第5話「日本、長瀬商店」

 ここは、日本。

 県境を結ぶ国道が通っているくらいしか特徴がない山峡にある長瀬村。


 村一番の商店(と言っても、小さなスーパー程度の規模だが)、長瀬商店の店主の孫娘、長瀬菜々香ながせ ななかは、


「お客さんこないなあ」


 と、つぶやきながら品出しをしている途中だった。


「あ、あれ?」


 さっき並べたばかりの調味料がごっそり消えている。

 まさか、こんな田舎で万引き?


 そう思ったのだが、消えた商品のところに『代金です』という走り書きされたメモとともに、まばゆいばかりの金貨が置いてあるのを発見した。


「お、おばあちゃ~ん!」


 店主の珠江たまえが、後ろからのぞき込むとおやまあと拾い上げる。


「うん、こりゃ本物の金だ。この重さだと、ざっと時価で三十万くらいか、得したねぇ」


 金貨をガリッと噛んで笑う珠江に、菜々香がツッコむ。


「なんでおばあちゃんそんなに落ち着いてるの。金貨だよ、金貨!」

「まあ、長いこと商売やってるとこんなこともあるもんさ」


 ホッホッホと笑っている珠江に、なんだか菜々香も騒いでるのがバカらしくなって品出しに戻ったのだが、倉庫に行ってまた悲鳴をあげた。


「おばあちゃ~ん! 在庫の味噌とかも全部なくなってて、金貨に変わってるううぅぅ!」


 おやおやと、歩いていく珠江。

 孫娘のところにいくと、金貨とともにまた『お釣りはいりません。また取引お願いします。砂川アキト』と走り書きがしてあるメモが残されていた。


「釣りはいらないか。ありがたいこったけど、買っていったのはどこのお大尽様なんだろうかねえ」

「おばあちゃん! 買って行ったのはアキトさんって人みたいだよ。知ってる?」


「さあ、うちの村の人間じゃないね。それにしても、この金貨は一体どこの国のものだい?」


 それは、人生経験豊富な商売人の珠江ですら見たことがない、不思議なデザインの金貨であった。

 これより品物が金貨や謎の金属に変わるという不思議な事件が世界の各所で起こるのだが、これは最初の始まりであった。

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