【短編版】気高い薔薇の育て方!「俺と姉御と白雪姫」
セキぴこ(石平直之)
第1話「うっとおしい女」
俺と姉のジェルトリュードが一緒に飯を食ってる時は、宿舎の一階や食堂で鉢合わせたからだ。先約がいなければ情報交換兼ねて相席をする。
二人でいると、大体ピンクちゃんらが隣にくる。でなかったら、同じ地属性者の交流会になる事もあるが、今日はちょっと違った。
「一緒によろしいですか?」と、尋ねてきたのは、トレーを持った似非三姫の似非白雪姫だった。後ろにはいつものお供女二人がいる。
俺は無言で、そいつを見上げた。
「どうぞ」と、言ったのはジェル姉だ。
「ありがとうございますー!」
いそいそとジェル姉の隣に陣取る似非白雪姫。
その隣に似非シンデレラ。
俺の隣の席の隣にキャロリン。
何故俺の隣に座らんのだ……。いや別に座らんでもええけど。
入学当初から、こいつらは腰巾着的に姉御に纏わりついてくる。
話しかけてくる時は、姉御が一人でいる場合だ。
ピンクちゃん達や、俺なんかがいると避ける。
だから俺と一緒にいるのにも関わらずやって来たのは珍しい。
こいつらが俺に話しかけてこないのは、以前カフェテリアに呼び出して、釘を刺したからだ。
「この学園で過度な身分差別するなら姉御とかかわってくれるな」と。超意訳。
飯を掻き込みながら斜め前の似非白雪姫を俺は観察していた。
しかしまあなんですな。
この女、よくもまあジェル姉へのおべっかと、他人様の悪口をぺらぺらぺらぺらと尽きねーなーと呆れていた。
「今日のジェル様はキレがありましたわ。とても素敵でした」
「ありがとう」
彼女らが話してるのは、剣術の授業の事だ。一年の女子はフルーレを使う。軽い上、防御もし易いからだ。
二年生で男子みたいな剣術も習うらしい。
俺ら姉弟は、先生雇って実家で練習していたので、経験値0の同級生と比べたら出来ているのは当然だ。
「でも、わざわざジェル様がお手を差し出す必要はございませんわ。後ろに転ばれたのはあの人の自己責任です。下級貴族だからかしら、鈍臭いったらありゃしない。ジェル様の美しい御手が汚れますわよ」
「そうですね」
合いの手入れるのは、似非シンデレラだ。キャロリンは黙って聞いているだけ。
「剣術にしろ武術の稽古って、お相手あっての事だから。それに、速く次の人達に代わってあげたかったのよ」
「それにしても、あの方ったら本当にどうしようもないですわね。毎回、剣を持つ手が震えているのを見ると、笑いを堪えるのが大変ですもの。あの程度の技量でよくもまあ、貴族の名を名乗れるものですこと。あの方が次の試合でまた転びゃしないか、こっちはハラハラものですのよ。きっとまた滑稽な姿を無様に見せてくれるに違いありませんわね」
「お前、ええ加減にせえよ!」
俺はキレた。
「よくもまあ、ぺらぺらぺらぺらと他人の悪口言え倒せるよな! どういう神経してんの? お前の親は、どういう教育してんの? 親が親なら子も子か? そりゃな、お貴族様やってたら、身分マウント教養マウントあるぞ。でも、ここの学園では建前上、差別や嫌がらせはすんなってなってんやぞ。そんなに出自自慢したかったら王都の学院に行けばよかったのにな。あそこは、大した能力なくても出自マウントで毎日盛り上がってるからな!」
「ちょっとやめなさいよ」
制止しようとする姉御の言葉も無視して俺は続ける。
「そういうつもりじゃ」
「はっ? うちの姉御にすり寄ってきたのも、王子様の婚約者だからでしょー? 何かやらかして婚約破棄にでもなったら真っ先に裏切る顔つきしといて厚かましいんだよ」
俺は立ち上がって、まだ半分食べかけのパンが乗ったトレーを取った。
「俺はお前に会った時から、お前の事が大嫌いなんじゃっ!」
怒鳴りつけた後、俺はそのままカウンターに向かった。
残りのパンをぐしゃっと握り潰し、口にぐっと押し込んでトレーを返却する。
気が付いたら食堂は静まり返っていた。
気不味さと怒りの勢いで、俺は自室に戻った。
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