学園

 次回は9時と18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ


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「そういえば、ユリスって学園に通わないの?」


 遠くに聳える雪の積もった山々がよく見える、辺境伯家の屋敷の庭にて。

 大きなカバンにいそいそと何やらお菓子やら着替えやらを詰め込んでいるユリスへ、リーゼロッテはふと尋ねた。


「学園って、王立センシア学園のこと? 随分唐突だね」

「いえ、年齢的には入学する歳じゃない? 屋敷に学生服どころかパンフレットすら届いてないから、行く気はあるのか不思議に思ったの」


 ユリスは今年で十五歳。

 貴族の子供達が学園に通うのは、一部の例外を除いて十五歳からの三年間と決まっている。

 にもかかわらず、ユリスは行く気配などなく今日まで寝たり食べたり遊んだりの堕落し切った生活を送っていた。

 それを思い出し、リーゼロッテは尋ねたのだろう。


「絶対に行かないけど? 行ったらどれだけ僕のタイムスケジュールが侵されると思ってるの? 食べる寝るの生活サンドイッチの中に勉強努力仕事が挟まるなんて断固ごめんだね!」

「あなたのサンドイッチの中身、そろそろ遊びばかりじゃなくて別の具材でも入れてみたら?」

「その予定は一切ない! っていうか、もう入学申請期限過ぎてるよ。基本的に、王立センシア学園は入学する半年前に申請を出して、その二ヶ月後に試験を受ける―――もう入学まで二ヶ月切ってる今じゃ、突撃訪問に金貨を添えたって間に合わないね」


 いそいそと詰め込みながら口にするユリスに、思わずリーゼロッテは驚いてしまう。


「意外と詳しいわね」

「まぁ、姉さんや兄さんが通ってたし。んで、帰省の度に両手足縛られながら学園のこと聞かされてたし……」

「昔からユリスって可愛がられてたのね。なんだか羨ましいわ」

「え、今羨ましがられる要素あった?」


 両手足を身内に縛られたのに羨ましいってこの子も少し変わっているな、なんて思ったユリスであった。


「王立センシア学園って確か、全寮制……って話だったわよね?」

「そうそう、王立センシア学園に通う人って基本的に各地の貴族の子供とか他国のお偉いさんとか、世界的に影響力のある人とかだから遠方も多いし、寮を設けないと毎日通うなんて難しいからね。実際に、こんな辺境から王都ってどれだけ急いでも一ヶ月はかかるし」


 王立センシア学園は王家が運営する、国で一番の学び舎だ。

 入学金がかなりの高額なため平民は中々通えないが、手が届く貴族達はごぞって集まってくる。

 将来を考えた時の貴族界での縁作り、最高の環境での勉学、憧れの人間による指導、経歴作りなどなど。

 そのため、各地から足を運んでくる人も多く、通うことを考慮して学園側は寮を用意していた。

 ユリスの姉や兄も、辺境からということでしっかりと三年間を寮で過ごしていたらしい。


「あと、学園が運営する騎士団とか魔法士とかあってさ、任務とかで夜遅くなるからってちゃんと用意されてるんだって」

「そういえばお姉様は騎士団、お兄様は魔法士団に入ってたのよね?」

「うん、ちなみに姉さんは騎士団長してて、生徒会にも入ってた」

「優秀ねぇ……どこの誰かさんとは違って」


 近くからメイドのジト目が突き刺さる。

 とはいえ、すこぶるいまさらな話にユリスは気にする様子もなかった。


「っていうか、同い歳さんなリーゼロッテは通わなくていいの? なんか僕の記憶を遡ってもメイド業に勤しんでいる姿しか見てないんだけど」

「んー……同じことを家から言われたけど、正直あなたが通うつもりがないなら私も通うつもりはないのよね」


 なんで? と、ユリスは首を傾げる。

 すると、リーゼロッテは口元を緩めながら……そっと、ユリスの耳元で呟いた。


「私、学園に行くより

「ッ!?」

「レディーにここまで言わせたんだから、ちゃんとこれからも傍に置いてね♪」


 耳元で囁かれたからか、それとも直球ストレートすぎる言葉を向けられたからか。

 ユリスの心臓が一瞬跳ね上がり、思わず顔が真っ赤になってしまう。


「それに、学園で教えてもらえる卒業までの履修範囲……もう全部学び終えてるのよ」

「さ、流石は……メイドをしている理由が一切分からないほどのハイスペックっぷりなもので」

「そうは言うけど、あなたの方が魔法も剣も上じゃない。まだ一回も勝てたことがないのだけれど?」

「男のプライド的に負けるわけにはいかないからね……」

「あの『男が背伸びをしてかっこよく見せたい時に使う都合のいい言葉』の問題ね」

「おっと、今世界で活躍する男を敵にする発言を聞いたぞ男として看過できないと思われるッ!」


 ただ、あながち間違っていないのでこれといった反論もできないのだが。


「正直、よく分からないのよ……社交界でそういう人を色々見せられてきたけれど、背伸びしてる感と必死感が伝わってきてかっこいいとは思えないし」

「ぬぐっ!」

「かっこ悪いのを隠そうとして、逆にかっこ悪い部分を相手に教えているというか」

「がはっ!」


 男のプライドを大事にしてきたユリスの心へ、思わぬダメージが。


「ぐすん……今までそういう風に見られてたんだね。狭くて暗くて恥を隠してくれる穴はどこ? 穴があったら入りたい……」


 胸を押さえ、過去に張った男のプライドを思い出して苦しみ始めるユリス。

 すると、リーゼロッテはユリスの背中へ徐に抱き着きいて笑顔を見せた。


「他の男の子は知らないけど、ユリスはそのままでもかっこいいから大丈夫よ♪」

「……フォローありがと」

「むぅ……別にフォローでもないのだけれど」


 鈍感さんな少年は頬を膨らませるメイドの女の子に抱き着かれながら、少しばかりメンタルが回復したので引き続きカバンへ荷物を積み込み始める。

 そして、ようやく———


「よし! 家出の準備完了!」

「えいっ♪(パチンッ)」


 ―――カバンが盛大に燃えた。


「僕の五個目のカバンがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」


 背後から指を鳴らしたかのような音が聞こえたかと思えば、せっかく詰め込んだカバンが一瞬で燃え……灰になってしまった。

 そのことに、ユリスは瞳に涙を浮かべずにはいられない。


「あなたも懲りないわねぇ……お姉様から長期のかくれんぼをさせないようにお願いされてるって言ったじゃない」

「……僕、これでもうカバンのストックどころか下着のストックもなくなったんだけど」

「私の履けばいいじゃない」

「アウト! 色んな意味でアウトッ! リーゼロッテから赤だろうが黒だろうが下着を受け取った時点でどの角度から見ても変態さんになるんだけど!?」


 悪評を気にしないユリスくんでも、流石にそのレッテルだけは看過できなかったようだ。


「も、もういいよっ! とりあえず、今日は一旦きっと多分恐らく家出はしないから―――」

「予防線のオンパレードね」

「とにかく街に出て下着類を購入しないと! まだまだ肌寒い日にノーパンなんて僕のナニもびっくりしちゃうからね!」


 そう言って、ユリスは勢いよく立ち上がって屋敷の門へと歩き始める。

 逃げ出さないようにするためか、それとも甘えたいのか、リーゼロッテは歩くユリスの手を嬉しそうに握った。


 ―――その時だった。

 門の入り口まで歩いていたユリスの足が止まったのは。

 それどころか、いきなり回れ右をし始めようとしたが、握られているリーゼロッテの手のせいで動けなかった。


「……リーゼロッテ、一旦僕の手を離してくれないかな?」

「え、嫌よ」

「あとでなでなででも膝枕でも添い寝でもしてあげるから、お願いします僕の手を離してくださいッ!」

「魅力的なご提案だけど、却下させてもらうわ」


 だって、と。

 リーゼロッテは門の方へと視線を向ける。

 そこには、が馬から降りる姿があった。


「ま、まず……ッ!」


 そして、その女性は突然こちらに向かって走り出し―――


「ユーくん、ただいまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 勢いよく、ユリスの顔へ飛び膝蹴りを叩き込んだ。


「ぶべらっ!?」


 ユリスの体が盛大に吹き飛んでいく。

 地面を転がりながら豪快な衝撃音と共に屋敷の壁へと激突するユリス。

 その姿を見て、リーゼロッテは少し不満そうに呟いたのであった。


「むぅ……もうちょっと手、繋ぎたかった」

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