一つ、星を集めて

朱田空央

一つ、星を集めて

 満月の夜。満天の星々を眺めて、私は物思いに耽る。ここは運河がとてもよく映えるのだ。

「綺麗だなぁ……」

 幼少期から、この浜辺で夜を過ごした。田舎の港町で生まれ育った私は、都会に憧れて、上京して、就職して、でもダメだった。パワハラ上等の劣悪な職場環境。納期はギリギリで、次々と人が辞めていく職場。


「お前の代わりなんていくらでもいるんだからな!」

「すみません……」

「納期! 納期を守れ! このノロマが!」

「すみません……」

「こんなことも出来ないのにどうやって生きてきたの?」

「すみません……」

「邪魔。さっさとどいてくんない?」

「すみません……」


 私も心ない言葉に耐えられなくなって、1ヶ月で辞めた。そうしてなけなしのお金で帰省して、今は実家の手伝いをしながら、たまにこうしてこの景色を眺める。

「あ……」

 流れ星が一つ、駆け抜けていった。手を伸ばして、星を掴もうとする。

 手の内には何もない。けど、こうやってを集めていると、いつかいいことがある、と亡くなったおばあちゃんから聞いたことがある。

「あるのかな? だって、私……」

 落伍者だよ。そう思いつつ、でも、何かに縋るしかない私は、明日も星を集めているのだろう。

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一つ、星を集めて 朱田空央 @sorao_akada

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