第8話「たぶん友達」

 夕食後のカフェテリア。

 四人がけの丸テーブルで、ヴォルフとジェル姉の二人が向かい合ってお茶してた。姉御は入口に背を向けている。そうしてもらったのだ。

 俺は気配を消して、カフェテリアに突入する。

 そして、二人の間にさっと座る。

「よおっ!」

 姉御は黙りこくった。ティーカップを口につけたまま横目で俺をジロリ。

「謝りました」

「うん。知ってる……」

「ごめんなさい……」

 俺は両手をテーブルについて軽く頭を下げた。

 姉がソーサーにティーカップを静かに置く。少しだけ俺の方に体を向け、顔はそっぼを向いたまま。

「私もごめん。……叩いちゃって……」

「うん。めっちゃ痛かった。」

 俺はビンタされた左頬をに手を当てて笑った。

「良かった。ちゃんと仲直りされて」

 旧友が胸を撫で下ろす。

「そりゃ、いつまでも気不味いままでいるわけにはいかんやろ」

「そうですけど、色々あって家族で揉めて没交渉なんてザラらしいですよ」

「そうなの?」

 ジェル姉が眉間にしわ寄せる。

「跡目争い以外でも、遺産相続や年老いた両親をどう引き取るかとかで揉めるとか……。うちは妹なので遺産相続くらいですか、揉めそうなのは」

「あー、それ、もしかしておばちゃんが言ってた?」

「子供の頃ですけどね。仲の良い御婦人方とお茶会で」

 あぁ、あの人ならさもありなんとばかりに俺と姉御は一瞬顔見合わせた。

「カルヴィン様。そろそろ何かしらご注文お願いします!」

 カウンターから身を乗り出してエイミー嬢が叫ぶ。

「放課後、貸し切り代払ったやんけ!」

「あの後、お客さん来なくなってトントンなんです!」

 なんじゃそりゃ!

「なら、姉御のローズヒップティー持ってきて!」

「かしこまりました!」

 カフェの姐御は右手を額に少し崩した敬礼ポーズをした。

 あこぎやなー。

「あんた、わざわざそんな事を……」

 呆れた顔してる姐御。

「ヴォルフ様まで巻き込んで、あんた馬鹿なのね!」

「うるさい! ええ女とええ関係を築くには、手間と暇と金がかかるんや!」

「まるで私が金食い虫みたいな風に言わないでよ!」

 ヴォルフが笑いを堪えている。

 エミちゃんや、他の学生も。

 そんなこんなで姉弟ゲンカの幕は閉じた。


 それから、俺は似非姫達と特別仲良くなった……わけではない。

 相変わらず似非白雪姫のアナベルは、うちの姉御の腰巾着的に纏わりついている。具体的に何の話をしてるのかは、俺は知らない。

 ただ、勤労奨学生のエイミー嬢曰く。

「あの方、ちょっと丸くなりましたよ」

 だとさ。

 お姉らがはまってた俺はタイトルを知らない乙女ゲームのストーリーラインから逸脱したのかは判らん。

 俺は、悪役令嬢であるジェルトリュード・クラインという女が、普通の令嬢で幸せに過ごせているならそれでいい……。

 そうすれば、俺の死亡フラグは回避できるのだから。

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