないなんてことはないと信じたい。追放ものにつながるような話ではあり得るから困る。


 そこで気づいた。


 異世界召喚ってだいたい元の世界に戻れない。それに、素質があるにしてもないにしても辛い目にはあう。


 そう思うと、涙目になりそうだった。今すぐ玲香さんに会いたかった。


「———アリサ様?」


「は、はい!なんでしょうか!」


「アリサ様にはこれから適性検査を受けていただきたい」


 適性検査って何?何の適性なの?そう思いながらも腕を引っ張って連れていかれる。


 ちなみに適性検査は、ひたすら測定器的なものを取り付けられて何かを測ってるみたいだった。説明を聞いてもカナダ語(?)が未熟だったからか意味が分からなかったよ。


「今日の予定はこれ以上ないのでごゆっくり休まれてください」


「わかりました」


「おい、そこの侍女。最上級の客室を使って最大限もてなせ」


「かしこまりました!」


 とりあえず、今の待遇はよさそう。あとは適性があることを祈るのとひたすら努力するしかない。元の世界にとっては神隠しだけど、玲香さんが上手く説明してくれることを祈ってこっちで頑張ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 06:00 予定は変更される可能性があります

異世界召喚された王国がやたらホワイトな件〜この異世界、発達障害持ちに対してやたら優しいんですけど〜 Mtoo @Mtoo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画